ウルグアイ内政・外交:5月
1 概要
(1)内政
●ムヒカ大統領は,エクトル・レスカノ観光スポーツ大臣が退任し,リリアム・ケチチアン同次官が後任として就任するとの人事を発表した。
●与党FA党の党首選挙及び執行部役員・代表選挙が行われた。
(2)外交
●マルティン・ガルシア運河浚渫事業を巡り,ブスティージョ外務省大臣秘書室長に対する贈賄未遂疑惑が発覚し,バライバル大統領補佐官の辞任問題に発展した。
●アルマグロ外相は,スペイン,アルメニア及び中国を公式訪問した。
●モンテビデオのラテンアメリカ統合連合(ALADI)本部において,ALADI,アンデス開発公社(CAF)及び国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の共同プロジェクトである「ラテンアメリカ・アジア太平洋関係研究所」開設イベントが開催され,日本からは,佐久間健一駐ウルグアイ日本大使がスピーチを行った。
(3)社会
●治安の悪化を受け,モンテビデオ県警本部幹部と住民による治安改善に向けた話し合いが,県内各地で開催された。また,大統領以下関係閣僚,警察官等で構成される治安委員会が立ち上げられた。
●ラテンアメリカにおけるテロ発生の可能性が極めて高い状態にあるとの報道がなされた。
2 内政
(1)閣僚交代
30日,ムヒカ大統領は,エクトル・レスカノ観光スポーツ大臣が退任し,リリアム・ケチチアン同次官が後任として就任するとの人事を発表した。また,アントニオ・カランブラ同官房長が同次官に昇格した。現政権での閣僚交代は今回が4人目。
(2)政府及び議会の動き
ア 5日,政府はILOが2011年に採択した「家事労働者の適切な仕事に関する条約」を批准する法律第18899号を発布し,ウルグアイは世界で初めて同条約の批准国となった。
イ 11日,政府はデジタルテレビに関する政令を公布した(5月経済定期報告参照)。
ウ 15日,所得再分配政策の一環として,上院は全会一致で付加価値税(IVA)及び個人所得税(IRPF)の減税法案を可決した。法律が施行されると,社会デビットカード被配給者40万人を対象としてIVAが撤廃されるほか,全国民を対象としてクレジットカード及びデビットカードによる支払いに対してIVAが2%減税される予定である。また,IRPFについても減税対象に含まれている。
(3)与党拡大戦線(FA)党関係
27日,与党FA党の党首選挙及び執行部役員・代表選挙が行われた。投票数は17万770票であり,前回2006年の22万2000票から約5万1000票減となった。党首選には,アガシ氏(MPP),シャビエル氏(社会党),ルビオ氏(Vertiente Artiguista)及びカスティージョ氏(共産党,全国労働総同盟(PIT- CNT))の四名が立候補した。31日に集計作業が開始され,6月30日に予定されている党全国総会で党首を始め新執行部等の人事が正式に決定される予定。シャビエル氏の優勢が明らかとなり,アストリ副大統領を中心とするグループに対する支持が増えた。
(4)教育関係
ア 30日,政府は貧困家庭等の4歳以下の幼児を対象とする総合的保護プログラム「Uruguay Crece Contigo」を発表した。同プログラムは,親に対する家庭近隣での仕事斡旋,総合的な社会・教育・衛生事業,啓蒙活動,制度強化の4つの軸によって構成されており,関連省庁からなるコーディネート委員会が一括して運営する。
イ 31日,プラン・セイバル5周年を記念して式典が開催され,ムヒカ大統領,関係閣僚及びバスケス前大統領らが参加した。現在,57万人の生徒及び教師が同プロジェクトにより支給されたコンピューターを利用可能な状況にあり,うち99%は学習の場においてインターネットへのアクセス環境を有するに至っている。
(5)労働関係(5月経済定期報告も参照)
1日,労働組合ナショナルセンターのPIT-CNTによるメーデー集会が開催された。集会では,前政権からの7年間に政府が達成した成果を称える発言もなされた。今回,労組側の要求の中心となったのは,治安(特に麻薬密売)の改善,富の更なる再分配,犯罪歴のある若者たちへの雇用対策であった。集会には,ムヒカ大統領,アストリ副大統領、閣僚の他,トポランスキー上院議員,FA党の4名の党首選立候補者等が出席した。
(6)軍関係
ア 3日,トポランスキー上院議員は,アルゼンチンのメディアによるインタビューの中で,軍は与党FA党の政策に忠実であるべきだとの発言を行い,これに対して野党のみならず与党FA党内からも批判の声が相次いだ。ウイドブロ国防相はコミュニケを発出し,トポランスキー上院議員による上記発言は反民主主義的であり賛同できない旨述べた。
