1 概要
(1)内政
●1日、メーデーの式典が開催され、ムヒカ大統領他政府高官及び全国労働総同盟(Pit-Cnt)等が出席した。
●与党拡大戦線(FA)党は、ムヒカ大統領やアストリ副大統領の意向に反して、失効法の無効化法案の下院での可決を目指したが、19日、同党議員1名の棄権により賛成票は過半数に満たず、法案は否決された。
●ムヒカ大統領は国内2,000ヘクタール以上の土地所有者への不動産税を増税し、この税収6,000万ドルを国内のインフラ整備に配当すると言及したことで、アゲレ農牧水産大臣と対立、アゲレ大臣は辞職も示唆したものの、現職に留まった。
(2)外交
●11日、ウルグアイ・アルゼンチン間の外相会合が開催され、貿易障壁やウルグアイ川及びラ・プラタ川における浚渫プロジェクト、UPM社(前ボトニア社)の工場の排水問題、及び液化天然ガス再気化船の建設等多岐にわたる分野に関し協議が行われた。
●18日~21日、アルマグロ外相はイスラエルを訪問し、ペレス首相、リベルマン副首相等と会合、イスラエルとの外交関係の重要性や二国間外交アジェンダを確認した。
●20日及び21日、英国のブラウン外務閣外相がウルグアイを訪問し、アストリ副大統領等と会合を行い、フォークランド諸島問題や、EU・メルコスールFTA交渉、科学技術分野での協力及び経済関係の強化等につき協議した。
●30日、ルーセフ伯大統領が訪ウし、ムヒカ大統領と会談、16の協力協定に署名した他、ウルグアイ技術研究所(LATU)に建設予定のデジタルテレビ研究所の設置予定地を視察した。
(3)社会
●イベロアメリカ・バロメーター2011(アンケート調査)によると、アンケート回答者の60%が、治安の欠如がウルグアイ最大の問題であると認識、アンケート対象となった国の中で、治安が最重要課題であると回答した人の比率が最も高い国となった。
2 内政
(1)政府の動き
ア 1日、カネロネス県ラス・ピエドラスにおいて、メーデーの式典が開催され、ムヒカ大統領を始めとして、8名の閣僚等の政府高官、その他政治家及び全国労働総同盟(Pit-Cnt)が出席した。政府は、テレビ・ラジオ等の国営放送を通じてメッセージを発信、これまでの賃上げや労働条件の改善及び所得の再分配の改善を強調した。一方、Pit-Cntは所得税免税幅の拡大や消費税(IVA)の2%削減等の20にわたる提案を行ったが、政府による貧困削減や雇用創出、保健改革における政策運営を評価し、政府への批判を極力抑えた。
イ 2日、4月7日に逝去したカステラ国防次官に代わり、メネンデス新国防次官(当館注:バスケス前政権時に国防次官を務めた)が任命された。
ウ 18日、ウルグアイの独立運動における最初の勝利をかざった「ラス・ピエドラスの戦い」200周年記念式典が、カネロネス県ラス・ピエドラスで開催され、「ム」大統領を始めとする政府高官及び前大統領等が出席、この他10万人以上が参加した。また、アルゼンチン、チリ、ブラジル、パラグアイからも軍将校がパレードに参加した。
エ 中旬、「ム」大統領は、国内2,000ヘクタール以上の土地所有者に対する不動産税を増税し、税収6,000万ドルを国内のインフラ整備に配当すると言及。25日、アゲレ農牧水産大臣は「ム」の姿勢に異論を唱え辞職も示唆したが、「ム」大統領が慰留したため、同大臣は現職に留まった。しかし、「ム」大統領は本件を今後具体化し、半年後には増税を実施したいとしている。
(2)労働関係
ア 4月末に行われた銀行労組(AEBU)及びモンテビデオ県職員組合(ADEOM)の執行部役員選挙において、これまで急進最左派が占めていた執行部の過半数を与党寄りの比較的穏健派(共産党派系とMPP派系)が獲得した。これにより、政府は労働運動の穏健化を期待している。
イ 公務員同盟(COFE)は6月の国際労働機関(ILO)総会で、ウルグアイ政府が団体交渉権に関する法令を遵守していないとして不服申立を行うことを発表した。
(3)失効法の無効化法案関連
