ウルグアイ内政・外交:9月
●8月末に議会に提出された5カ年予算案を巡り、政府は全国労働総同盟(Pit-CNT)など各種労組、また国防省軍関係者からの予算案修正要求等を受け、労組側は10月にゼネストを実行すると決定。
●与党左派拡大戦線(FA)党は、経済開発機構(OECD)のタックス・ヘイブンに関するグレー・リストからウルグアイが脱却するために、銀行情報の開示規制緩和法案を可決させるため、野党との協議後大枠の合意に至り、近く右法案を上院に提出する見込み。
●これまで2度国民投票で否決された失効法の無効化法案が、28日、野党の反対を押し切り、FA党のイニシアティブで下院に提出された。
●政府は、フォークランド諸島行きの英国艦船によるウルグアイへの寄港を拒否、これまで通りの決定としつつも、事実上、亜との関係を優先した。
●7日、ムヒカ大統領は、キューバ人権擁護者等からなるキューバ反体制活動家代表団との面会を受け入れたため、キューバ政府との関係が懸念されている。
<本文>
1.内政
(1)5カ年予算案
8月31日に5カ年予算案が議会に提出された。重点分野は、治安、教育、住宅、インフラ整備の4点。3月のムヒカ大統領就任式演説において、同大統領は教育の重要性を強く主張、また他3課題についても今政権の優先課題として言及しており、右4重点分野は歳出概算の3分の2を占めている。また、国家改革のもと、国家公務員採用システム及び人事関連の見直しや給与体系、昇進システム、並びに職場における余剰人材の再分配など、国家公務員改革も断行される。現在、下院における審議が行われる一方で、全国労働総同盟(Pit-CNT)や公務員同盟(COFE)をはじめとした各種労働組合は、予算案修正を求め政府と衝突、10月7日にゼネストを実施するとした。なお、右5カ年予算案の特徴は以下のとおり。
(ア)年平均合計222,390,737千ペソ(約111億ドル)の歳出概算(約11億ドル(18%)の歳出増)で、全15府省庁において6%~54%の増額。
(イ)中央官庁公務員の最低賃金は、週40時間勤務でこれまでの月額4,799ペソ(約240米ドル)から14,400ペソ(約720米ドル)の約300%増。
(ウ)財源確保に関し、政府は慎重な経済予測による概算としているものの、野党及びエコノミスト等は非常に楽観的、且つ危険な見通しとして危惧。
(2)大統領府コーディネーターの派遣
8月、政府は、中央政府予算による地方でのインフラ整備運営や中央と地方政府の調整を行うため、各県庁への大統領府コーディネーター派遣を5カ年予算案に盛り込んだが、野党及び地方政府は中央政府による権力の行使であるとし反対。一方で、「ム」大統領は国民党Alianza Nacional派のララニャガ上院議員と協議を繰り返し、地域統合を進め各県の責務を減らすことを更なる目的として、18人の各県への派遣から5、6人の地域コーディネーター派遣とすることで国民党からの合意を得た。しかし、未だ野党内では本件実施への批判が根強く、今後も協議が継続される。
(3)銀行情報の開示規制緩和法案
5カ年予算案の上院における審議が10月中旬から始まることにも鑑み、FA党は銀行情報の開示規制緩和法案について、それまでに上院で可決させたい模様。FA党は、同法案は経済開発機構(OECD)のタックス・ヘイブンに関するグレーリストからウルグアイが脱却するためにも必要であるとし、(ア)国税庁が銀行情報の開示を要請した際、十分な根拠と脱税の疑惑が認められる場合、司法は右を認めること、(イ)二重課税防止条約を締結した国から銀行情報の開示要請があった場合、迅速な対応を可能とする司法システムの構築、(ウ)右のための税務特別裁判所を設置することを検討している。なお、ウルグアイは、既にドイツ、メキシコ、ポルトガル、スペイン、フランスと二重課税防止条約を締結済みで、10月にはスイスとの締結が予定されている。
(4)失効法の無効化法案
28日、失効法(当館注:軍事政権時に行われた軍人による人権侵害を免責とする法律)を無効とする法案が、下院に提出された。右は、与党左派拡大戦線(FA)党によるイニシアティブで、10月末に米州機構人権委員会から当国が制裁を受けることを回避することを目的とするものであり、FA党は同法案をできるだけ早く可決させたい模様。一方、野党は、本件はこれまで歴史的にも物議をかもしてきた法案(当館注:同趣旨の法律はこれまで、1989年及び2009年の国民投票においてもそれぞれ否決されている)であることから、可決を急ぐ与党の姿勢に反発している。
(5)FA党関連
(ア)FA党総会