イ 14日,カラメス海軍総司令官が辞任し,15日に後任としてジャンブルノ少将が就任した。カラメス氏は,2007年5月から2008年12月にかけて2件の物品購入偽装に関与したとされており,今回の辞任は事実上政府による更迭であった。政府は,同様に2人の少将に対しても停職処分を決定した。本件を巡っては,既にマッジオ元総司令官が起訴されており,ビグリエティ元司令官及び6人の将校に対しても起訴請求が行われている。
ウ 18日,軍は1972年5月18日にツパマロス弾圧作戦に伴い4人の兵士が死亡した事件から40年を記念する式典を開催した。ムヒカ大統領は,逮捕・行方不明者家族らへの配慮から,アゲレ陸軍総司令官を除き式典への軍人の参加は私的(私服着用)且つボランタリーベースで行うよう通達を出し,退役軍人らから批判が相次いだ。
(7)軍政期の人権侵害問題等
ア 3日,先コロンブス先住民博物館(旧国防省庁舎・歴史遺産)にて大量の軍政期の軍関連資料が偶然発見された。軍政期の弾圧等に関して新たな情報が得られることが期待されている。
イ 20日,逮捕・行方不明者家族の会による17回目の「沈黙の行進」がモンテビデオ市内で開催された。
ウ 23日,大統領府人権問題官房は,ブエノスアイレスにおいて発見された人骨の一部が,DNA鑑定の結果,1976年にアルゼンチンにおいて逮捕・行方不明となったウルグアイ人左派活動家アルベルト・メチョソ・メンデス氏のものと判明した旨発表した。
(8)その他
ア 8日,国民党は,政策監視委員会(通称:「影の内閣」)を6月5日に立ち上げることを発表した。同委員会は,各12~15人の政治家,研究者等からなる14のグループにより構成され,各省庁の政策の監視及び政策提案を行っていくことになる。
イ 15日,Factum社が,支持政党に関する世論調査結果を公表した。政党別の支持率は,FA党43%,国民党22%,コロラド党17%等となり,国民党が失った浮動票をコロラド党が獲得しつつある現状が確認された。
ウ 23日,Cifra社が,支持政党及びムヒカ大統領への評価に関する世論調査結果を公表し,FA党40%,国民党21%,コロラド党17%等との結果が出た。ムヒカ大統領に対する評価は微減し,「親しみを感じる」との回答が54%であったのに対して,政策について「評価する」との回答は45%に留まった。要因としては,労働争議,教育問題,治安問題,対アルゼンチン関係等に対する政府の不十分な対応への国民の不満が挙げられている。
3 外交
(1)対アルゼンチン関係(経済関係については,5月経済定期報告を参照)
6日,「エル・オブセルバドール」紙は,ラ・プラタ川にあるマルティン・ガルシア運河の浚渫事業に関して,ラ・プラタ川管理委員会(CARP:両国より5名ずつの代表団が出され,計10名で構成)にてウルグアイ側代表団長を務める外務省ブスティージョ大臣秘書室長に対し蘭Riovia社から賄賂の申し出があった旨報じた。これに対して,11日に外務省はコミュニケを発出し,該当する事実は無いとし,ムヒカ大統領及びアルマグロ外相も同内容のコメントをした。
14日,ティメルマン亜外相は,本件の共同調査と明確な答えが出るまでの入札プロセスの停止をアルマグロ外相に提案。アルマグロ外相も提案受け入れを表明したが,16日早朝,バライバル大統領補佐官(兼外務省無任所大使)が,「ブスティージョ氏は賄賂を断り,アルマグロ外相等に報告した」と語り,政府の発表を実質的に覆し,大きな反響を呼ぶことになった。
同じく16日午後に,ティメルマン外相は,再度アルマグロ外相宛の書簡を発出。その中で,①本件疑惑が,運河浚渫の入札プロセスを遅らせない旨保証するとともに,②Riovia社が担う同運河の管理契約更新の際に改めて入札を行うことを提案した。
(2)対メキシコ関係
9日,第4回ウルグアイ・メキシコFTA委員会が開催された。両国政府は,粉ミルクの市場アクセスに関して,年間5000トンの割当で関税撤廃を開始し,今後割当量を1万1000トンにまで漸増させることにつき合意した。会合では,物品貿易,サービス貿易,投資等についても協議が行われた。
(3)対スペイン関係
3日,アルマグロ外相はスペインを訪問し,ガルシア・マルガージョ西外務・協力相と会談をした。会談では,経済,政治,文化など多様な分野における二国間関係の深化を念頭に意見交換が行われた。また,アルマグロ外相は,11月にカディスで開催されるイベロアメリカ・サミットにムヒカ大統領が出席する旨伝えた。
(4)対中国関係
25日~31日,アルマグロ外相は中国を訪問した。
ア アルマグロ外相は,28日に開催された第1回中国サービス貿易国際博覧会(CFTIS)ハイレベルフォーラムにおいてウルグアイ代表団長としてスピーチを行った。ウルグアイはラテンアメリカ諸国で唯一CFTISにスタンドを出展した国であった。
イ アルマグロ外相はまた,29日に謝杭生・中国共産党外交副部長(ラテンアメリカ担当)と,30日に習近平・中国国家副主席と会談を行った。習国家副主席は,6月22日及び23日に温家宝・中国首相がウルグアイを訪問すると伝え,アルマグロ外相は,ウルグアイはインフラ,環境,農業,科学技術等の分野において中国との協力関係を強化したいと語った。
