ウルグアイ内政・外交動向:(2008年7月)
●概要
(1)内政面
2009年度補正予算案が下院で可決され、2007年7月に施行された新税制(個人所得税)の修正案が政府にて審議された。また、次期大統領選挙に向けた動きが活発化してきており、与野党共に新しい派閥結成などの動きが見られた。
(2)外交面
チリ及びリトアニア大統領がウルグアイを訪問。また、ベネズエラ及びスペインとの外相会談が行われた。
●内政
(1)Corriente de Izquierda派閥のFA党離党
5日、Corriente de Izquierdaの集会が開かれ、出席者37名のうち21対16の票差により、新たに政策草案を策定した上でFA党を離脱することを決議した。離脱後は、急進左派派閥に働きかけ、新たなグループを構築する模様。
(2)2009年度補正予算案
(イ)9日、下院は大筋で2009年度補正予算案を承認。
(ロ)11日、2009年度補正予算案が下院にて可決された。教育予算は1億3400万ドル(6月に発表されたGDP成長率上方修正とはリンクしておらず、現時点ではGDPの4.5%に達していない)、保健関連は9200万ドル、公平のための計画(Plan de Equidad)は2700万ドル、公共安全保障は2千万ドル、それぞれに配分されている。今後、15日に上院に送付され45日以内に審議・投票となる予定。
(3)職場占拠に関する大統領令の廃止と新法案策定
(イ)14日、ボノミ労働社会保障大臣は、廃止される予定の2006年の大統領令165/006(労働争議の予防と解決)に代わり、労働者による職場占拠を規制する新たな法案を閣議で公表した。この新法案では、労働者によって職場占拠された企業主は司法(労働裁判所)に問題解決を願い出ることができる。判事はこの訴えから3日以内に紛争当事者双方に事情を聞き、最大6日以内に紛争処理することが求められる。
この法案に対して、企業会議所などは職場占拠をあくまで違法であるとして反対の構え。
(ロ)政府は17日、職場占拠を規制する法案を議会に送った。
(4)個人所得税(IRPF)修正
(イ)7月初旬、FA党の多くの派閥から個人所得税最低課税額の増額に関する修正(現行月収8,875ペソ以上に課税。これを12,425ペソまで引き上げようというもの)施行をただちに、可能であれば本年7月1日に遡って発効させようとの要求が高まってきた。これは、個人所得税の最低課税額が引き上げられなかったため、6月の税申告で負担増になった層から反対の声が高まり、次期大統領選でFA票が野党に流れることを恐れてのこと。
その一方でアストリ経済財務相率いる経済チームは、修正税制の施行は2009年1月1日にする必要性があり、7月からの施行は難しいと主張。
(ロ)バスケス大統領は、野党のみならず、政権内及びFA党内部から個人所得税の修正を即座に実施するようにとの声が多いことに関して不快感を示し、14日の閣議で国会審議終了までの間公の場で個人所得税修正に関する発言は控えるよう求めた。この要請は、FA党執行部やFA派閥の主要幹部にも通達された。
(ハ)22日、アストリ経済財務相は大統領官邸にてバスケス大統領に個人所得税の修正案を提出した。今時税制修正案では、個人所得税の最低課税額を現行の月額8,875ペソから12,425ペソへと引き上げること、未成年の子供を扶養家族として抱える納税者に対する控除増額(注:本法案可決の際は09年1月1日より施行)、及び個人ではなく家族単位での納税を可能にすることが目玉となっている。
(ニ)28日、バスケス大統領及びアストリ経済財務相は、閣議にて修正された新たな個人所得税修正案を提示し、全閣僚から承認された。政府の試算では17万人の労働者が個人所得税支払いを免除される(40万人の個人所得税納税者のうち40%が免税)。また、18歳未満の子供を扶養する全ての労働者の控除額も拡大する。政府によるこの提案は9月施行を目指して議会(まず下院)にて審議される。PIT-CNT(労働総同盟)は個人所得税修正に好意的。ただし、国民党、コロラド党はアストリ経済財務相の次期大統領選挙対策であると批判的。
(5)県知事全国大会開催
