ウルグアイ内政・外交:7月
1.概要
(1)内政・社会
●ロチャ県のロチャ刑務所において火災が発生し、12名の受刑者が死亡、刑務所での受刑者人権問題が新たに浮上。これに関連し、国内4刑務所に収容された受刑者のうち、約2,500名がハンガーストライキを実施した。
●海軍関連機材不正購入疑惑や、国連平和維持活動公的資金の不適切な運用につき、ロサディージャ国防大臣は内部調査を実施。同大臣は上院国防委員会で多くの高官が本件に関係していることを明かした。
●前政権時代に可決された反たばこ関連法案が、米フィリップ・モリス社により違法として提訴され、提訴回避のため法案修正を試みるムヒカ大統領と、同法案を可決させたバスケス前大統領間で摩擦が生じ、法案修正は凍結状態。
●2008年の干ばつを受けた子牛出生率低下による業務減少のため、国内各地の食肉工場及びなめし工場が冬季の間閉鎖され、少なくとも1,700人の労働者が失業保険受給予定。
●モンテビデオ市内における高級住宅街で3件の短時間誘拐事件が連続発生し、耳目を集めた。
(2)外交
●ウルグアイ・亜首脳間等での数度に渡る交渉の結果、両国はUPM社(前ボトニア社)工場内外のモニタリング体制を整えることに合意した。
●30日、ムヒカ大統領とルーラ伯大統領の首脳会談が両国国境リベラ県等において開催され、様々な合意や協力協定が締結された。
●マドゥーロ・ベネズエラ外相は、「平和のための外遊」と称して、ムヒカ大統領等と会談。コロンビアとの外交関係断絶に関し説明し、平和達成のため協力を求めた。
2.内政
(1)政府の動き
(イ)5月9日の地方統一選挙において初めて実施された市長・市議会議員選挙で選出された市長及び市議会議員について、公的機関での勤務や政治職での兼任を認める法令を上院で可決。憲法第289条では県知事による公的機関での兼任は認めていないが、今回可決された法令は同条項が市長及び市議会議員には適用されないことを明確にした。
(ロ)7日、国会は15年前から伝統政党によりコントロールされていた会計検査院と選挙裁判所の重役ポストについて人事を更新し、与野党の均衡をはかる法令を裁可した。両機関の長には無党派の人物を推薦し、その他のポストは与野党間で均等に割り振りすることとなる。右措置は今後両機関における資金運営の透明性及び選挙プロセスの公正さを高めることとなる他、今次与野党間の合意はウルグアイの成熟した民主主義を示すものとして評価が高い。
(ハ)7月初旬、各県の県知事就任式が実施された。首都モンテビデオ県においてはオリベラ氏(与党FA党共産党派)が女性初の県知事に就任し、今後の優先取り組み課題として、ゴミ・公衆衛生問題を掲げた。
(ニ)5月に議会に既に提出され、6月には下院で可決されていた刑務所緊急法案を13日上院で可決。同法案は5カ年予算案外の枠組みで1,500万米ドルの予算を確保し、2つの新規刑務所建設や既存施設の改修及び受刑者監視のための1,500人の警備員設置を可能にする。また、2012年の施設建設・改修までの間、軍事施設を刑務所として一時的に転用し、受刑者を移動させることとなった。一方で、受刑者の更正に対する抜本的な取り組みが求められている。
(ホ)政府は、オーディオビジュアル通信サービスに関する新法制定のための議論を開始。新法は国家、メディア、企業、市民等の保護を念頭においたもので、メディアにおける多様性・多元主義の保証、公共・民間・市民セクターの同分野への参加、スペースの割り当ての透明化、ルールの明確化を行い、それによりメディアの所有者を明確にし、名義貸しを防ぐこと等を主な目的としている。
(ヘ)ブロベット与党FA党党首は、軍事政権時の政治犯を裁くことを可能とする失効法撤廃につき党内合意していると発表。また、アルマグロ外相は外務省が同法案を作成、国会へ提出する準備を行っていると言及。失効法撤廃についてはこれまで国民投票で2度否決されているため、政府は国会での審議に持ち込み可決する意向と見られている。
(2)内務関係
(イ)ムヒカ政権初の警察官によるストライキを回避するため、6月30日深夜より翌1日午前にかけて、内務省幹部、全国労働総同盟(Pit-CNT)及び警察官代表らは協議を実施。結局右ストライキは実施されなかったが、発端は、異動に伴い、低賃金の警察職には必須となっている222サービスができなくなる事態が生ずることに反発したもの(注:222サービスとは、内務省が非番の警察官に警備業務を斡旋するもので、財政法13318号222項において法的に認められている。本来の警官としての正規職務外での制服使用や銃着用が認められ、任意で金融機関や商店(スーパー)等の警備にあたることができる。正規職務のみの低収入の警察官にとっては、222サービスを通じて収入が2倍になるため、重要な財源元となっている一方、正規労働(8時間)と222サービス(8時間)による肉体的負担は重く、正規労働時間帯に手を抜くなどの問題も指摘されている)。各警察労働組合は警察官への貸し付けや業務上過失による給料差引額の減額など、21項目の改善を内務省に要求しており、ストライキ回避のためこれまで19項目が承認されている。