(5)対アルメニア関係
4日及び5日,アルマグロ外相はアルメニアを訪問し,サルギシャン同国大統領,ナルバンジャン同外相らと会談した。会談において,アルメニア政府は,1965年にウルグアイ政府が世界で初めてトルコによるアルメニア人大虐殺を承認したこと及び 2011年にウルグアイ政府がナゴルノ・カラバフ地域に関して明らかにした立場につき感謝の意を表明した。これに対して,アルマグロ外相は,欧州安全保障・協力機構(OSCE)Minskグループの対アルメニア・イニシアティブへのウルグアイ政府の支持を改めて表明した。ウルグアイ国内には約2万人のアルメニア系住民が居住しており,今回の訪問はウルグアイの外相として初のアルメニア公式訪問となった。
(6)対国際機関関係等
ア 7日,政府は,汎米保健機構(PAHO)次期事務局長選挙に,マリア・フリア・ムニョス元厚生相を立候補させることを発表した。
イ 10日,パナマのラテンアメリカ統合連合(ALADI)正式加盟手続きが終了した。モンテビデオのALADI本部において,パナマのドナド大使がALADI常駐代表委員としての信任状捧呈を行い,同日付でパナマがALADI域内諸協定を承認した。
ウ 20日,バスケス前大統領は,OAS選挙監視団長としてドミニカ共和国大統領選挙における監視ミッションに参加した。
エ 28日,外務省はシリアのホウラ市における虐殺に関して,非難声明を発出した。声明は,今回の軍事攻撃に対して断固とした非難を表明するとし,ウルグアイ政府は安保理が承認したアナン氏による6項目提案が,シリアにおける平和,法的安定性及び人権尊重の確保という解決策に向けての唯一の道であるとの再確認を表明した。
オ 29日,国際協力庁は,教育,科学及び文化のためのイベロアメリカ諸国機構と両機関間のコミュニケーション改善に関する協力協定を締結した。
カ 31日,モンテビデオのALADI本部において,ALADI,アンデス開発公社(CAF)及び国連ラテンアメリカ・カリブ経済委員会(ECLAC)の共同プロジェクトである「ラテンアメリカ・アジア太平洋関係研究所」開設イベントが開催され,ウルグアイ政府関係者,ALADI加盟国及びアジア太平洋諸国の大使・代表らが出席して,両地域関係の推移及び今後の展望に関するプレゼンテーションを行った。
日本からは,佐久間健一駐ウルグアイ日本大使がスピーチを行い,日本とラテンアメリカとの長期にわたる安定した関係,国際場裏での価値観の共有,今後の関係強化等につき説明した。
4 社会
(1)治安
ア 昨今の治安悪化を受け,モンテビデオ県警本部幹部と住民による治安改善に向けた話し合いが,県内各地(8日:シウダ・ビエハ地区,9日:ポシートス地区,10日:コロン地区,15日:個人経営者の会(カンバドゥ))で開催された。住民からは,警察官の増員,交差点での車の窓ふきの取り締まり,麻薬の取り締まり強化等の要望が出された。
イ 4日現在国内の刑務所には,9346人が収容されている。このうち5504人が再犯者,6030人が未決勾留者となっている。4月の暴動後,コムカル刑務所からけん銃9丁と手榴弾が発見され,大統領府情報部では,警察や軍隊から盗まれた武器等が受刑者に渡っており,刑務官らが受刑者から脅されている状況もあると見ている。
ウ 11日,アンケート会社「ラティノバロメトロ」社がラテンアメリカ18カ国で2万人に対して行った治安に関するアンケート結果が報じられ,ウルグアイは,ラテンアメリカの中で最も治安が良いという結果となった。人口10万人当たりの殺人の件数は6.1件で,ラテンアメリカの中で最も低くなっている。
また,17日,Cifra社が行ったアンケートによると,国内の主要な問題は治安であるとした回答が65%,刑罰対象年齢の引き下げに関しては,賛成が54%,反対が34%であった。
エ 18日,ラテンアメリカにおけるテロ発生の可能性が極めて高い状態にあると報じられた。内務省情報局関係者によれば,必ずしもウルグアイ国内でテロが発生することを意味するものではないが,テロ組織がウルグアイを拠点,避難場所,トランジットとして利用する可能性があり,情報局では,中東諸国人の査証申請や入国する者の監視,ユダヤ関係施設の警備強化等緊急対策を開始した。
オ 14日,治安悪化に伴い実効性のある治安政策を求めるデモがモンテビデオ市内で開催された。約1000人の市民が大統領府前で集会を行い,政府に治安対策を進めるよう求める要望書を提出した。こういった状況を受けて,21日,政府の治安対策閣僚会議が開催され,ムヒカ大統領を筆頭に,懸案である治安対策につき議論を行った。
その後,大統領以下関係閣僚,警察官等で構成される治安委員会が,28日までに三回開催され、犯罪少年の最高収容期間を5年から10年に引き上げること,麻薬中毒者を強制入院させることなどが検討されている。
(了)