ウルグアイ内政・外交動向(2007年5月~7月)
●概要
5月、6月、7月を通じ、内政面では7月1日の新税制制度施行にむけた動き、バスケス大統領の再選問題、過去の人権侵害問題に関する国民融和、2008年度補正予算案など、大きな議論が行われた。いずれも与野党間の意見の相違よりは、与党・拡大戦線内の調整に時間がかかっており、幅広いイデオロギーを持つ左派連合であるというバスケス政権の特色が色濃くでる結果となった。しかし、バスケス大統領に対する支持率は50代後半で安定している。
外交面に関しては、引き続き亜とのセルロース工場建設問題は争点ではあったが、それ以外に、議会設立や、ベネズエラ加盟承認が問題とっているメルコスール、また本年3月のブッシュ・米大統領に続く米高官の来訪が注目を集めた。
●内政
(1)世論調査
(イ)4月調べの世論調査結果
5月8日、調査会社Cifraによる世論調査の結果が発表された。バスケス大統領の支持率58%、不支持率21%、政権支持率は59%、不支持率は17%。58%が大統領職の直接再選を可能にすることに賛成。31%が反対という結果であった。
一方、5月15日に発表された調査会社EQUIPOS MORIの結果によれば、政権支持率は44%、不支持率は25%、バスケス大統領の支持率は53%という結果であった。
両社による支持率の差異は、調査方法の差であるとのことである。
(ロ)6月調べの世論調査結果
7月25日、調査会社Equipos Mori 調べの世論調査が発表され、バスケス大統領の支持率は53%(4月)から57%(6月)に上昇した。政権支持率は42%、不支持率は22%であった。一方、調査会社Factum調べでは、60%(3月)から51%(6月)に落ちている。
(2)バスケス大統領の再選問題
(イ)上記5月発表の世論調査結果を受けて、バスケス大統領の再選問題につき各党の政治家が様々な発言を行った。野党である国民党、コロラド党は再選を可能にするための憲法改正には反対の姿勢を取っている一方で、ムヒカ農牧水産大臣は、バスケス大統領の再選に賛成であると表明した。
(ロ)一方で、バスケス大統領は5月14日の閣議の場で、再選問題に拘ることなく、改革推進などの政権運営に専念してほしい旨の発言を行った。
(ハ)6月4日、バスケス大統領はスピーチを行い、2009年10月に予定されている次期大統領選挙にて自身の再選を目指さない旨を表明した。スピーチは当初、6月19日のアルティガス将軍の生誕日の行事(後述)についてのみ行われる予定であったので、このタイミングでの不出馬表明に皆驚きを隠せないでいた。
(ニ)バスケス大統領の不出馬発言に続き、コロラド党の一派Foro Batllista代表であるサンギネッティ元大統領も6月8日に不出馬を表明した。また、バジェ前大統領(コロラド党、Lista 15)も不出馬宣言を行っている。
(3)NUNCA MAS「決して二度と」の日
Dia de los caidos(ゲリラによって殉職した警察官、軍人を追悼する日)の行事を取りやめ、独立戦争の英雄であるアルティガス将軍の生誕日である6月19日を唯一の追悼日とするとバスケス大統領は2006年末に表明していた。
当初、バスケス大統領は6月19日に軍及び市民によるパレードを行うことを予定していたが、軍政期の行方不明者の家族及び殉職者の遺族双方より、同一の日に共同で式典を行う事に対し強い反発が噴出した。右を受け、野党よりも「決して二度との日」のコンセプトが明確ではない、との批判が続出していたところ、バスケス大統領は6月4日に急遽演説を行った。右演説では、「決して二度との日」は、国家による暴力や人権侵害などを二度と繰り返さないとの決意を新たにする国民融和の記念日であること、軍及び市民によるパレードは行わず、独立広場にあるアルティガス将軍像への献花のみを行うことが発表された。
6月19日当日は、与党構成員、ララニャガ国民党代表等の野党の一部、軍事独裁政権に道を開いたボルダベリー元大統領の息子であるボルダベリー前観光大臣(コロラド党)、全国労働総同盟(PIT-CNT)、行方不明者の遺族会(Organizacion Madres y Familias de Detenidos y Desaparecidos)等がアルティガス将軍に献花するバスケス大統領と行動を共にした。
(4)2008年度補正予算案
