ウルグアイ内政・外交動向(2006年8月~10月)
●概要
2006年8月から10月の内政に関しては、米国とのFTA交渉を開始するか否かの議論が関心を集めた。米国とのFTA締結に関しては、与党内で推進派と反対派で激しく意見が対立し、米国側から通達された期限が迫っていたにも係わらず、両者の歩み寄りが見られなかった。最終的には、バスケス大統領がFTA協議開始を時期尚早とし、貿易投資枠組み協定(TIFA)を締結する決断を下した。米国とのFTA締結はこのまま立ち消えとなるのか、TIFAはFTA締結の前段階となりFTA協議が再浮上するのか、注目されるところである。
外交面では、セルロース工場建設問題を巡る亜との対立が引き続き懸案事項である。7月のハーグ国際司法裁判所(ICJ)の判決に続き、メルコスール・アドホック仲裁裁判所の場でも争われた。今回もウルグアイが有利な判決であったにもかかわらず、右仲裁裁判所は、今後の橋梁封鎖に対する措置を亜政府に強制するものではないという内容であったため、亜政府に対する拘束力は弱い。両国政府ともに歩み寄りの姿勢は見られず、引き続き解決の糸口が見つからない状況である。
●米国との二国間通商協定
米国とのFTA締結に関しては、8月初旬になっても与党拡大戦線党(FA)内は意見の一致が見られなかった。すなわち、アストリ経済財務相など推進派は米国とのFTA締結の必要性を強力に訴え、経済財務省を中心に米国側との協議を進めていた。右に対し、MPP(与党内最大派閥)、社会党、共産党など伝統的左派のイデオロギーに傾倒した反対派は執拗に抵抗していた。
バスケス大統領は党内の議論を静観していたが、8月7日~10日に、米国側の代表であるアイゼンスタット(Eissenstat)USTR代表補がウルグアイを訪問した際、カウンシル・オブ・アメリカ等主催の会合で米国と何らかの通商協定を結び最大限に通商関係協定を強化する旨を表明した。右発言は、バスケス大統領が米国とのFTA交渉締結に前向きであるということを示すものとして注目された。
9月7日、バスケス大統領はメルコスール議長国伯のルーラ大統領をポルト・アレグレ(伯)に訪問し、ウルグアイは米国と何らかの通商協定を締結する旨を報告した。バスケス大統領は、伯はウルグアイの立場に理解を示したと記者団に対し表明したが、伯政府は右に対して公式的には何も反応を示さなかった。
8日、米国政府からはウルグアイ政府に対し、米議会の審議日程の都合上10月1日までに通商協定の種類を含め交渉開始の意志を表明するよう通達があった。
14日、バスケス大統領はアストリ経済財務相、ガルガノ外相、レプラ工業エネルギー鉱業相、レスカノ観光相を招集し、交渉の進捗状況及び米国側が提示したFTA締結のための条件を分析・評価した。
右の結果、バスケス大統領は米国とのFTA締結には、ファスト・トラック法が適用されるのが望ましいが、知的所有権、政府調達分制限についてウルグアイの実情に沿った形に調整されるべき旨表明し、18日には、厚生省及び教育文化省に対し知的所有権保護に関する現状について調査するよう指示した。また、25日、経済財務省を中心とするFTA交渉に関する作業グループは、通商協定締結に関する最終調査報告書を提出した。
最終的に、28日、バスケス大統領はファスト・トラック法適用を念頭においたFTA協議の開始を断念する旨、29日に貿易投資枠組み協定(TIFA)を締結する旨を表明した。
●ウニータス作戦
8月7日、ウルグアイ政府は米国政府に対し、07年3月に予定されている軍の共同演習「ウニータス作戦(Operacion Unitas)」にウルグアイ軍は参加しない旨を通知した。
右作戦はこれまで米国、伯、亜、ウルグアイの4ヵ国が参加してきたが、元来、与党拡大戦線党(FA)は前政権の時代から作戦への参加に反対の立場を取っていた。バジャルディ国防次官は、政府は右作戦を冷戦時代の名残と見なしている旨表明した。
