ウルグアイ内政・外交:8月
1.概要
(1)内政・社会
●31日、政府は821項目からなる5カ年予算案を議会に提出した(2011年は前年比18%増の約70億ドル)。
●刑務所における人権問題解決のため、特定の条件を満たす受刑者を釈放する法案の提出につき、内務省と議会の間で論議が交わされている。
●ボノミ内相は「国際的な子どもの権利条約」を基に2004年に定められた少年法の改定に強い関心と決意を示す一方、与党FA党では反対意見が多数を占めている。
●一連の短時間誘拐強盗に関し、政府は防止対策及び専門家育成のため、米州機構に支援を要請、コロンビアが専門家派遣の準備があることを通達した。
(2)外交
●30日、ティメルマン亜外相が訪ウし、アルマグロ外相とウルグアイ川共同管理委員会(CARU)によるモニタリングの詳細につき協議、合意した。
●ムヒカ大統領は大統領就任後初めてパラグアイを訪問し、ルゴ・パラグアイ大統領就任2周年記念式典及び第4回米州社会フォーラムにモラレス・ボリビア大統領と共に出席した。
●第39回メルコスール外相会合及び首脳会合において、対外共通関税の二重課税撤廃と共通関税コード作成が決定、メルコスール構造基金(FOCEM)によるプロジェクトの承認など、大きな前進があった。
2.内政
(1)政府の動き
ア 政府は、25歳以下の若者の失業率が極めて高いことを受け、若者の労働市場参入を支援するため、労働社会保障省から経営者側への補助金給付、経営者側による同人らの契約にかかる社会保障税の免除、新規職員及び既存職員に対し、職業訓練養成を行うなどの措置を講じることを発表。
イ 31日、政府は821項目からなる5カ年予算案を議会に提出した(2011年は前年比18%増の約70億ドル)。今般法案にかかる重要課題は、治安、教育、住宅、インフラ整備で、特に内務省及び住宅土地整備環境省において、予算増額が顕著。なお、教育予算に関しては、前回予算と同じGDP比4.5%で決着。同法案は今後議会で審議が行われ、12月までに承認される見込み。
ウ 厚生省は1938年より施行されている中絶禁止法について、現法令緩和のための法案を準備中。現法令は、(ア)強姦による妊娠、(イ)健康上の問題、(ウ)母胎生命を守るため、(エ)経済的理由による場合のみ中絶を認めているが、今後、胎児が奇形児である場合の中絶など、さらなる例外の設置につき検討される由。なお、バスケス前大統領は中絶合法化に拒否権を行使したが、ムヒカ大統領は拒否権行使はしないと明言。本法案に関しては2011年より本格的に論議が再開される見込み。
エ 17日、ムヒカ大統領は与党FA党政治執行部において、中央政府予算による地方でのインフラ整備運営や中央政府と地方政府の協調性構築に向け、各県庁に大統領府代表団派遣を提案した。これに対し、野党は反発、再検討を強く求めている。
(2)国防関係
現在海軍において、ア 資材不正購入、イ 国連PKOからの資金使途不明金、ウ 独ドレスナー銀行秘密口座(23万ドルの行方)、エ 国防省内でのガソリン引換券700万ドル分の行方につき調査が行われている。ロサディージャ国防大臣は、本件につき3日、新たに下院国防委員会で海軍不正機材購入問題、軍人給与及び各国との軍事協力について質問に答えた。また、8月は上記問題等に関連して5人目の海佐の解任や、海軍最高司令官の交代及び入札・資金運営部署の上級幹部の交代などが相次いだ。これを受け、陸軍及び空軍、その他国防省関係機関でも同様の調査が開始された。
(3)内務関係
ア 米州機構人権委員会から刑務所における人権問題解決を促されていることに鑑み、7月に可決した緊急刑務所法令の一部として未決のまま留置され、想定される刑期の3分の2を既に終えた被疑者、28歳未満の初犯者、病人や妊婦及び65歳以上で重篤な高齢者の約2,500人のうち、殺人や強姦等の重度の犯罪者を除く受刑者を釈放する法案の提出につき、内務省と議会の間で論議が交わされている。なお、並行的な取り組みとして、早期釈放された受刑者には居場所の特定などができるGPS機能付き電子ブレスレットを強制着用させるためのパイロットプランが検討されている。
