定期報告(ウルグアイ内政・外交:6月)
1.概要
(1)内政・社会
●政府関連ポストにおいて25年振りに各野党へ33ポストが配分されることとなり、国民党19ポスト、コロラド党14ポストの人事もほぼ決定した。
●ロレンソ経済財務大臣は、国家健康基金(FONASA)の全国民の加入完了には7億ドルの予算が必要であるが、FONASAの予算不足のため、経済状況が困難な人を優先して加入させていくことを発表した。
●8日~13日、ロサディージャ国防大臣はベネズエラを訪問し、マタ・ベネズエラ国防大臣及び科学技術工業省幹部と会談を行い、今後の軍事協力締結に向け協議を行った。
●世銀が発表する人間機会指数(Human Opportunity Index)で、ラテンアメリカ諸国でウルグアイはチリに次ぎ第2位にランキングされた。
(2)外交
●2日、当国コロニア県において、ムヒカ大統領とフェルナンデス亜大統領の首脳会談が開催され、主に、イ)サン・マルティン国際橋梁封鎖問題、ロ)UPM社セルロース工場のモニタリング問題、ハ)エネルギー関連、ニ)臓器移植協定内容の拡大、ホ)軍事協定などが確認された。
●亜政府はウルグアイとの国境付近に建設したAtucha第2原子力発電所について、ウルグアイ側に通達していなかったことから、核安全保障協定に違反していると指摘されているが、ウルグアイ側との摩擦を避けるため、ウルグアイ人の技術者に同発電所での技術研修を提供する旨提案した。
●ムヒカ大統領はANCAP(燃料・アルコール・セメント公社)がベネズエラからの石油購入により6億5千万ドルの負債を抱えていることに懸念を示したが、同時にベネズエラほど安価で石油を売ってくれる国はないとし、節約した予算を社会政策や中小企業での雇用数増加に充当すると述べた。
2.内政
(1)政府の動き
(イ)政府関連ポストの各野党への配分は政策実施に際する与野党協力を促す目的を有するが、これまでの与野党間の協議により、野党に配分する33ポスト中、国民党に19ポスト、コロラド党に14ポストを配分することを決定し、ほぼ同ポストに就任する人物決定も行われた。
(ロ)7日、政府は教育、治安、環境、エネルギーの主要4分野に今後さらに力を入れていくことにつき、野党との間で各分野での重点課題及び内容につき合意書を作成、署名した。
(ハ)8月30日までに国会に提出される5カ年予算案優先課題として、住居、教育、インフラ整備、治安及びその他いくつかのセクターにおける給与改定を掲げた。また、ロレンソ経済財務大臣は、年末か年始には消費税を2%減税すると発表している。
(ニ)過去5年間で下院議員が1,229の外遊を行い、約280万ドルを出費していたことが判明。特にタイで開催された第122回列国議会同盟総会に出席した6人の下院議員、3人の下院職員の外遊では、計10万ドルが出費され批判の的となったことから、今後外遊における経費軽減が図られることとなる。
(ホ)メルコスール議会(Parlasur)の議席を巡り、与党FA党と野党は協議を続けた結果、ウルグアイの保有する全32議席中、与党FA党側は野党の反対を押し切り、過半数の10議席、野党は8議席(国民党5席、コロラド党3席)を獲得することとなった。さらに15日、国民党は右5議席を同党Unidad Nacionalに3議席、Alianza Nacionalに2議席配分することを決定した。
(ヘ)3月1日に新政権が発足してからこれまで国会で286法案につき討議され、13法案が可決された。公布された法令の大半は、ハイチにおける国連平和維持活動のための船舶出航許可など軍関連のものが多く、続いて市役所設置法、選挙裁判所の権限拡張に関する法律などが挙げられる。
(2)国家改革
(イ)公務員改革
公務員の終身雇用制度の再検討につき論議が交わされている。公務員は不適格性、怠慢及び犯罪の3つのいずれかの理由により免職処分となるが、罷免時の免職プロセスをより効率的、速やかに行えるようにするため、今後政府は法案を国会に提出し、新たに大統領府、国家公共サービス庁及び国家予算庁からの代表者による委員会を設置し、論議を交わしていく由。
(ロ)健康保険拡充
2009年の大統領選挙での与党FA党のマニフェストの一つでもある国家健康基金(FONASA)へのアクセスの普遍化について、ロレンソ経済財務大臣は全国民の加入完了には7億ドルの予算が必要であるが、実際FONASAには2億5千万ドルの予算しかないため、経済状況が困難な人を優先して加入させていくことを発表した。BPS(社会保障銀行)加入者兼退職者のうち27万人の加入が未完了で、BPSに加入していない人も含めると35万人がFONASAに未加入。