(注:ウルグアイは政権5年間の大まかな予算をたてており、毎年右に対する補正予算を組んでいる。5カ年予算案は2005年12月に成立済み。)
5月14日、2008年補正予算案が国会に提出され、まずは下院での審議が始まったが、トゥルネ内務大臣(警官の給料増加)、ブロベット教育文化大臣\8教育予算の増加)、アリスメンディ社会開発大臣(社会政策実施予算の増加)他より、各省庁の予算増加を求める主張がなされた。
アストリ経済財務大臣は緊縮財政の必要性及び予算増加により引き起こされるインフレの危険性を説き、予算額の増加には応じられないと強く主張、バスケス大統領も右を支持した。
しかし、教育分野予算については、GDPの4.5%を当てるという選挙公約が存在しており、与党FA内のMPP,社会党、共産党等が教育予算増加を強く主張(一方で、Asamblea Uruguay, Alianza Progresista、Nuevo Espacioはアストリ大臣を支持した)。
6月28日、補正予算総額は変更せずインフラ整備費の一部などを削って教育予算を3,000万米ドル増やすことで与党内の調整がつき、予算案は下院を通過、上院に送られた。
(5)税制改革の施行開始
(イ)概要
2006年12月に国会で税制改革法案が可決されたことにより、7月1日、新税制が施行された。バスケス大統領の最大の選挙公約である税制改革は、35年ぶりの抜本的改革であり、税制の簡素化、合理化・平等性、個人所得税の導入を目的としている。既存の19税目のうち効率性の悪い15税目を撤廃し、新たに事業収益に関する税目を統合した事業活動税、利子、賃貸料などを含む全ての現金収入に課税される累進制の個人所得税、非住民国内所得税を導入した。また、付加価値税については、基本税率23%が22%に、生活必需品、サービスに対する最低税率は14%から10%に低減された他、3%の社会貢献税(Cofis)は撤廃された。
(ロ)個人所得税導入の影響
給与のみに課税されていた今までの所得税から個人所得税に転換したことにより、52%税収が増加すると見られている他、累進制の導入により、一般的に言って少数の高所得者の税負担が増加し、大多数の中所得者の税負担は不変、低所得者の負担は軽減される計算になり、平等化を推進するシステムとなっている。
しかし、年金収入にも課税されることとなった結果、年金所得を保証する憲法に反すると問題提起されている他、今まで課税されていなかったサッカー選手や俳優の給与、国会議員の給与、軍人への食費手当および住居手当、政府のプロジェクト実施のためNGOに支払われている契約金への課税など、新税制施行後も各所から反発が上がっている。
(6)保険制度改革(Reforma de salud)
より公平で年金生活者及び低所得者に配慮した公的保険制度を目指し、3つの法案からなる保険制度改革の検討が行われている。1)公立医療サービス機関(Administracion de Servicios de Salud del Estado:ASSE)の独立法人化・独立採算性化、2)2万6千人分の国家公務員共済組合と一般国民保険の統合し全国健康保険基金(Fondo Nacional de Salud:Fonasa)を創設、3)18歳以下の子供も被保険者に含める法案、の3つである。
3)が今回の改革の目玉であり、右により、包括的な保険制度(Sistema Nacional Integrado de Salud)の運用を目指す。子供の保険費は、現状所得の3%である保険料を6%まで増額することで対応する予定であるが、18歳以下の子供がいない家庭においては単なる負担増となるため、右については現在議論が行われている。
7月1日より施行された新税制改革の影響が収まるまで、上記3)の法案の実施は延期するべきだとの議論が与党内で行われていたが、7月31日、与党は2008年1月より施行することで合意した。
●外交
(1)メルコスール
(イ)メルコスール議会
5月2日、ウルグアイのメルコスール議会議員が国会にて決定され、FA10名、国民党7名、コロラド党1名が選出された。
5月7日にはメルコスール議会の開会式がモンテビデオにて行われ、ウルグアイからはニン・ノボア副大統領及びガルガノ外相が、亜からはシガル経済統合相が、伯からはアモリン外相、パラグアイからはラミレス外相が出席した。また。8日に初のセッションが行われた。