10日、県知事全国大会(El Congreso Nacional de Intendentes)が開催され、カランブラ・カネロネス県知事が議長に就任するとともに、2009年1月から発効するという条件で、全国統一自動車登録(Patente Unica)法案を支持することを決議した。
(6)急進左派グループ「Asamblea Popular」の結成
12日、El Movimiento 26 de Marzoを主なメンバーとしたAsamblea Popularが正式に結成された。急進左派グループとして今後FAとは一線を画し、2009年の大統領選挙に向けた新たな勢力として政策綱領策定などの活動を始める。
(7)改訂移民法「Ley de Retorno」に関する規律
改訂移民法が本年1月より施行されているが、ウルグアイへの帰国を希望する国民の家財道具や自家用車などの輸入手続きが滞っていることに関して様々な苦情が外務省によせられている。これを受けて、14日、バスケス大統領が改訂移民法を規律する政令に署名したことにより、在外ウルグアイ人が本国帰還を望んだ場合、家財道具や自家用車の入管手続きを10日以内に終わらせることが義務化された。
(8)支持率
(イ)14日、調査会社Equipos Mori社が6月20日から30日まで行ったアンケート調査の結果が公表された。バスケス大統領の支持率は59%と、同社が4月に行った調査結果を3%上回っている。ムヒカ上院議員(FA大統領候補)支持率は59%。アストリ経済財務相(FA大統領候補)支持率は52%。野党では国民党ララニャガ上院議員(大統領候補)が42%。同じく国民党ラカジェ元大統領(同)が38%。
総選挙が今行われたとしたらどの党に投票するかという質問に対しては、FA38%、国民党32%、コロラド党8%、不明14%という結果となった。
FA党政権運営に対する支持率では支持42%。支持も不支持でもない24%。不支持26%。白紙回答8%となった。政権3年目での政権支持率としては、これまでの国民党及びコロラド党による同時期の政権運営支持率に比べてかなり高い。
(ロ)28日に公表されたInterconsult社のアンケート調査結果(5千人以上の住民を対象として7月15日~20日に行った)によれば、各党支持率は、FA党42%、国民党34%、コロラド党8%。各党有力大統領選候補者と目される人物への支持率では、ムヒカFA候補(MPP)42%、アストリFA候補(アサンブレア・ウルグアイ)41%、国ララニャガ国民党候補(アリアンサ・ナシオナル)47%、ラカジェ国民党候補(Unidad Nacional)35%、ビダリン国民党候補(Soplan Vientos Nuevos)8.6%、ボルダベリーコロラド党候補(バモス・ウルグアイ)66%、ルイス・イエロコロラド党候補(フォロ・バジスタ)24%、ホセ・アモリンコロラド党候補(リスタ15)3%であった。
(9)養子縁組修正法案
16日、未成年者の養子縁組にかかる手続きを迅速化するための修正法案が上院にて可決された。今次法案により、養子縁組に相応しい家族の決定に関し法律では明示せず、ウルグアイ青少年機関(INAU)に養子受け入れ先の決定等を任せる。また、未婚者・同性愛者らも養子受け入れ先として認められることになった。その他、同法案は、ウルグアイ青少年機関(INAU)にて引き取り手の無い子供の養子縁組にかかる日数を今より更に短くするよう規定している。同法案は今後下院に送られる。
(10)FA党全国総会(Plenario Nacional)
19日、FA党全国総会にて、懸案のFA党副代表選出のための投票は行われたが、結局、共産党とMPPの間で投票のあり方等について議論となり、次回会合への持ち越しとなった。
この問題により、ここ数ヶ月間に共産党とMPP両派閥とで築き上げてきた大統領選に向けた良好な関係が崩れつつあると見られている。
(11)ムヒカ上院議員のアルゼンチン訪問
与党FA党(拡大戦線)の次期有力大統領候補と目されるムヒカ上院議員が、22日から25日にかけ亜を訪問した。
今回の亜訪問では、セルロース工場建設問題により悪化した両国関係の再構築、同工場建設に端を発する橋梁封鎖の解除、エネルギー不足問題についての亜政府高官との話し合い、FA政権の再選に向けた在亜ウルグアイ人らに対する現政権への支援呼びかけ等が行われた(ブエノスアイレスには約35万人のウルグアイ人有権者が居住。選挙戦略上モンテビデオに次ぐ重要都市。)。
