ウルグアイ内政・外交動向(2008年9月)
●概要
(1)内政面
アストリ経済財務相が上院議員に戻ることを期に、FA党各派閥が12月の党大会を前に、ムヒカとアストリのどちらをFA大統領候補として支持するか一段と議論が熱を帯びてきた。バスケス大統領はアストリが大統領候補、ムヒカ副大統領候補との組み合わせが望ましいと公言してきたが、大統領選挙キャンペーンからは距離を置く姿勢を貫いている。他方、国民党のララニャガ大統領候補も要職を退いた。
2009年度の補正予算が成立。他方で、原子力発電所の国内建設の是非についての議論も始まった。
(2)外交面
・バスケス大統領のUNASUR(南米諸国連合)緊急首脳会議出席。
・フェルナンデス外相のNY訪問(第63回国連総会出席)。
・憲仁親王妃久子(高円宮妃)殿下のウルグアイ訪問。
●内政
(1)FA党主要集会日程
1日、FA党政治執行部は、本年中のFA党主要会合の日程を決定し、12月13、14日の党大会を前に、FA党大統領候補者をノミネートするため12月6日に全国総会を開催することを決議した。
(2)支持率
24日、世論調査会社Cifra社がテレビ番組の中で公表した9月上旬実施のアンケート結果によると、現時点における各党への支持率は、FA党43%、国民党37%、コロラド党9%、独立党1%という結果であった。
2009年6月のFA党党内選挙で誰に投票するかとの質問に関しては、49%がムヒカ候補(MPP)、32%がアストリ候補(アサンブレア・ウルグアイ)、14%がバスケス現大統領(社会党)を支持するとの結果になった。他方、 2009年10月の大統領選挙に関しては、ムヒカ候補支持45%、アストリ候補支持33%、バスケス現大統領支持が11%との結果になった。(いずれもFA支持者への調査)
国民党党内選挙に関しては、ララニャガ候補(アリアンサ・ナシオナル)47%、ラカジェ候補(Unidad Nacional) 44%、ビダリン候補(Soplan Vientos Nuevos)6%。一方、大統領選挙に関しては、ラカジェ候補 46%、ララニャガ候補43%、ビダリン候補5%という支持率分布となった。(いずれも国民党支持者への調査)
コロラド党党内選挙に関しては、ボルダベリー候補(バモス・ウルグアイ)59%、ルイス・イエロ候補(フォロ・バジスタ)22%、ホセ・アモリン候補(Batllismo Siglo XXI)6%。大統領選挙に関しては、ボルダベリー候補54%、ルイス・イエロ候補14%、サンギネッティ元大統領(コロラド党幹事長)11%、バジェ前大統領5%という結果になった。(いずれもコロラド党支持者への調査)
(3)大統領選に向けた国民党の動き
27日、国民党党大会が開催され、ララニャガ国民党執行委員長が同職を辞任することを表明した。これにより、同党は既に名乗りを上げているラカジェ元大統領及びビダリン・ドゥラスノ県知事の3名により党内選挙を争うこととなった。
(4)原子力発電所建設に向けた審議
(イ)バスケス大統領による原子力エネルギー活用の提案
8月下旬の外遊中にイスラエル及び韓国にて原子力エネルギー関連施設を視察したバスケス大統領は、3日韓国にて、エネルギー不足の解決策としてウルグアイに原子力発電所を建設する可能性についてマスコミに語った。
バスケス大統領は、原子力発電所の建設は、エネルギー供給の他国依存度を減らし、ウルグアイに主権をもたらすとし、1997年に成立した核エネルギー発電・購入を禁ずる法律の廃止に前向きな姿勢を示した。
この大統領の考えに関し、FA党内有力者等の反応は様々で、アストリ経済財務相は賛成。しかし、ムヒカ上院議員は、経済危機に見舞われた場合に原子力発電所の維持費用を捻出できなくなる可能性を懸念。ガルガノ上院議員は、まず核廃棄物をどのように処理するのかを議論しなければならないとの立場をとった。
(ロ)バスケス大統領の提案に対する野党からの支持表明
22日、バスケス大統領はララニャガ上院議員(国民党執行委員会委員長)及びサンギネッティ元大統領(コロラド党幹事長)を個別に官邸に招き、ウルグアイ国内における原子力エネルギー発電の可能性等について話し合った。両人ともに、原子力エネルギーによる発電に賛意を表し、核エネルギー利用を禁じる法律廃止に賛成と述べた。
(5)経済財務相の交代
18日、経済財務省においてアストリ前経済財務相とガルシア新経済財務相の交代式典が行われた(15日予定であったが、プルナ航空運営問題を巡る国会質疑に応じるため18日に延期)。右式典には、バスケス大統領の代理としてトゥルネ内務相が出席した他、閣僚メンバー、トマ大統領府長官、ムヒカ上院議員を初めとしたFA党議員ら及び経済財務省職員が出席した。出席者からは、アストリ経済財務相の功績に対して改めて高い評価が示されるとともに、ガルシア新経済財務相がこれまでのマクロ経済政策を継続する旨約束した。