(3)国防省関連
(イ)8日~13日、ロサディージャ国防大臣はベネズエラを訪問し、マタ・ベネズエラ国防大臣及び科学技術工業省幹部と会談を行い、今後ロジスティック及び人材育成に関する軍事協力を締結していくための協議を行った。また、伯、亜との軍事協定締結準備を進める一方、近々パラグアイ及びチリとの軍事協定交渉についても示唆した。
(ロ)当国国防省職員が米国で開催された講習会に参加するため渡米した際、マイアミ入国管理事務所において、ロサディージャ国防大臣のツパマロス活動時の過去につき尋問されたことに対し、同大臣は当地米国大使館に遺憾の書簡を送付。ムヒカ大統領も米国政府より然るべき説明がない限り、24日に予定されていた米国軍事関係上級官僚との会談を延期する旨発表。当地米国大使館は米国政府に説明要求を行っていることを発表し、本件に懸念を示したが、未だ同政府による正式な回答はない。
(ハ)海軍における国連維持活動関連の公的資金の不適切な運営につき、軍へ匿名の告発状が接到したことを受け、ロサディージャ国防大臣は内部調査を命じた。本件には海軍高官も関与している可能性が高く、匿名による告発は過去30ヶ月で2度目となる由。
(ニ)同大臣は7月6日、当国下院国防委員会において、ベネズエラ、米、伯、亜、パラグアイ、チリ及び南アフリカとの一連の軍事協定合意に関し、説明することとなった。また、海軍の使途不明金についても何らかの説明が求められることとなる見通し。
(4)内務省関連
(イ)ボノミ内務相は麻薬密売関連犯罪人(300人収容可)の刑務所設置に45,000ドルの予算を当てることを発表した。
(ロ)同内務相はマルドナード県に現在建設中の刑務所横に、新たに刑務所を建設する法案を下院が可決した旨発表した。同2刑務所により、今後500人が収容可能となり、1年以内にさらに2,500人分を収容する刑務所を建設する予定。これらは、現在6,000人の収容可能人員に対し、実際は9,000人の囚人がおり、以前より刑務所における人権問題が執りだたされていたことを受けての処置。
(5)教育
(イ)10日、ムヒカ大統領は中等教育におけるプラン・セイバル(児童へのパソコンの普及と学校への無線LAN設備の設置)開始のため、ウルグアイ技術研究所(LATU)を訪問した。これまでの初等教育でのパソコンの配布から、中等教育校に配布先を広げることで18歳までの学生計500,000人がパソコンを受け取ることとなる。
(ロ)初等教育審議会は毎年9,000人以上の児童が留年していることを受け、社会保障銀行(BPS)により支給されている家族手当について、子供が学校に通っていない家庭については今後支給をストップさせる旨通達した。右家族手当は家族の収入、住居環境、家族構成や両親の教育水準など一定の条件を満たしている弱者家族で、原則14歳までの学生がいる家庭に対し毎月764ペソ/学生(約38米ドル)支給される由。
(ハ)2005年~2008年まで社会開発省が実施した緊急社会支援計画において、大人のための識字教育により5,000人が識字できるようになった(キューバ政府が実施した識字教育プログラム「Yo Si Puedo」の実施)が、一方で、一度も学校教育を受けたことがない非識字人口が未だ30,000人程度いるため、今後同人口に焦点を当てて、同プログラムを継続していく由。
(6)労働関連
(イ)当国乳製品主要生産業者であるConaproleが、同社の商品を横流ししていたとして運転手を解雇した件で、5月中旬より同社労働組合は解雇された従業員の職場復帰を求めストライキを起こしていた。しかし、輸出業界において影響が出始めたため、労働社会保障省が仲裁役となり、早期ストライキ停止のためConaprole側に対し同従業員の解雇取り消し、及び4ヶ月間の就業一時停止後の失業保険給付の権利授与を求めた。これに対し、Conaproleは同省の要求を受け入れ、今後4ヶ月の失業保険の給付期間中に同従業員の扱いにつき何らかの決断を下すことを決定した。
(ロ)8日、新政権発足後初のゼネ・ストが行われたが、大きな混乱はなかった。