(ロ)刑務所での軍人による警備体制を整えるための法案が下院を通過。これは従来の警察官による警備体制が汚職のため、刃物、携帯電話、薬物等が刑務所内に簡単に持ち込まれたことを踏まえ、これを防止するために導入するものであり、同法案の上院通過により、今後600人の軍人が配置され、警察官も含む全ての構内立入者に関し検査を実施することとなる。
(ハ)ロチャ刑務所火災事件
8日早朝、ロチャ県のロチャ刑務所において火災が発生し、12名の受刑者が死亡、8名が重軽傷を負った。この件に関し、同刑務所の受刑者及び近隣刑務所の受刑者約2,500名が刑務所側の瑕疵を訴え、ハンガーストライキに突入。同刑務所は19世紀に建てられた古い建物で、今後緊急に建て直す必要のある刑務所リストにもあがっていた他、ここでは70名の収容可能人数に対し、160名が収監されており、また6名の監視しかいなかったことも被害を広げた要因として政治問題化している。ムヒカ大統領は本件につき被害者及び家族に謝罪。ボノミ内相は「規定に沿った手続きがなされており、刑務所側の落度はない」とコメント。14日及び28日、与党FA党は下院を召集、ボノミ内相は本件につき説明を行ったが、野党側の納得は得られなかった。
(3)国防関係
(イ)海軍における関連機材不正購入や国連平和維持活動関連の公的資金の不適切な運用につき、ロサディージャ国防大臣は内部調査を実施した。同大臣は記者会見において、4名の海佐を解任したこと、並びに上院国防委員会での質問に答え多くの高官が本件に関係していることを明かした。
(ロ)現在フォークランド諸島行き船舶につき、公海上であるにも関わらず、亜側により各国商船が通航阻止されたり、通行条件を課されたりしているとのウルグアイ海軍からの情報を受け、ロサディージャ国防大臣は、6日の国防委員会でデリケートな問題とした上で、本件につき海軍情報局が右詳細につき調査していると報告した。他方、ロサディージャ大臣はメディアが本件を報じたことに対し、亜側による妨害行為は一切ないと本件の存在そのものを否定。亜政府はロサディージャ大臣の今次処置に謝意を表した。
(ハ)国内各地の駐屯地における軍人への食糧補給制度予算の50%カットが発表されたが、野党国民党は政府に右予算カットの見直しを要求した。低所得の軍人への便宜供与の低下は、下級兵士のリクルートを困難にし、数年前までは考えられなかった若手士官らの退職も助長している。
(4)労働及び労働社会保障関係
(イ)7月第2週目より分野別給与改定審議会が開始され、およそ20万人が該当する最低賃金層の賃金を、2011年1月の4799ペソから2013年1月の7919ペソに向けて引き上げていくことを発表。商業・サービス分野での最低賃金層には750ペソの割り増しも認められる可能性がある。
(ロ)2008年の干ばつがもたらした子牛出生率低下による業務減少のため、フロリダ県、コロニア県、ドゥラスノ県及びタクアレンボ県にある食肉冷凍工場及びなめし工場は、少なくとも労働者約1,700名を冬季一時的に解雇し、失業保険給付対象者にすることとした。
(ハ)バスケス前大統領の就任2ヶ月前にあたる2004年12月から2009年12月の間、公務員(中央官庁及び地方自治体、憲法で定める公的機関など)は18,703人増加し、その他雇用された政府系非正規職員も含めると約23,000人増加したことがわかった。一方、2009年には9,000人の雇用があったものの、採用試験は一度も行われておらず、全て縁故契約採用されたものである由。
(5)その他
(イ)当地アンケート会社Equipos Mori社の調査によると、ムヒカ大統領の支持率は5月時点で63%であったが、7月には71%に上昇。
(ロ)バスケス前大統領は国際通貨基金(IMF)西半球担当顧問に任命された。