4日、「ム」大統領はアストリ副大統領及びブレチア大統領府長官とともに下院に赴き、50名のFA党下院議員に対し、失効法の無効化法案を推進するFA党の立場との相違を表明、議員に法案を可決しないよう要請した。「ア」副大統領やバスケス前大統領も「ム」大統領の立場を支持したが、両院議員や全国労働総同盟(Pit-Cnt)等は「ム」大統領の姿勢を厳しく批判、FA党は15日、法案可決のため賛成票を投じることを党決定として維持することを決定した。19日、下院で裁決の審議が15時間におよび行われ、これまで法案可決に反対してきたFA党センプローニ下院議員は自身の意見表明後、席を立ち裁決を棄権。結果として、49(国民党、コロラド党及び独立党)対49(FA党)票となり可決に必要な過半数に満たなかったことから、法案は否決された。一方、Pit-Cntは、法案可決を支持するため部分的ゼネストを決行。立法府前に2千人の支持者が集結したが、盛り上がりに欠けるストとなった。
同法案の否決を受け、「ア」副大統領、「バ」前大統領等は、失効法の「無効化」ではなく「廃止」法案を代替案として提案、今後FA党内での協議が予定されている。
なお、4月、上院での審議で、自身の意志に反し党決定を遵守し、法案通過のため賛成票を投じたことで議員辞職を表明していたウイドブロ議員の辞職につき、17日、裁決が行われ可決された。また、下旬、ピレイ国連人権高等弁務官は下院での失効法の無効化法案否決を遺憾とし、長年にわたり国家による法的システムの乱用が続いていると述べたことに対し、ウルグアイ国民党議員等から内政干渉であるとの批判を受けた。
(4)軍政期の人権侵害関連
ア 軍政期の罪で服役中の軍人の釈放を求める覆面3人組のビデオに関し、4日、ウルグアイの新聞社はビデオの一部写真を公開、本件を調査している組織犯罪担当判事もビデオの存在を認めた。ビデオを唯一見たとされる「ム」大統領は、検察側により数度にわたり事情聴取を受けた。このビデオについては国旗の扱い方等について軍人であれば絶対に行わないと考えられる様子が移されており、不自然とする意見がある。
イ 20日、軍政期に殺害された国会議員の暗殺を追悼するため毎年行われる「沈黙のマーチ」が、軍政期の行方不明者の家族等により実施され数千人が参加した。なお、軍政期の人権侵害裁判を担当するモタ判事もマーチに参加したことが発覚し、軍政期の事案を担当する弁護団はモタ判事の政治的行為だとして反発、懲戒処分を要求している。
(5)議会・法案関連
ア 11日、民間企業との連携により学校や刑務所、病院、道路、橋梁等の国のインフラ整備を可能とすることを認める官民連携法案が下院を通過した。
イ 31日、ウルグアイ青少年庁(INAU)に代わる収容施設、青少年犯罪リハビリシステム(SIRPA)の創設に関する法案が全会一致で下院を通過した。なお、今後残りの2法案((ア)少年による窃盗未遂を処罰可能とすること及び少年による重大犯罪における判決宣告までの期間の拡大を可能とする法案、(イ)非行少年の補導歴の保存を可能とする法案)についても審議される。
(6)国防関係
ア 25日、昨年、海軍関連機材不正購入が摘発された件で、「ム」大統領は不正入札にかかわっていたとされる3社を国の入札リストから削除し、その他11社には1年間の制裁を課す政令に署名した。
イ 26日及び27日、南米諸国連合(UNASUR)国防評議会の主催により、「21世紀における南米の戦略的位置付け」と題するセミナーがブエノスアイレスで開催され、ロサディージャ国防大臣も出席、UNASUR国防評議会・国防戦略研究所の開設が発表された。
(7)内務関係
24日、ボノミ内務大臣は、リベルタ刑務所において、458人の囚人が収容されていた「缶」と呼ばれるステンレス製の収容区画が収容者にとって耐え難い状況を作り出しているとして、「缶」を閉鎖するよう指示。
3 外交
(1)対日関係
ア 5日、ウルグアイ外務省及び外務省職員協会主催の下、東日本大地震の被災者への義援金を集めるためのチャリティ・コンサートが開催され、アルマグロ外務大臣やコンデ外務次官の他、外務省職員等約200名が参加した。本件コンサートでは、チャベン官房長やロサ文化局次長が、勤務の傍ら猛練習をした上でピアノ演奏を披露した。なお、入場料(1枚あたり)300ウルグアイ・ペソ(約15米ドル)は、全て日本への義援金に充てられた。