(ハ)ILOが発表した世界85カ国の経済危機に対する対応評価において、ウルグアイは5位にランキングされた。同評価は各国のマクロ経済及び社会指標である雇用創出数の2視点から実施された由。
(7)ムヒカ大統領の動向、発言
(イ)当国のアンケート会社Factum社及びEquipoMori社の調べによると、大統領就任後100日のムヒカ大統領の支持率はそれぞれ55%、63%。ムヒカ大統領とバスケス大統領の最初の90日を比較すると、メディアへの登場回数は「ム」大統領が「バ」前大統領の2倍であるのに対し、署名した政令の数は5分の1であった。これに対し、ムヒカ大統領は喋りすぎて、実行が伴っていないとの批判があがっている。
(ロ)電話公社(ANTEL)はブレチア大統領府長官の甥で、有名ジャーナリストの息子であるFabregat氏を同公社のアドバイザーとして、通常の試験や面接を行わず直接契約したことにつき説明を求められている。これに対し、ムヒカ大統領は同氏が就任してからこの2ヶ月でANTELは既に40万ドル節約しており、任命は間違っていなかったと述べた。
(8)エネルギー関連
クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は、GDPの1%成長に対しエネルギー需要も0.7%増加すると述べ、現時点ではエネルギー供給の選択肢として、イ)液化天然ガス再気化プラントの設置、ロ)石炭による国営発電所の設置(伯による推薦)、ハ)ボリビアからの天然ガス輸送の3点があることに言及。ハ)はほぼ決定事項で、今後イ)かロ)から一つ選ぶことになる。今後は技術的な検討のみでなく、政治的な決定となる見込み。
(9)モンテビデオ県庁ナンバー2の官房長職には、通常県知事と同じ党派の政治家が就くこととなっているが、同職を狙うMPP派(ムヒカ大統領の党派)と共産党派(オリベラ新知事の党派)間で合意が得られなかったため、社会党派に所属する元税関長のプラト氏が就くこととなった。これにより、7月から開始する新県庁要職ポストは全て決定した。
(10)その他
(イ)当地韓国インソン株式会社はカネロネス県に養鶏場及び食鳥処理場を設置し、本年9月または10月に稼働する予定であり、右施設は月20万羽の鶏を処理する由。生産された鶏肉はウルグアイ国内及び国外向けに出荷される予定である。右事業に同社は3千万ドルの投資を行う予定で、ウルグアイがラ米において最も透明性が高い国であることが同社の投資を呼び込んでいるとのこと。
(ロ)日本政府は草の根・人間の安全保障無償資金協力により、「セロラルゴ県メロ市身体障害者のための施設建設計画」及び「セロラルゴ県農村地域巡回診療車整備計画」にそれぞれ88,495ドル及び86,223ドルの援助を行った。
3.外交
(1)対アルゼンチン関係
(イ)首脳会談
2日、当国コロニア県において、ムヒカ大統領とフェルナンデス亜大統領の首脳会談が開催され、主に、(a)サン・マルティン国際橋梁封鎖問題、(b)UPM社セルロース工場のモニタリング問題、(c)エネルギー関連、(d)臓器移植協定内容の拡大、(e)軍事協定などが確認された。同首脳会談においては、特にエネルギー関連については実りがあったものの、両国間の意見の相違がより一層浮き彫りとなり、ウルグアイ側としては成果の見えにくい会談となった。両国は60日後に再度首脳会談を開催するとしている。
(ロ)サン・マルティン国際橋梁封鎖問題
8日、亜連邦裁判所は,エントレリオス州グアレグアイチュ市の市民団体がウルグアイ川沿いの製紙工場の撤去を求めて継続している国際橋梁封鎖につき,同橋梁の通行の自由の保障を命じた過去3度の判決を有効であるとみなす判決を下した。一方で、グアレグアイチュの環境活動家らは、UPM社(前ボトニア社)工場内での監視を条件として、国際橋梁封鎖を19日より60日のみ試験的に解除することを投票により決定した(賛成402票、反対315票)。従って、19日午後以降多くのアルゼンチン人が同橋梁を通じてウルグアイ側へ入国し、これまでの同橋梁通過人数は1万人を超える。右を受け、亜政府は環境活動家への司法手続きを取り消すこととした。
(ハ)ウルグアイ川のモニタリング
(a)15日付け大統領府プレスリリースは、ムヒカ大統領が亜側によるUPM社工場内での直接監視の可能性につき示唆したことを発表、さらには伯のモニタリング参加についても提案した。