ムヒカ上院議員は、今回の訪亜にて亜大統領夫妻との会談を希望していたものの、亜首相交代問題などの理由により会見は実現しなかった。しかし、同大統領夫妻の代理としてパリーリ亜大統領府長官により亜大統領府に迎えられ、核エネルギーも含めたエネルギー問題に重点をおいた会談が行われた。また、南米南部におけるリーダーシップに関しても話し合われた。
他方、今訪問にて、ムヒカ上院議員はタチェッティ外務副大臣等と約1時間に渡ってボスニア社工場問題等のテーマを中心に会談を行うとともに、WTO閣僚会合のためジュネーブに出張中のタイアナ外相とも電話にて懇談した。
(12)治安特別委員会(gabinete)設立に向けた動き
28日、バスケス大統領のイニシアティブにより、治安特別委員会の設立が閣議にて決議された。右は、近年の犯罪が様々な事象と絡み合って発生していることから、内務省だけではなく政府全体による総合的取り組みが必要とされることに起因する。現在、緊近の問題として警察官不足が指摘されており、要員補充の際、必要用件の面で柔軟に対応すべきとの意見が出されている。
(13)FA大統領候補関連の動き
2日、ニン・ノボア副大統領は、アストリ経済財務相をFA大統領候補として支持した上で、副大統領候補は女性が良いと考えている旨述べた。
また、今回公の場で初めて、アストリ経済財務相は、部下にも恵まれている他、国政に関する総合的なビジョンを持っている優れた指導者であり、ウルグアイにとって大統領候補として最も相応しい人物と考えているとも発言した。
(14)野党の動き
(イ)3日、本年4月までガジナル上院議員が率いる国民党Correntada Wilsonista派閥に所属していたアルバロ・デルガド下院議員がビダリン・ドゥラスノ県知事の率いる「Soplan vientos nuevos」派閥に加った。ビダリン県知事は、自身が大統領に就任した際にはデルガド下院議員をモンテビデオ選出下院議員としてトップ当選させることを約束している。
(ロ)11日、コロラド党フォロ・バジスタ派閥のルイス・イエロ・ロペス氏(2000年~2005年のバジェ政権時副大統領であり、サンギネッティ大統領の2回目の任期中には約1年間内務相を担当)がラジオ番組の中で、自身のフォロ・バジスタ派閥からの大統領候補としての出馬に関して、同派閥のビエラ・リベラ県知事との合意(上院候補者リストにトップ登録することを条件)に達した旨公表した。同じく同派閥からの大統領選出馬を希望していたアブダラ下院議員には下院候補者リストトップ登録を提案したが、同氏からの同意は取れていない旨も語った。
(ハ)15日、コロラド党本部執行委員会会合にてビエラ・リベラ県知事は、ルイス・イエロ氏をフォロ・バジスタ派閥大統領候補として正式に支援していく旨公表した。なお、ワシントン・アブダラ下院議員はルイス・イエロ氏の出馬に反対の意向で、この会合には出席しなかった。
(ニ)17日、コロラド党のアブダラ下院議員は、ルイス・イエロ前副大統領がフォロ・バジスタ派閥からの大統領選候補になったことを不服として同派閥を離れることを記者団に公表した。
(ホ)22日、ラカジェ元大統領(国民党)は、エレリスモ派閥とCorrentada Wilsonista派閥の連合である新たな派閥「Unidad Nacional(UNA)」を設立した。
●外交
(1)バスケス大統領のメルコスール共同市場審議会(CMC)首脳会合出席
バスケス大統領は、1日、亜サン・ミゲル・デ・トゥクマン市にて開催されたメルコスール共同市場審議会(CMC)首脳会合に出席した。
会合の中でバスケス大統領は、世界的な食料品の値上がりに関し、途上国ではなく先進国にこそ食料品値上がりの責任がある点を強調するとともに、2008年上半期の議長国である亜のフェルナンデス大統領及びタイアナ亜外相による域内格差是正のための努力を評価しつつ、更なる格差是正の必要性に触れた。また、亜が主張するメルコスール域内輸出課徴金制度の導入に関し、同制度を導入した場合、メルコスール域内国全てが産業面での深刻な被害を被ることになり、また域内格差の拡大にもつながるとして強く反対の意を表した。また、メルコスール域内各国がお互いに競合しあっている点を指摘し、本当の意味での地域統合達成のため右を克服しなければならないと苦言を呈した。