イ 14日、オリベラ・モンテビデオ県知事のイニシアティブの下、JICA派遣のシニア・ボランティアの作業によって完成した日本庭園の新歌舞伎門のお披露目式が開催され、プラト事務局長、本使及びウルグアイJICA所長等も参加した。
(2)対アルゼンチン関係
ア 11日、ウルグアイ・アルゼンチン間の外相会合がブエノスアイレスで開催され、貿易障壁やウルグアイ川やラ・プラタ川における浚渫プロジェクト、UPM社(前ボトニア社)の工場の排水問題、及び液化天然ガス再気化船の建設等多岐にわたる分野に関し協議が行われた。
イ 25日、アルゼンチン5月革命200周年記念式典が当国でも開催され、「ム」大統領が出席、同大統領は記者団に対し、二国間関係は現在完璧であると発言した。
(3)対ブラジル関係
30日、ルーセフ伯大統領が伯閣僚8名と共にウルグアイを訪問、「ム」大統領と会談を行い、保健衛生、治安、科学技術等の分野において16の協力協定に署名した他、安保理改革の必要性、デジタルTV分野での協力等を謳った共同声明を発出した。加えて、両大統領は、ウルグアイ技術研究所(LATU)に建設予定のデジタルテレビ研究所の設置予定地を視察した。
(4)対パラグアイ関係
14日、「ム」大統領及びアルマグロ外務大臣は、パラグアイで開催された独立200周年祝賀行事に出席した。
(5)対中東関係
ア ウルグアイ政府は、ウサマ・ビン・ラーディンの殺害に関し公式な声明は発出していないものの、2日、「ム」大統領は、長い諜報活動が実を結んだようであるが、これがもたらす結果についてはわからないとコメント。また、アルマグロ外相は、司法及び世界に対し平和の責任を負うビン・ラーディンの殺害はテロリズムに対する打撃で、いかなる人物の死も祝福することはできないが、テロリズムは裁かれるべきであると述べた。
イ 2日、「ム」大統領はウルグアイのイスラエル・コミュニティが開催するホロコースト被害者の追悼式典に出席し、生存者により作成されたドキュメンタリーを鑑賞、世代から世代へ培われた歴史等を称え、二度と同じようなことが繰り返されないようにとの願いを伝えた。
ウ 18日~21日、アルマグロ外相はイスラエルを訪問し、ペレス首相、リベルマン副首相等と会合、イスラエルとの外交関係の重要性や二国間外交アジェンダを確認した他、両国の関心事項でもあるウルグアイ民間セクターにおける産業開発のための科学技術協力に関する合意が発効されたことを発表した。
(6)その他
ア 2日、インドの商工大臣がウルグアイを訪問し、「ア」副大統領及びクレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣と会合、ウルグアイ輸出分野におけるインドの占める位置が47位である等、二国間関係が希薄であることに言及、両国投資家等に向けて投資を増やすよう呼びかけた。
イ 10日~12日、全アルメニア教会の総主教・公主教カレキン2世がウルグアイを訪問し、「ム」大統領と会合した。ウルグアイはトルコによるアルメニアでの大虐殺を最初に認めた国である他、ウルグアイに居住するアルメニア・コミュニティに対し絶大な配慮を行ったことから、カレキン2世は右に謝意を表明するとともに、良好な二国間関係を強調した。
ウ 20日及び21日、英国のブラウン外務閣外相がウルグアイを訪問し、「ア」副大統領、ロサディージャ国防大臣、コンデ外務次官(外相代理)と会合を行い、フォークランド諸島問題や、EU・メルコスールFTA交渉、科学技術分野での協力及び経済関係の強化等につき協議した。また、アルティガス外交官学校生徒との懇談や2012年のロンドン五輪への参加を決めたU20サッカー代表等を含むスポーツ界関係者とも会合を行った。
エ 25日、フィリップ・モリス社とのたばこ関連仲裁裁判(当館注:ウルグアイ政府がとっている反たばこ関連法が投資保護協定に違反するとして、同社がウルグアイ政府を世銀投資紛争解決センターに提訴している件)の第1回調停がパリで開廷される予定であったが、調停を行う上での保秘の観点で事前合意に至ることができなかったため、右調停は延期されることとなった。