11日及び12日にFA党総会が開催され、党内反省が試みられた。反省点として顕著なものは、若者の政治参加不足への懸念、政治勢力間でのコミュニケーション問題、政治勢力と社会の間でのコミュニケーション不足、左派連立構造の機能問題、政治面や選挙面で合意に至る上での困難であった。今後11月に再度総会が開催される由。
(イ)2014年大統領選挙候補者
FA党トポランスキー上院議員(ムヒカ大統領夫人)は、バスケス前大統領はできるだけ早くFA党次期大統領選挙候補者として出馬するか否かにつき決定すべきであり、同前大統領が立候補しない場合は、新たな候補者擁立が必要であると主張。しかし、「バ」前大統領は右に反応せず、「ム」大統領やボノミ内相をはじめ、FA党各方面からも時期尚早であるとの批判があがった。
(6)国防関係
(ア)8月10日、一連の海軍不正資材購入問題が原因で海軍最高司令官が辞任したため、1日、ロサディージャ国防大臣は、アルベルト・カラメス氏を同最高司令官として任命した。
(イ)バスケス前政権時、既に創設されていた国防大臣直属の軍参謀総長(陸・海・空軍の最高司令官の上に位置し、日本での統合幕僚長にあたる)にボニージャ空軍最高司令官が任命された。同役職は政治任命職(Cargo de Confianza)で、軍隊での予算運営の最高責任及び監督などのコーディネーター役。空席となった空軍最高司令官には、元空軍戦隊マルティネス司令官(バスケス前大統領の元補佐官)を任命。10月20日に就任予定。
(ウ)5カ年予算案における軍人の給料増額が著しく少なかったのを不満とし、22日までに中佐クラス153人が辞表を提出。中佐クラスでは、特定の条件下では、職務を遂行するより退役し年金を受給する方が受給額が高いことも関係している。
(エ)海軍の不正資材購入問題につき、陸・空軍においても、軍車両の密輸や武器、制服類の盗難品の保存など20にわたる告発があり、関係機関における真相究明が急がれる。
(7)その他
(ア)バスケス前政権時に可決された反たばこ関連法が、今年2月、米フィリップ・モリス社により投資促進保護条約に違反しているとして世銀国際投資紛争解決センター(ICSID)に提訴され、右提訴撤回のため法令緩和を試みるムヒカ大統領と、同法令を可決させたバスケス前大統領間で摩擦が生じていたが、「ム」大統領は「バ」前大統領と電話で会談を繰り返した結果、「バ」前大統領の立場を受け入れ、今後同社と争う姿勢を明らかにし、その準備を開始した。
(イ)カネロネス県で1億5千万ドルの債務による財政危機が発覚。現在、同県には20万人の未納税者がおり、特に多額債務者2,000人による債務が2,000万ドル以上に及んでいることを踏まえ、カランブラ県知事は政府に対し、今後債務回収のための政策支援を訴えている。
(ウ)世論調査会社Equipos Moriによると、8月末時点でのムヒカ大統領の支持率は63%、不支持は16%、「どちらでもない」が18%。
(エ)15日、ムヒカ大統領は、中国を含む外国政府及び外国企業によるウルグアイの土地購入に懸念を示し、「ム」政権の間は外国政府や外国企業によるウルグアイの国土の購入は認めないと強調し、ウルグアイ農村協会に本件に関する方策につき調査、分析を依頼した。
(オ)ムヒカ大統領が、ブラジルの雑誌の取材に対し「民間企業の国有化は、抑圧的な官僚主義を引き起こすため、既に限界の見えた方策である」と述べたことに対し、国家水道局など国有化された企業は「ム」大統領の発言を批判した。
2.外交
(1)対アルゼンチン関係
(ア)ウルグアイ外務省は、最大懸念事項の一つであったウルグアイ川におけるモニタリング体制整備につき、両国間の合意が得られたことにより、現在は次のテーマとしてマルティン・ガルシア運河浚渫の可能性を亜と協議中であるが、亜の保護主義的政策により協議は難航する見込み。
(イ)アルマグロ外相によるUPM社工場の将来的な撤去は不可能であるとの表明に反対し、亜グアレグアイチュ市の環境活動家らは、以前封鎖していたフライベントス市の国際橋梁を毎週日曜日数時間封鎖したが、同環境活動家らへの支持の減少が顕著となっている。
(ウ)ウルグアイ政府は、フォークランド諸島行きの英国艦船によるウルグアイへの寄港を拒否、これまで通りの決定としつつも、事実上、亜との関係を優先した。右に関し、22日、フェルナンデス亜大統領が「ウ」側に謝意を表する一方、ムヒカ大統領は当地英国大使館へ赴き、ミュレー大使に事情を説明、理解を求めた。また、ヘーグ英外相はウルグアイの対応を尊重すると発表した。
(2)対米関係