(ハ)米フィリップ・モリス社(総括本部、於:スイス)が、2007年にバスケス前政権において可決された反たばこ関連法が、スイスとウルグアイ間の投資促進保護条約に違反しているとして、今年2月に世銀の国際投資紛争解決センターに提訴した件について、政府は同法令のa)有害警告表示の割合をたばこ箱の80%にすること、b)各銘柄について1種類に制限するとする2項目の規定につき、法令緩和のための修正案を準備。これに対し、バスケス前大統領が政府の対応に断固反対したため、ムヒカ大統領との間に摩擦が生じ、修正案準備も凍結。政府関係者は当国における商業的打撃を考えた場合、フィリップ・モリス社との関係悪化はウルグアイにとって大きなマイナスになると懸念を示しているが、与党FA党内では法案修正推進派と慎重派に分かれている。
(ニ)大統領直属の国家情報局(局長は元ツパマロス・メンバー、グレゴリ氏)に関し、政府は関連法案に基づき、各省主要情報局や中央銀行、税関局に対し、国家情報局長が必要とする情報を提示するよう指示した。同法令はグレゴリ局長が得た情報は大統領にのみ開示が可能と定めているほか、国の政治、軍事、社会、経済等いかなる分野へも影響を与えないことを定めている。なお、同国家情報局長のポストはバスケス前政権時代に既設されていたものの、今次ムヒカ政権時に初めて人事が確定したもの。
3.外交
(1)対アルゼンチン関係
(イ)UPM社(前ボトニア社)工場内外におけるモニタリングに関する数度に渡る首脳及び外相間での協議の結果、28日の首脳会談で、両国は2国間科学委員会(「ウ」から2名、亜から2名)をCARU(ウルグアイ川共同管理委員会)に設置し、同委員会によりウルグアイ川及び同川に排水している全ての農業・産業・都市施設のモニタリング体制を整えることに合意した。なお、今回の合意におけるムヒカ大統領の対亜外交手腕が与野党内で評価されている。
(ロ)23日、亜政府は6月よりモンテビデオ・亜バリロチェ間を運航していたPLUNA航空(ウルグアイ)の運航許可を突然取り下げた。これによって利用客400人の足に影響を及ぼしたが、利用者の90%はバリロチェへスキー旅行中もしくは旅行出発予定のブラジル人であった。
(ハ)ウルグアイ政府は前駐南ア大使であるギジェルモ・ポミ氏を駐亜・ウルグアイ大使に任命した。一方、空席となっていた駐ウルグアイ・亜大使にはダンテ・デベナ氏が任命された。
(2)対ブラジル関係
30日、ムヒカ大統領とルーラ伯大統領の首脳会談が両国国境沿いのリベラ市及び伯サンタナ・ド・リブラメント市において開催され、(イ)ロジスティックや機材供与に関する軍事協力、(ロ)農牧水産協力、(ハ)河川及び湖水交通、(ニ)科学技術革新について協力合意がなされた他、当国電力公社(UTE)と伯エレトロブラス間の電力供給協力、Yaguaron川第2橋梁の新規建設(大部分は伯によって出資)及びBaron de Maua橋梁の修復、鉄道統合やラ・パロマ市における深水港の建設、FOCEM(メルコスール構造的格差是正基金)によるプロジェクト運営及びモンテビデオ市のコンベンションセンター建設等についても合意、確認が行われた。
(3)対ベネズエラ関係
27日、マドゥーロ・ベネズエラ外相は、「平和のための外遊」と称して訪ウ。ムヒカ大統領と会談を行った際、コロンビアとの外交関係断絶に関するベネズエラの考えを説明した他、協力して平和を達成するための理解と協力を求めた。また、コロンビア国民と共に相互理解及び平和、その確立のための道筋を模索する必要があると述べた。
(4)対米国関係
1日、オバマ政権によりクレイグ・ケリー米国務省西半球問題担当次官補がウルグアイに派遣され、2日、アストリ副大統領等と、(イ)TIFA(貿易投資枠組み協定)に基づく貿易及び投資、(ロ)プランセイバル(公立小中学校全生徒等へのPC配布計画)による経験の広報、(ハ)エネルギー、気候、経済、教育、科学、技術、農業等様々な分野でのウルグアイとの交流協定について会談した。
(5)その他
(イ)国連人権委員会の副委員長としてロドリゲス・キューバ大使が任命されたことに対し、与党FA党ブロベット党首は、キューバ国民や全世界の人権獲得を目指したキューバ革命の成功を称えた。同大使の副委員長選出は、ALBA等ラ米左派政権の支援によるもので、メキシコ、ウルグアイ、パラグアイ、コスタ・リカ及びペルーも支持を表明。
(ロ)国連はウルグアイ国連平和維持活動でコンゴ共和国とハイチに派遣されている隊員の2010年1~4月分の給料として、1,400万ドルを支払った。
(ハ)8日、これまでブエノスアイレスで協議されていたボリビアからの天然ガス輸送案件に関する三者協議(亜、ボリビア、ウルグアイ)が終了した。クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は今後天然ガスのリーズナブルな価格での獲得に改めて言及し、早ければ2,3ヶ月後には当国でも同天然ガスの利用が開始される由。