オ 26日、ルーカス・エクアドル外務次官がウルグアイを訪問し、コンデ外務次官と会合、軍事分野や貿易分野等におけるこれまでの二国間関係のさらなる強化につき確認、南米諸国連合(UNASUR)条約の発効を祝福した他、二重課税防止条約が署名された。
カ 下旬、ロレンソ経済財務大臣は、国際通貨基金(IMF)総裁選挙に関し、ウルグアイはメキシコ中銀総裁を支持する旨メキシコに伝達した。
キ 30日、ニュージーランドのスミス下院議長及び随員がウルグアイを訪問、「ム」大統領と会合を持ち、同国へ農産業技術分野のウルグアイ人学生を留学させる可能性について協議した。この他スミス議長は、企業幹部協会が開催する講演会で同国の保護主義政策から国家改革へのシフト等の政治史について演説を行った。
4 社会
(1)治安
ア イベロアメリカ・バロメーター2011(アンケート調査)によると、ウルグアイにおける右アンケート回答者の60%は、治安の欠如がウルグアイ最大の問題であると認識しており、アンケート対象となった国の中で、治安が最重要課題であると回答した人の比率が最も高い国となった。また、「ム」大統領の治安対応が悪いと感じている人は74%。なお、インテルコンサルト社が実施した世論調査(4月30日から5月4日(1日を除く)まで)でも、国内の主要な問題として「治安悪化」をあげているウルグアイ人が63%を占めている。
さらに、10日、内務省統計局は2011年の国内における犯罪発生数を公表。殺人については前年比5.9%増、強盗については前年比2.1%増、窃盗については前年比2.9%増となっており、治安が悪化傾向にあることを明らかにした。
イ 3日、マルビン地区の銀行において武装した4人組による強盗事件、6日、カラスコ地区の銀行において武装した3人組による強盗事件、10日、ゴエス地区の銀行において武装した2人組による強盗殺人事件(警備員が死亡)が発生した。これで銀行を対象とする強盗事件は本年累計8件となった。10日の事件で、防犯カメラの映像等からリッキーというウルグアイ青少年庁(INAU)を脱走した少年が浮上、15日に補導された。内務省は、銀行強盗の多発を受け、銀行窓口への防弾ガラスの設置、警備員の防弾チョッキの着用等を義務づける方針を示した。
ウ 5日、警察はウニダカサバ地区(レッドゾーン)において警察官約100人を動員して大規模な捜索活動を実施し、麻薬所持者、指名手配犯等38人(うち16人が未成年)を逮捕。12日~27日にも5回にわたり「レッドゾーン」に対する大規模捜索活動を実施している。
エ 5日、カネロネス県シャングリラ市において、アビタブ(公共料金等の支払所)のオーナーが帰宅した際、待ち伏せをしていた2人組の男に銃で脅され、事業所まで短時間誘拐された上、金庫内から現金を奪われる強盗事件が発生した。
オ 8日、ハルディネス・デル・イポドロモ地区において、タクシーの運転手が車外から頭部を撃たれ殺害された。犯人は売上金、カーナビ等を奪って逃走した。
カ 15日、ポシートス地区の海岸沿いで駐車していた男女が、男1人に銃で脅され、仲間のいる場所まで短時間誘拐された上、現金、宝飾品、腕時計等を奪われる強盗事件が発生した。
キ 21日、コムカル刑務所において、受刑者同士の抗争が発端となり、約500人が暴徒化、同刑務所では定員の約2倍の受刑者が収容されていた。
ク 23日、スキミング容疑でブラジル人が逮捕された。逮捕者は本年累計13人で、すべて外国人(ブラジル人、コロンビア人及びルーマニア人)であった。自国での犯行が困難となってきていることから、ウルグアイに流入してきている由。
(2)現在ウルグアイでは、15~29歳までの就学も就職もしていないNiNiジェネレーション(ni trabaja ni estudia)と呼ばれる青年が84,000人に上ることが、労働社会保障省の調べで判明した。
(3)厚生省の発表によると、バスケス前政権及び「ム」政権による反たばこ政策により、喫煙者の数が2006年の32%から2009年の25%に減少し、喫煙者の44%は反たばこキャンペーンにより禁煙を考慮したことがあると判明した。