ウルグアイ政府と米国国防省の間で、青少年向けの社会センター建設を目的とする覚書が締結された。同センターの建設は、米国の南方指令軍によって管理されている人道的援助プログラムの枠組みで実施され、同地区に建設された保健施設を補完すると同時に、若者に、教育、スポーツまたは社会的活動の場を与えることを目的としている。
(3)対キューバ関係
60年代、キューバとも深い関係を持ったムヒカ大統領は、7日、キューバ人権擁護者や元政治囚からなるキューバ反体制活動家代表団との面会を受け入れたラ米左派政権初の大統領となった。右は、与党共産党派からの批判を招いたが、「ム」大統領は今回の面会は野党からの要求に応えるためとしたが、本件を受け、両国間で毎年開催される外相会合は来年に繰り越されることとなり、今後の対キューバ外交が懸念される。
(4)第65回国連総会へのアルマグロ外相の出席
29日、アルマグロ外相は第65回国連総会に出席し、一般討論演説で2016~2017年の非常任理事国への立候補を公式表明し、米国による対キューバ経済制裁を批判、国内また世界における貧困削減への約束を訴えた。更に、アラブ首長国連邦、カナダ、キプロス、南アフリカの外相と個別の二国間アジェンダについて協議したほか、国連安保理非常任理事国への当国の立候補について各国に支持を要請した。
(5)その他
(ア)アルマグロ外相はFA党政治執行部に対して、中期的にALBAへの加盟を達成するために努力しており、右が今政権の任期満了前であることを望むとともに、ALBAに近い位置にいることは、MERCOSUR及びUNASURからの離反を意味するものではない旨述べた。
(イ)24日、アルマグロ外相とバングーラ・シエラレオネ外務国際協力大臣は、外交関係を樹立するための共同コミュニケに署名し、シエラレオネにおける平和構築プロセスに関連する活動や同国の治安改善のための協力を行う可能性を検討、また、政治、経済、貿易及び文化面での協力の可能性を確認した。
(ウ)26日、コンデ外務次官はルーマニア・ウルグアイ間で開催される第5回外務省二国間協議に出席するためルーマニアを訪れ、コステア・ルーマニア外務大臣と会談。1990年に締結された二国間投資促進保護協定追加議定書に署名、また、ルーマニアとウルグアイの外交官学校間の協力覚書に署名した。その後、セルビア共和国、チェコ共和国及びギリシャを訪問し、各国と内務関連につき協議した。
(エ)30日、ウルグアイ政府は、同日エクアドルで発生した国家警察のメンバーによる公的施設の占拠及びコレア大統領に対する攻撃を政府声明により非難し、右紛争の早急な解決を模索するコレア大統領の取り組みを支持した。
3.社会
(1)治安
(ア)1日、ボノミ内相は経営大学主催の治安シンポジウムにおいて、多発傾向が見られる組織犯罪に注目している旨を述べ、昨年発生したセルビア人グループによる約2トンのコカイン密輸事件等を例に取り、外国人の組織犯罪グループが国内の犯罪者に多くの情報提供を行い、これまで国内において見られなかった短時間誘拐等の犯罪が多発する傾向が見られ、今後は組織犯罪に対処する能力を強める必要がある等と述べた。
(イ)1日、INAU(ウルグアイ青少年局)コロニア・ベーロ施設において5人の未成年者による集団脱走事件が発生した。この中には先月発生した連続短時間誘拐グループの構成員や個人商店主に対する強盗殺人を犯した未成年も含まれていた。
(ウ)2日、一昨年に当国金融の中心地区となるべく整備されたワールドトレードセンタービル内の両替商「ガジェス」に武装した4人組の強盗団が押し入り、現金7万米ドルを強奪、逃走した。同ビルは最新式の警備体制を誇っていたことから、関係者等は大きな衝撃を受けている。
(エ)14日、日本大使公邸等が所在する高級住宅地「カラスコ地区」において在ウルグアイ・エジプト大使公邸に武装した2人組の強盗が押し入り、邸内に侵入、同公邸の警備員と銃撃戦を行い、逃走した。なお同地区では9月に、強盗殺人事件など4件の重大事件が発生、当地主要「エル・パイス」紙が「高級住宅街の治安低下」とする特集記事を掲載。
(オ)カトリック大学が市民約500名を対象に治安に関するアンケートを実施。回答者のうち71%が治安に問題があると回答し、51%が強盗などの街頭犯罪に恐怖を覚える旨回答。
(カ)INAUは、コロニア県ヌエボ・パルミラ港付近において、未成年者の買春が横行していることを指摘。また、エゼイロ国連人身売買特別報告者は当地での調査を実施、当国では人身売買が増加しているとし、当国における状況調査を行うなどのレコメンデーションを発した。
(2)その他
8日~19日まで、プラド見本市が開催され、400以上にわたる牧畜関連のスタンドが設置され、52万7千人の観客が訪れた。