イ 内務省は被疑者の起訴判断時点で、刑務所内の受刑者数を確認してから起訴の判断を行い、被疑者を刑務所に収容することを可能とする刑務所定数制法案及びそれにかかる裁判所の顧問役となる委員会の設置につき、最高裁判所に計画案を提出。最高裁側は同案の受け入れを拒否したため、内務省は専門家との協議を重ねた上で、新たな計画案を同最高裁に提出予定。内務省は最高裁の合意を取り付けた上で国会に同法案を提出したい意向。
ウ ボノミ内相は「国際的な子どもの権利条約」を基に2004年に定められた少年法の改定に強い関心と決意を示す。右は従来、野党国民党が中心となり、非行少年の非行歴を成人になる18歳以降も保存ができるよう法改正を求めていたものであるが、各関係省庁における意見の相違、さらには与党FA党内において法改正に反対する意見が多数を占めており、内相は同法改正に向けた党内の調整を強いられている。
(4)労働組合関係
8月末に5カ年予算案が国会に提出されることを受け、全国労働総同盟(Pit-CNT)や公務員同盟(COFE)による様々なセクター別ストライキが行われた。特に教育予算の引き上げ(現在のGDP比4.5%から6%)などを求めて、教員によるストライキが相次いで実施され、公立校の授業が中止となった。19日と26日には、ムヒカ大統領就任後2、3回目となるゼネストも実施された。
(5)教育関係
ア 世銀が発表した報告書によると、ウルグアイ人学生の半数の学力は、労働市場参入には不十分で、学生の知識が非常に少ないことを指摘。学校教育における教材利用などの教育システムが効率的でなく、教員の質の悪さも同時に指摘されている。
イ 初等教育審議会は今後5年間で、全日制初等教育校(注:対象学生は低所得者層となる)を新たに135校建設し、計300校とする計画を発表。また、中等教育校に関しては、国家教育局(ANEP)幹部が米州開発銀行代表団と会合し、今後4年間で1億1,400万ドルの貸付につき協議を行った。右資金は中等教育校、技術校及び教員養成校の建設に利用し、今後5年間で58校の新規中等校建設を行う見込み。
(6)その他
当地アンケート調査会社Factum社により、国民による閣僚評価アンケートが7月末に実施された。特に高い支持率を得た閣僚は、レスカノ観光スポーツ相(81%)、ロレンソ経済財務相(76%)となっている。
2.外交
(1)対亜関係
7月に合意されたウルグアイ川共同管理委員会(CARU)内での科学委員会(注:ウルグアイ川及び同川に排水している全ての農業・産業・都市施設のモニタリングを担い、両国からそれぞれ2名ずつ、計4名で構成)につき、両国の科学者が選出された。30日、ティメルマン亜外相は訪ウし、アルマグロ外相と右モニタリングの詳細につき合意。右合意によると、今後同科学委員会は60日以内に具体的な実施計画の策定、及び150日以内にモニタリングを開始することとなる。最初のモニタリングはUPM社(前ボトニア社)工場内及びグアレグアイチュ川河口での同時査察実施を予定しており、その後は交互に各領土内で実施する由。また、今後両外相は60日毎に外相会談を開催することを確認した。
(2)対パラグアイ、ボリビア関係(URUPABOL)
15日、ムヒカ大統領は大統領就任後初めてパラグアイを訪問し、ルゴ・パラグアイ大統領就任2周年記念式典及び第4回米州社会フォーラムにモラレス・ボリビア大統領と共に出席した。「ム」大統領は「ル」大統領及び「モ」大統領と会談し、具体的な活動を通したURUPABOL統合の重要性につき確認、天然ガスパイプラインの建設や電力販売等の共同プロジェクト促進に関しても協議が行われた。「ム」大統領は内陸国の活動を強化するため、ウルグアイに深海港を共同で建設する可能性につき、両大統領に提案した。9月には当地で特別委員会も参加するURUPABOL会合が、11月には同じく当地で非公式首脳会談が行われる由。
(3)対コロンビア関係