(b)29日、ムヒカ大統領、アストリ副大統領及びアルマグロ外相はティメルマン亜外相と会談した。ティメルマン亜外相は同会談においてモニタリングに関する提案を行ったが、両外相は同案の詳細を公表しないことで一致した。アルマグロ外相は、亜側の提案は良いアイデアとしつつも、更なる分析が必要で、一週間以内に適切な追加提案を実施すると述べた。ウルグアイ政府側は、30日に政府内部で検討の上、7月上旬にも公式な回答をする由。
(ニ)Atucha原子力発電所
亜政府はウルグアイ側ヌエバ・パルミラ港及びフライベントス市から近いAtucha第2原子力発電所の建設につき、ウルグアイ側に通達しなかったことから、亜は1994年に批准している核安全保障協定を違反していることが指摘されている(ウルグアイも同協定に加盟)。しかし、ウルグアイは本案件を対亜外交問題のひとつとはしておらず、むしろ切り札となるであろうと言っている。ウルグアイ政府は原子力発電所内へのウルグアイ人技術者のアクセスを求めており、亜はウルグアイ技術者がAtucha第1、第2両原子力発電所で技能研修を実施することを提案している。
(ホ)その他
2009年に前駐ウルグアイ・マジェル亜大使が辞任してから空席となっていた同ポストに、アルバレス前亜副大統領(1999-2000)が就任することとなった。
(2)イスラエルのガザ支援船拿捕事件
ウルグアイ政府は本件に強い懸念を示し、イスラエルを非難する声明を発表した。また、Parlasur(メルコスール議会)も非難決議を可決する討議を行ったが、パラグアイの反対により批准には至らなかった。
(3)スペイン政府によるEl Plan de Retorno Voluntario
同プランは、スペインと協定を結ぶ19カ国(うち10カ国はラ米諸国)からの移民が本国に帰国することを支援するもので、右プランに参加するための条件は、イ)合法的にスペインに居住しており、仕事を持っていること、ロ)参加することで居住権と仕事を放棄すること。本国に帰国する際は、片道切符、旅行用雑費50ユーロ、失業保険の40%が支給されており(残りは本国で支給)、平均支給額は9,035ユーロである。在スペイン「ウ」人は約80,000人で、ウルグアイも同プランの対象国の一つであるが、ウルグアイ人の帰国はそれほど促進してはおらず、これまでわずか343人が右プランを通じて当国へ帰国した由。
(4)ミロノフ・ロシア連邦議長の訪ウ
16日、ウルグアイを訪れていたロシア連邦議会ミロノフ議長はムヒカ大統領と会談し、これまでの二国間農業・牧畜関係の強化に加え、地質調査、鉄道、インフラ整備につき相互協力を確認し合った。
4.社会
(1)3日、11万人分のA型インフルエンザ用ワクチンが新たに到着した。これで30日までに計55万人がワクチン支給を受けたこととなる。
(2)治安
(イ)1月~4月で強盗事件が約5,000件発生(昨年同期比25%増)し、うち40%に18歳未満の少年が関与していた。
(ロ)1月~5月の間、モンテビデオ県内を走る路線バス(約1,700台)のうち、250台が強盗被害を受けたことが判明した。
(ハ)17日、日本大使館近辺で強盗事件が発生、警官隊と銃撃戦となり、犯人のうち1名は警察官に銃で撃たれ死亡、1名は負傷し緊急病院に搬送された。車両に乗車した1名はそのまま逃走し、現在も警察で捜索を続けている。なお警察官や通行人に被害はなかった。
(ニ)5月中に警備員に重傷を負わせるなど4件の強盗事件に関与した疑いで保護されていた16歳の少年がINAU(ウルグアイ青少年庁)施設から脱走していたことが判明。同施設では22日と23日にも収容されていた少年等が暴動を引き起こし、10名が脱走している。
(3)当地チャンネル10(民間放送)及びDIRECTVの間で、サッカーワールド・カップの放映権の譲渡に関し合意に至らなかったことを受け、チャンネル10はDIRECTVに対し、放映権を直ちに放棄することを求め刑事告訴した。チャンネル4及び12はワールド・カップ開催前に既にDIRECTVと45万米ドルの契約金で放映権を譲渡する合意に至っていたが、チャンネル10とは交渉決裂していた。
(4)世銀の発表によると、子供の水、衛生、電気及び教育など基礎的生活へのアクセスによって算出される人間機会指数(Human Opportunity Index)において、ポイント制で0~100まで集計した結果、ラテンアメリカ諸国においてウルグアイは92ポイントを獲得し、チリ(95ポイント)に次ぎ第2位にランキングされた。