(2)ウルグアイ・ベネズエラ外相会合
1日、メルコスール共同市場審議会(CMC)会合のため亜トゥクマンに滞在中のフェルナンデス外相及びマドゥーロ・ベネズエラ外相は会談を行った。この中で、両外相は、両国間通商政策の進展の可能性について意見を交わし、ウルグアイからの防弾車など自動車関連製品及び食料品の輸出の可能性、及び通信・情報技術政策に関して話し合った。他方、両外相は、両国の関税引き下げを通じた貿易の深化を進めることに合意するとともに、南米銀行設立協定(convenio constitutivo)に署名することを再確認した。
(3)バチェレ・チリ大統領のウルグアイ訪問
6日~8日、バチェレ・チリ大統領がフォックスレイ外相、アルボルノス国家女性事業相、イサベル・アジェンデ下院議員等を帯同しウルグアイを公式訪問した。
今次訪問では、両国関係深化のための協定及び二国間通商協定追加議定書の署名などが行われるとともに、2009年1月に向けて両国間で実質的に全ての財及びサービス貿易にかかる関税の引き下げ実施を促進することで合意が見られた。
また、両首脳により、地域統合を妨げない形での両国による戦略的連携に基づく両国間の関係深化が強調された。
(4)アダムクス・リトアニア大統領のウルグアイ訪問
20日~22日、アダムクス・リトアニア大統領が南米主要各国との関係深化を目的とした外遊の一環として、夫人、Vytautas Nauduzas経済副大臣及び企業関係者らを帯同し当地を訪問した。
今次訪問では、両国首脳会談が開かれ、生産的発展のための公共政策やエネルギー安全保障、社会保障、科学・経済分野での協力について話し合いがなされた。また、両首脳は、外交面や通商関係における両国共通の様々な目標が含まれた共同宣言及び大学院教授や学生らの往来に便宜をはかることで科学・文化分野での交流を促進するための協定に署名がなされた。
(5)西・ウルグアイ外相会談
スペイン訪問中のフェルナンデス外相は28日、欧州議会が可決した不法移民送還ガイドライン等に関連しモラティノス西外相と会談した。モラティノス外相は在西ウルグアイ人との良好な関係を強調するとともに、欧州の移民政策、特に不法移民の本国送還ガイドラインについて説明し、フェルナンデス外相に対して懸念には及ばない旨述べた。
他方、両国間の経済関係に関して、モラティノス外相は、ウルグアイにおける良好なビジネス環境について触れつつ、西企業はウルグアイ進出拡大に大きな関心を有している旨語った。
(6)Botnia社セルロース工場問題
28日、ウルグアイ政府は、本年1月29日亜政府によって国際司法裁判所(ICJ)に提出された陳述書に対する反対陳述書を提出。ウルグアイ政府がウルグアイ河規約を遵守してきたこと及び環境汚染の事実がない旨強調された。
●要人往来
(1)ジョアン・ベルナルド・デ・ミランダ・アンゴラ外相のウルグアイ訪問
11日~12日、アンゴラのジョアン・ベルナルド・デ・ミランダ外相が、外交・政治・経済・協力関係強化のため外務省高官を帯同しウルグアイを訪問し、バス外務次官と会談した。
(2)ジャック・ディウフ国際連合食糧農業機関(FAO)事務局長のウルグアイ訪問
23日、ジャック・ディウフ国際連合食糧農業機関(FAO)事務局長が当地を訪れ、バスケス大統領、アガシ農牧水産相、フェルナンデス外相、ルビオ予算企画庁(OPP)長官らと会合した。主に食料品の値上がりとその南米地域及びウルグアイにおける影響について話し合われた。
●その他
(1)アルバニアとの通商協定批准
17日、両院総会にて、2000年5月にウルグアイ・アルバニア間で締結された通商協定が批准された。
(2)スペイン・サラゴサ万博
27日は、スペイン・サラゴサ万博での「ウルグアイの日」であった。この日、ニン・ノボア副大統領、フェルナンデス外相、Nopich国家水道局(OSE)副総裁、トレス環境局長官らが参加。ウルグアイの自然資源保護への高い配慮、及びウルグアイ国内における高い飲用水普及率などが紹介された。