(6)国会審議
(イ)2009年度(注:年度は1月~12月)補正予算案審議
(a)8日、下院は、上院にて加えられた補正予算案への修正を受け入れ、与党議員の賛成票のみで可決した。
(b)15日の閣議にて、バスケス大統領は、政府の政策の幅を狭めることに反対するとして、「2010年3月1日まで政府がテレビ・ラジオ周波数の譲渡を行うことを禁止する」との条項に対し拒否権を行使した。なお、大統領拒否権は、両院総会の5分の3の反対で否決され得る。
(c)30日両院総会が開催され、バスケス大統領による拒否権行使を否決しない旨決議した。以上をもって2009年度補正予算成立が認められた。
(ロ)年金制度の見直し法案
9日、政府は、年金制度見直し法案を公表した。現在、60歳で退職(年金受給権)するためには、35年間勤労したことを社会保障銀行(BPS)に認定して貰う必要があるが、右を30年勤労に、また、これまで高齢者特別退職年齢は70歳(勤労15年以上)と規定されてきたが右を65歳に引き下げることが主な見直し内容。
また、女性就労者に関して、子供一名毎(養子も含む)に1年間働いたものとして計算する修正も特筆に値する。社会保障銀行(BPS)の試算によれば、この法案が成立すると、年換算で1千万ドルから2600万ドルの追加支出が必要となる。
この法案は、今後国会で審議されることになる。
(ハ)中絶合法化法案の進捗状況
16日、中絶合法化を含む法案(el proyecto de ley de Salud Sexual y Reproductiva)に関し、下院の与党FA議員5名が反対票に回る可能性が高くなり、下院で法案通過のために必要な過半数50名の合意が取れないとして、FAは11月4日まで投票を先延ばしすることを決めた。
(ニ)除細動機設置法
16日、両院総会は、私有地・公有地を問わず、多数の人々が出入りする施設においては、少なくとも1台の除細動機を整備することを義務づける法律を承認した。この法律は10月14日の公示から180日で施行する。
(ホ)失業保険給付改革法案
8月4日、バスケス大統領は失業保険給付改革法案(失業保険給付に関して柔軟な対応を可能にするもの)の国会への提出に合意。同法案は9月23日下院で可決され、上院での審議にまわされた。今法案では、50歳以上の労働者の場合、再就職が難しい事を考慮して、従来の6ヶ月から12ヶ月まで失業保険の給付期間が延ばされる他、失業者が真剣に職探しをするよう、保険金給付を徐々に減らしていくというシステムの導入が目玉とされている。
●外交
(1)バスケス大統領のUNASUR(南米諸国連合)緊急首脳会議出席
15日、閣議に出席した後バスケス大統領はバス外務次官とともにチリ・サンティアゴを訪れ、ボリビアの大統領派と反大統領派の衝突について協議するためのUNASUR(南米諸国連合)緊急首脳会議に出席した。
(2)フェルナンデス外相のNY訪問(第63回国連総会出席)
(イ)モラティーノス西外相との会談
22日、フェルナンデス外相はモラティーノス西外相と会談した。同会談の中で、西政府が平和的対テロ協力や経済格差是正、文化対話などの手段を用いてアラブ・西洋世界の歩み寄りを目指す「文明による対話(Dialogo de Civilizacion)」イニシアティブに対し、ウルグアイ政府からの支持が表明された。また、「ONE UN」プログラムのパイロット国であるウルグアイをスペインが支持する旨表明していることに関し、フェルナンデス外相から感謝の意が示された。(「ONE UN」プログラムは、更なる効率的開発計画のために国連が進める国レベルでの協力の可能性を探るもの。)
(ロ)エスピノサ墨外相との会談
22日、フェルナンデス外相及びエスピノサ墨外相は、両国の良好な関係についてレビューした他、政治・通商・経済・社会・教育・協力の各分野での関係強化を目的とした戦略的連携協定締結に向けた覚書による進展事項を強調した。他方、エスピノサ墨外相は、現在墨が議長国を務めるリオ・グループを政治面で強化すること、並びに同グループの拡大プロセスの進展に強い関心を示した。フェルナンデス外相は右に同意した。両外相は、ハイチの置かれている現状に関しても意見交換をし、政治制度強化に重点を置いた同国への支援及び協力を実施していく点において意見を同じくした。