●行政改革
8月28日、バスケス大統領は閣議において行政改革法案の下案を提出した。07年9月までに法案を完成させる予定で、フェルナンデス大統領府長官を筆頭とした特別委員会を組織する模様である。政府筋の情報によると、省庁間の人事異動、公務員の再配置、政府調達分の集中管理、民間セクターへの部分的委託などが含まれている模様である。
●地方における閣議
9月19日、パイサンドゥ県ケブラチョ市で閣僚会議が開催され、持続的な開発推進を目的とした地方分権及びインフラ整備に関する国家計画の推進状況が説明された。
●セルロース工場建設問題
(1)亜・ウルグアイ政府の交渉
8月2日、外務省は亜外務省に対し、セルロース工場の建設及び環境への影響の共同モニタリングを提案する口上書を提出したが、8日、亜外務省は右申し出を辞退する旨の口上書を返送した。
(2)メルコスール
8月8日~9日、モンテビデオのメルコスール本部において、セルロース工場建設反対派亜住民による橋梁封鎖に関してウルグアイ政府がメルコスール・アドホック仲裁裁判所に提訴した件で口頭陳述が行われ、17日までに右に関する口頭弁論書が両国から提出された。
9月6日、メルコスール・アドホック仲裁裁判所は、3名の調停員が全員一致で亜住民による橋梁封鎖はアスンシオン条約違反とし、亜政府は橋梁封鎖防止の処置義務を怠ったとするウルグアイの訴えを認めた。しかし、亜政府は今後起こりうる封鎖に関して措置を強制されないとし、亜政府にも配慮した判決内容となっている。
更に、10月24日、外務省は伯外務省に対し、次回のメルコスール共通市場審議会で橋梁封鎖の問題を議題に盛り込むよう要請する口上書を提出した。
(3)ENCE社の工場建設地移転
9月21日、ENCE社(西系)がフライ・ベントスでの工場建設工事を中止し、工場予定地を移転する旨を発表した。右に対し、亜政府は歓迎の意を表明し、Botnia社(フィンランド系)も同様に移転するよう勧告した。バスケス大統領は、フェルナンデス大統領府長官とレプラ工業エネルギー鉱業大臣に対し、ENCE社が国内に留まるよう工場移転の支援をするよう指示した。結局、10月11日、ENCE社はヌエバ・パルミラ市(コロニア県)に工場予定地を移転する旨を発表した。
(4)世銀の動き
10月12日、世銀国際金融公社(IFC)はセルロース工場の環境に対する影響に関する調査報告書を公表した。右は、工場は最新の技術を使用していることを強調し、地域の環境や生物に影響を与えることはない旨の内容であった。亜外務省は世銀に対し、前日に右調査報告書を見直すよう要請した。
また、17日、IFC及び多数国間投資保証機関(MIGA)が世銀に対し、Botnia社に対する1億7千万ドルの融資を承認するよう申請する旨を発表した。
(5)道路封鎖
10月12日、亜側グアレグアイチュ市及びコロン市の住民団体が、亜政府の中止勧告を押し切って、再び橋梁の封鎖を開始した。右に対し、13日、ウルグアイ外務省は亜政府に対し、ハーグ国際司法裁判所及びメルコスール・アドホック仲裁裁判所の判決を遵守するよう申し入れた。
●政府要人等往来
(イ)9月4日、呉邦国・中国全人代常務委委員長が来訪し、バスケス大統領と会談した。
(ロ)9月8日、バスケス大統領は、ポルト・アレグレ(伯)に遊説中のルーラ伯大統領を訪問し、ウルグアイと米国との通商協定交渉について報告した。
(ハ)9月13日、カスティグリオーニ・パラグアイ副大統領がバスケス大統領の招待により来訪しメルコスール枠外での通商協定締結について意見交換した。
(ニ)10月8~9日、ラミレス・パラグアイ外相が来訪し、ガルガノ外相及びアストリ経済財務相と会談した。
(ホ)10月18日、チョケワンカ・ボリビア外相が来訪しガルガノ外相と会談した。