6日、ムヒカ大統領は7日開催されたサントス・コロンビア大統領就任式に出席するためコロンビアを訪問し、サントス大統領及びウリベ前大統領と会談した。同会談において、当時外交断絶状態にあったベネズエラとの仲介役となる準備があることを伝えた。
(4)対メルコスール関係
2日及び3日に亜サン・フアンで開催された第39回メルコスール外相会合及び首脳会合において、今後段階的な対外共通関税の二重課税撤廃と共通関税コード策定の決定、及びメルコスール構造基金(FOCEM)による9プロジェクトの承認など、大きな前進が見られた。
(5)南米諸国連合(UNASUR)
UNASUR設立条約つき、下院外交委員会は数ヶ月前より右批准のため準備を進めてきたが、与党FA党は少なくとも本年中の協議及び批准の意思がないことを明らかにした。UNASUR設立条約はすでにペルー、ボリビア、エクアドル、ガイアナ共和国、ベネズエラ及びアルゼンチンにより批准されているが、同条約発効には少なくともあと3国の批准が必要。
(6)その他
ア 対イスラエル関係
2日、中南米諸国を歴訪中のユーリ・エデルスタイン・イスラエル情報大臣がラ米におけるユダヤ教社会のリーダーとの関係強化、イスラエルの現実に関しての一連の講演を通しての同国のイメージの維持・向上のため当国を訪問し、アストリ副大統領と会談及びイラン情勢に関する公演を行い、イランのプレゼンスが著しいラ米地域において、その脅威について説明した。イスラエル軍によるガザ支援船拿捕事件に関する、国連調査委員会の設置許可については、同国は隠蔽すべき事実はないと述べた。
イ 対カタール関係
17日、ハマド・カタール首長(エミール)を中心とする代表団が当国を訪問し、ムヒカ大統領等と会談。貿易・経済、観光、文化、スポーツ分野において4つの協力協定に合意した。
3.社会
(1)治安
ア 政府は、モンテビデオ県高級住宅街でこれまで既に7件発生している一連の短時間誘拐強盗に関し、同犯罪の発生が国内で拡大することを懸念、防止対策及び専門家の育成のため、米州機構に支援を要請した。右に対し、既にコロンビアが専門家の派遣準備があることを通達している由。またモンテビデオ県に隣接するマルドナード県においても右犯罪の発生に対処するため、銀行ATM機への防犯カメラの設置等を検討、同じくカネロネス県においても、モンテビデオ県警察幹部との意見交換を行うなど、模倣犯を含めた事件への対応準備を整えている。
イ パイサンドゥ県においてひったくり犯から逃れようとした27歳の女性がバスにひかれ死亡する事件が発生、被疑者の17歳の少年は強盗を含む数回の補導歴を有し、さらにウルグアイ青少年局(INAU)施設から脱走を繰り返すなどしていた。右少年は本年6月に精肉店に対する強盗事件により補導されていたが、保護観察処分を終えた6日目には今回の事件を引き起こしたことが判明した。事件発覚後、市民数百名が抗議デモを実施し、裁判所に対し投石を行い建物の窓ガラスを割るなどの暴動事案に発展した。
ウ 当国アンケート調査会社Equipos Mori社の発表によると、国民が考える国内重要課題は一昨年までの経済対策を抜いて治安対策が32%で第1位となっている。
(2)反たばこ、反アルコール飲料キャンペーン
アルマグロ外相及びオレスケル厚生相は、反たばこキャンペーンの一環としてTVコマーシャルでたばこに関する警告を放映することを義務化する由。また、アルコール飲料の瓶にたばこ箱同様の警告メッセージの義務化を検討中。同時にキオスクやガソリンスタンド、ゲームセンターなどでのアルコール販売禁止等、バスケス政権時廃案となった法案の国会への再提出を検討。
(3)貧困
2009年、48,000人のウルグアイ人が貧困から脱出したと発表された一方で、当国NGO団体が実施した調査によると、過去2年間で26の貧困地区及び2,800件の住居が新たに確認された。右貧困地区の60%は首都モンテビデオ県周辺に集中しており、全国の貧困地区には約25万7,000人が居住していることも判明。