(ハ)ジョアン・ベルナルド・デ・ミランダ・アンゴラ外相との会談
23日、フェルナンデス外相は、ジョアン・ベルナルド・デ・ミランダ・アンゴラ外務大臣と会合を開き、両国政治対話を開始するための覚書に署名した。
(ニ)ドブリアンスキー米国務省民主主義・地球問題担当次官との会談
23日、ドブリアンスキー同次官との会合が開かれ、両国の科学技術協力進展について話し合いがなされた。特に、癌の予防と撲滅に向けた取り組みにおける協力の可能性に関し重点的に話し合いが行われた。
(ホ)ロムロ・フィリピン外務長官との会談
23日会合を開いた両者は、多国間問題及び両国間問題など様々なテーマについて意見を交わした。この会合の中でロムロ外務長官は2009年中のウルグアイ訪問を希望している旨述べた。
(ヘ)東ティモール民主共和国との国交樹立
23日、フェルナンデス外相とアルバノ・ダ・コスタ・東ティモール外相との間で、外交関係樹立のための署名式が行われた。
(ト)シュワブUSTR代表との会談
23日、シュワブUSTR代表との会合が開かれ、今後署名される予定の協定をはじめとした両国間でのTIFA導入等の共通課題などがレビューされた。
(チ)ボリビア、パラグアイ両外相との会談
24日、3カ国の外相等は、地域連合体URUPABOL(注:「ウルグアイ・パラグアイ・ボリビア」の略)構想の再考の可能性につき意見交換した。
(リ)フェルナンデス亜大統領及びタイアナ亜外相との会談
24日、タイアナ亜外相とともにフェルナンデス外相と会談したフェルナンデス亜大統領が、ウルグアイに建設されたセルロース工場の環境汚染問題を発端として環境活動家らによって続けられている両国間国際橋梁封鎖の解除のため、亜政府として必要な手段をとる用意がある旨語った、と当地週刊ブスケダ紙が25日に報じたが、同日、亜外務省は、プレス・コミュニケを通じて、「亜外務省は、フェルナンデス亜大統領が、グアレグアイチュ市の環境市民団体が実施している橋梁封鎖の解除を約束したとする報道内容を否定する。亜政府は、非生産的と見なされるこうした手段には合意しないことを繰り返し表明してきているが、橋梁封鎖を決定する権限は、然るべき司法当局にある」と発表した。
(ヌ)ガルシア・ペルー外相との会談
25日に会合を開いた両外相は、両国外交関係について分析するとともに、南米地域における諸問題に関し同じ認識をもっていることを確認した。更に、国連改革促進の必要性についても話し合った。
(ル)フェルナンデス外相の第63回国連総会一般討論演説
27日、フェルナンデス外相はNYにて国連一般討論演説を行った。この中で、ウルグアイが、多国主義や国際法等を尊重する方針である旨、及び、常任理事国及び非常任理事国メンバー拡大を含む安保理改革の実現を支持するとしつつも、拒否権を持つ加盟国の創設は本当の意味での民主主義とは両立しないとして右へは支持しないと語った。
(ヲ)イグレシアス・イベロアメリカ事務局長との会談
29日、フェルナンデス外相及びイグレシアス事務局長は、進行中の国際金融危機等のテーマにつき話し合いを行った。
(ワ)楊・中国外交部長との会談
29日、フェルナンデス外相と会談を行った楊外交部長は、両国関係深化の重要性を強調するとともに、更なる意見交換の必要性にも触れた。また、中国でのオリンピック開催実現へのウルグアイからの支援に謝意を表した。
●要人往来
(1)米下院議員等の訪「ウ」
米国下院議会の4名の議員が6日から8日までウルグアイ滞在した。メンバーはCollin Peterson議員、Ben Chandler議員、Marion Berry議員、及びJerry Weller議員。米下院議員等は、当国国会議員等と会談、地方視察を行った。ニン・ノボア副大統領及びフェルナンデス外相との会合も開かれた。
米下院議員等は、ドーハ・ラウンドの閣僚会合決裂を受け、米国は二国間通商関係を重視しているとコメントした。
(2)憲仁親王妃久子殿下のウルグアイ訪問
17日、モンテビデオに到着された高円宮妃殿下は同日バスケス大統領と懇談。18日には、日本人ウルグアイ移住100周年記念式典に御出席されたほか、センテナリオ・サッカースタジアム、ブラネス美術館、日本庭園及びウルグアイ鳥協会を訪れた。19日には日本人会館を御訪問、カランブラ・カネロネス県知事との会食の後サンパウロに向かわれた。
(3)ウルグアイ司祭等のヴァチカン市国訪問
22日から27日まで(6日間)14名のウルグアイの司教等がヴァチカン市国を訪れ、ベネディクト16世に謁見した。ウルグアイ司教がヴァチカンを訪れるのは01年以降はじめてのこと。