(ニ)パレスチナ暫定自治政府代表団が当国上院・下院外交委員会を訪問し、ウルグアイ政府に対し、アッバス議長率いるパレスチナ自治政府を国家承認を要望、さらにウルグアイでの大使館開設の意向を表明した。
(ホ)政府はPKO国連インド・パキスタン軍事監視団(UNMPGIP)の指揮官として、ラウル・グラッドフスキー将軍(現第三師団司令官)を任命する予定。
(ヘ)ナーセル・クウェート国首相及び代表団が訪ウし、2国間関係の強化を確認し合った上で、経済協力、技術協力、商業協力及び航空サービス等4分野において協定締結。また、クウェート政府は同国でのウルグアイ大使館開設へ関心を示した。
4.社会
(1)治安状況
今月、モンテビデオ市内では銃器を使用した凶悪犯罪が多発したが、特に以下(イ)(ロ)事案は連日報道され耳目を集めた。短期誘拐事件については市内でも有数の高級住宅街及び商業地区(大使館員、JICA関係者等が居住)で発生しており、都市部における治安悪化を市民に印象づけた。他方タクシー運転手に対する強盗事件は、タクシー労働組合の大規模なストライキに発展するなど、市民生活に直接的な影響を及ぼした。これらに対し、内務省では警ら活動の強化を発表するのみであり、効果的な対応策を打ち出すことができず、治安が改善する見込みは少ない。
(イ)7月初旬、市内の高級住宅街であるポシートス、プンタ・カレータス及びプンタ・ゴルダ地区において3件の短時間誘拐事件が連続発生。何れも被害者は車両に乗車中、銃器で武装した複数の犯人に襲われ、拉致・監禁され自宅や銀行のATMから現金などを奪われている。
(ロ)7月下旬、タクシー運転手の死傷を伴う強盗事件が連続して発生。一件はナイフで刺され重傷となり、もう一件は銃で撃たれ死亡している。これにより、タクシー労働組合が安全な職場環境の整備と市内の治安維持に対する取り組み強化を訴え、大規模なストライキを実施し、市民の足に影響を及ぼした。
(2)健康
(イ)中等教育校の学生らによる薬物使用は減少しているものの、2009年の調査では、学生の過半数(52.7%)が習慣的にアルコールを摂取しており、17歳の学生に至ってはこの割合が72%に上ることがわかった。
(ロ)コロニア県、サン・ホセ県、セロ・ラルゴ県において、2003年より実施されている国家放射能監視計画により放射性物質であるセシウム317が感知された。現在のところ、人体への影響について報告はないが今後も調査継続の由。
(ハ)6月30日に終了したA型インフルエンザ・ワクチン接種キャンペーンにつき、ラ米諸国内でウルグアイのワクチン接種率は51.5%と他国に比べ非常に低いことが判明(墨96.7%、亜81.3%、伯88.3%、智72.5%)。厚生省は特に妊婦などへのワクチン接種を呼びかけている。
(ニ)国会は薬剤や医薬品に関する法案を可決し、これまで薬剤研究室などから無料配布されていた向精神薬の配布が禁止されることとなった。抗鬱剤や抗不安薬などの多用回避のためであるが、精神科医などは多くの患者、特に低所得者層は高額の向精神薬を購入することができないため、無料サンプル配布に頼ることが多く、今後これらの患者には治療薬がいき届かなくなる恐れがあることを指摘している。
(3)貧困
国家統計局(INE)は、2009年貧困率が2008年の22.4%から20.9%へ、極貧率が2%から1.6%に減少したことを発表。一方で、収入分配率の悪化により格差が広がっており、貧困からの脱出には貧困者層の給与を11.2%引き上げる必要がある由。
(4)その他
(イ)サッカー・ワールド・カップの影響により、当国での飲料水販売量が30~40%増加。そのうち49%はビールなどのアルコール類であった由。
(ロ)国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会の報告によると、ウルグアイはラテンアメリカ17諸国において、経済力及び労働機会において男女格差が最も低い国である由。なお、右統計は労働市場、社会保障制度、失業率、給料及び貧困率により算出。
(ハ)在亜ウルグアイ大使館の発表によると、同国に住むウルグアイ人は約30万人ほどであるが、そのうちID保持者はわずか17万人で、ID未保持者は同国での社会保障が受けられず、貧困や極貧下にあることがわかった。一方で、在亜ウルグアイ人の人口統計は2001年実施が最後となっているため、今年10月に調査を実施することとなっている。
(ニ)青少年庁(INAU)は同性愛者による養子縁組を認める方針を明らかにした。現在同性愛者による養子縁組は国内で15件。また、アルゼンチンでの同性愛婚法案可決を受け、今後当国においても同法案が提出される可能性がある。