5月24日-25日、モンテビデオ県庁にてメルコスール議会の第2回目のセッションが行われ、主要議題としてメルコスール議会規約の内容、亜のマルビーナス諸島領有権に対する支持、WTOに対するメルコスール加盟国の共通姿勢の3点が扱われた。
(ロ)議長国の引き継ぎ
6月27日-28日、アスンシオンにてメルコスール共同市場審議会(CMC)の外相・経済相、及び首脳会議が行われ、バスケス大統領、アストリ経済財務大臣、ガルガノ外相が参加した。同会議の場で議長国がパラグアイからウルグアイに引き継がれ、ウルグアイは7月1日より12月末まで議長国を努める。
ウルグアイが議長国に就任するにあたって、バスケス大統領は、関税同盟の達成、共通の金融政策の模索、新市場へのアクセス、エネルギー統合、物理的アクセスと通信の改善、科学・技術・開発分野における協力、文化的統合、人権・労働権・社会保障、メ議会及び南米銀行を含む機能面の10点を今後6ヶ月に取り組むべき課題としてリストアップした。
(ハ)アルバレス・メルコスール常駐代表委員会委員長の訪日
アルバレス・メルコスール常駐代表委員会委員長は6月5日より訪日し、JBIC、IDB、亜・伯・ウルグアイ・ベネズエラ・パラグアイの加盟5カ国の在京大使館が共催した「メルコスールにおける日本企業の新たなビジネス機会(El Mercosur : Oportunidades emergentes para Japon)」と題するセミナーに参加し、メルコスールと日本の関係強化の意志を表明した他、松島政務官を表敬した。
(ニ)ベネズエラのメルコスール加盟問題
7月3日、チャベス・ベネズエラ大統領は、9月末までに加盟手続きが終了しないのであれば、加盟申請を取り下げる用意があることを表明し、いわば最後通牒をつきつけた。加盟議定書は、伯議会、パラグアイ議会において未だ承認されていない。
7月18日、アストリ経済財務大臣は亜の企業家向けセミナーにて講演を行った際に、チャベス大統領の対立的姿勢(estilo confrontativo)はメルコスールのためにならず、ベネズエラの加盟により、メルコスールの他ブロックと交渉が困難になるだろうと発言した。右を受けて、在ウルグアイ・ベネズエラ大使が遺憾の意を表明したほか、ガルガノ外相は、ベネズエラの加盟議定書に署名、ウルグアイ国会で承認したことこそがバスケス大統領の意であるとの発言を行った。
(ホ)南米銀行への参加
6月25日の閣議にて、ウルグアイの南米銀行への参加が決定された。バスケス大統領は、「メルコスール内のどの国も南米銀行の枠組みの外にいることはできない」と述べている。
(2)セルロース工場建設問題
(イ)NYにおける専門家会合
西国王の仲介により、4月に亜との間で署名されたマドリッド宣言を受け、5月29日、30日、第1回専門家会合がニューヨークにて行われた。ウルグアイ側からはカンセラ外務省官房長他が出席し、本件に関し認識を深め問題を友好的に解決する方法を模索するために直接対話を継続する内容の共同宣言に署名した。
7月30日、31日に第2回専門家会合がニューヨークにて行われ、ウルグアイ側からはカンセラ外務省官房長、トレス環境長官他が出席した。亜ウ両国はマドリッド宣言に記載されている全ての問題について報告を行い、共同宣言が発出された。同宣言では今後も交渉を続けていく意志が確認されたが、近時の解決につながる進展はなかった。
(ロ)工場の完成度
5月24日、木材を細かく粉砕する機械のテスト用にBOTNIA社工場に初めて木材チップが運び込まれ、5月27日には補助釜の使用試験が行われ、工場の煙突より煙が発出されるなど、工場の完成が目に見える形で近づいてきている。
7月25日付けのEL PAIS紙では、残り5%の道路や庭部分を除いて工場は95%完成しており、8月末には、セルロースの製造が可能になる見込みであると報じている。
(ハ)国境封鎖
工場の完成が目に見える形で近づいてきたことを受け、亜市民団体は引き続き抗議運動を続けており、フライベントス市と亜のグアレグアイチュ市を繋ぐ国際橋梁の封鎖は7月20日で8ヶ月目を迎えた。北二つの橋でも、大型連休や週末を中心に、断続的に封鎖が続いている。
(ニ)ICJ
7月19日、ウルグアイはICJに対し、ウルグアイ河規約は同河に係わる事項を相手国に通知する義務を課しているのみであり、相手国の承認を必要としておらず、セルロース工場建設に関してウルグアイは同規約に違反していないとする内容の反対陳述書を提出した。今後、9月12日に、亜側がさらなる反訴を行うかいなか問う為、両国代表はICJに出頭する予定である。
(3)対アフリカ外交
(イ)5月31日、ウルグアイはリベリアと両国国連代表部間で外交関係樹立のための署名を行った。
(ロ)6月18日から22日にかけて、エレラ外務次官は外務省ミッション及び官民の企業家を引き連れてアンゴラ、及び南アフリカを訪問し、アンゴラで行われた第6回南大西洋平和協力地帯閣僚会議に参加した。
(ハ)右会議の機会を利用して、対アフリカ外交を活発化させたいとの現政権の政策に従い、エレラ外務次官は、ナミビア、アンゴラ、赤道ギニア、ガボン、コンゴ民主共和国との間で二国間会合を持った。さらにギニアとは、Mohamed II Cisse外務・国際協力・アフリカ統合省官房長との間で6月19日に外交関係設立のための署名が行われた。
(4)IWC再加盟問題
6月8日、外務省、住宅土地整備環境省、農牧省、観光・スポーツ省の代表が集まり、IWCの再加盟問題の調整会議が開催された。右の結果外務省は在英国ウルグアイ大使に対して、ウルグアイの再加盟決定をIWC事務局に通報するよう指示することを決定した。また、ウルグアイが同機関に対して負う分担金の支払いにつき交渉を開始するよう要請した。
環境保護を重視する現政権による今回の決定により、ウルグアイは20年ぶりにIWCに復帰することになる。
(5)米国高官のウルグアイ訪問
(イ)7月10日~11日にバーンズ米国務次官及びシャノン米西半球担当国務次官補がウルグアイを訪問し、バスケス大統領及びガルガノ外相を表敬訪問した他、上院外交委員会と会合を持った。右の場でバーンズ米国務次官は、米国は優先的にウルグアイと経済関係を強化する所存である旨を表明した他、ウルグアイとのFTA締結については、可能性はあるとしながらも、メルコスールを尊重しつつウルグアイ政府との交渉は可能な範囲で進めると語った。
(ロ)ポールソン米財務長官は7月11日夜に伯より到着し、12日の午前中にバクスター在ウルグアイ米国大使に伴われてバスケス大統領を訪問した。午後は、ラ米の蔵相との懇談会に参加し、米国はラ米のインフラ整備を支援し、中小企業に対して融資するプログラムを実施する旨を表明した。右会合には、アストリ経済財務相をはじめ、ベラスコ・チリ蔵相、カルステンス墨蔵相、カヨ・ペルー経済次官が参加した。
●要人往来
・5月7日、メルコスール議会の開会式出席のために、シガル亜・経済統合相及びアモリン伯外相、ラミレス・パラグアイ外相が来訪した。
・5月7-12日、ニン・ノボア大統領、ロサレス陸軍司令官、バヤルディ国防省次官がハイチを訪問、同国にPKO任務で派遣されているウルグアイ軍を訪問した他、アレクシー首相他閣僚との会談を行った。
・5月13-17日、レプラ工業エネルギー鉱業大臣は、ベルガラ経済財務次官及び経済ミッションを引き連れ、フィンランドを訪問し、Pekkarinen商工業大臣と会談した。その後、ベルガラ経済財務次官は西を、レプラ大臣はスウェーデンを訪問した。
・5月22日、共同市場審議会(CMC)の特別会合に出席するために、ガルガノ外相及びアストリ経済財務大臣がアスンシオンを訪れた。
・6月13-16日、エジプトのHatem Saif El-Nasar米州及び米州機構担当副大臣(vicecanciller de Egipto para las Americas y la OEA)がウルグアイを来訪し、ウルグアイ・エジプト友好関係条約発効75周年、通商協定発効30周年等を中心に、二国間の共通利益に関するテーマにつきガルガノ外相と会談した。
・6月18-22日、エレラ外務次官は外務省ミッション及び官民の企業家を引き連れてアンゴラ、及び南アフリカを訪問し、アンゴラで行われた第6回南大西洋平和協力地帯閣僚会議に参加した。
・6月22日、アスンシオンにてメルコスール環境大臣会合が行われ、アラナ住宅土地整備環境大臣が出席した。
・6月27-28日、バスケス大統領、アストリ経済財務大臣、ガルガノ外相はメルコスール共同市場審議会(CMC)出席のため、アスンシオンを訪れた。
・7月10-11日、バーンズ米国務次官及びシャノン米西半球担当国務次官補がウルグアイを訪問し、バスケス大統領及びガルガノ外相等に表敬訪問した。ポールソン米財務長官は7月11日夜にウルグアイに来訪し、12日バスケス大統領を訪問した。