定期報告(ウルグアイ内政・外交:5月)
1.概要
(1)内政・社会
●9日、地方統一選挙が実施され、モンテビデオ県知事及びカネロネス県知事には与党FA(左派拡大戦線)党候補が当選。地方選挙全体では、FA党が得票率を大きく下げ、2005年に制した8県から5県、国民党は10県から12県、コロラド党が1県から2県へとなった。また、今回の選挙では、白票及び無効票の増加が顕著であり、これは国民からFA党への抗議の印として受け取られている。
●ボノミ内相は今後警察官の給料改定を優先課題として取り組んでいくことを発表した。
●ロサディージャ国防相は伯との軍事協定締結につき発表、またベネズエラからの軍事機材の購入についても示唆した。
●ムヒカ大統領は公務員批判を繰り返し、労働組合からの反発を受けている。
●国家統計院は2008年と2009年の間で、0~5歳までの16,700人の子供が貧困から脱出したと報告した。
(2)外交
●3~4日、ブエノスアイレスにおいて、南米諸国連合臨時首脳会合・外相会合が開催され、ネストル・キルチネル氏をUNASUR事務局長に任命した。
●国際橋梁封鎖問題に関し、国際司法裁判所の判決後初めてウルグアイ河共同委員会(CARU)が招集され、「ウ」・亜両国によりCARUの今後の機能につき確認された。
●ムヒカ大統領とルーラ伯大統領は、石油産業発展、水路計画の発展、鉄道施設、及びコンベンションセンター建設融資など、二国間協力プロジェクトにつき確認した。
●17~18日にスペインで第6回EU・ラ米首脳会合が開催され、当国からは体調不良のムヒカ大統領に代わりアストリ副大統領が出席した。今次会合ではEU-メルコスール間FTA交渉再開が発表され、アストリ副大統領は右を当国の商工業及び投資誘致に繋げていかなければならないとした。
2.内政
(1)地方統一選挙(5月9日)
(イ)全19県中、与党FA(左派拡大戦線)党は5県、国民党は12県、コロラド党は2県を制した。全国における各党の得票率はそれぞれ、42.36%、30.90%、15.01%(有権者の86.2%が投票)。モンテビデオ県知事選における各党の得票率はそれぞれ、45.90%、19.79%、18.10%(有権者の83.2%が投票)。
(ロ)今般初めて県知事・県議会議員選とともに、人口5,000人以上の都市、及び県が必要であると認めた人口2,000人以上の町のみを対象とした市長・市議会議員選挙が実施された。しかし、同制度は本年2月に下院にて可決されたばかりであったため、当日の選挙会場では混乱が生じ、白紙投票もしくは重複投票による多数の無効票を招く事態となった。また、県知事・県議会議員と同一政党の市長・市議会議員に投票しなければならない選挙規則は、同選挙への国民の関心を惹きつけるには至らなかったため、同選挙の改善の必要性が出始めている。他方、2009年6月の党内選挙、10月の大統領選挙、11月の同決戦投票及び今次地方統一選挙と、選挙続きの1年による国民の「選挙疲れ」は否めないため、今後は選挙スケジュールについても見直しが検討される見通しである。
(ハ)当初の予想では、モンテビデオ県知事選挙では与党FA党が優勢、地方選挙全体では、FA党が若干有利であるが、ほぼ現状の各党勢力が維持されるとの分析が支配的であった。しかしながら、結果として、モンテビデオ県知事選挙はFA党が制したものの、得票率を大幅に減らしたことや白票と無効票の合計が10%を超えたこと、地方選挙全体としては、FA党が8県から5県へと支持党配分を減らすなど、FA党の支持率低下が顕著となり、イメージも悪化していることが浮き彫りとなった。
(ニ)モンテビデオ県知事選挙におけるFA党の得票率低下の要因には、FA党の候補者選びのプロセスに問題があったと言われている。FA党を支持する県民の多くは、オリベラ氏(今般県知事当選)よりも、マルティネス氏(前工業エネルギー鉱業大臣)の立候補を望む傾向が強かったが、伝統的に候補者を一人に絞ってきたFA党が最終的にオリベラ氏の擁立を決定したことで、同党支持者の抗議の印として白票及び無効票となったと言われている。
(ホ)一方で、一部の有識者は白票及び無効票が続出したにも関わらず、これらの批判票が伝統政党である国民党やコロラド党が吸収したわけではなかったこと、更にはこれを重大なことと認めずFA党に大勝したと顕伝し、危機感を抱いていない伝統政党に対し疑問を呈している。
(2)内務省関係
ボノミ内相は全国の上級警察官と懇談し、今後新規職種の設置よりも警察官の給料を上げることを優先課題としていく旨確認し合った。現在の最下級警察官(巡査レベル)の給料は12,102ペソ(約630米ドル)で、最上級警察官(警視長レベル)は42,491ペソ(約2,200米ドル)との発表。また、今後新たに1,500人の警察官が刑務所に配置されることとなる。
(3)国防省関係
(イ)5日、ロサディージャ国防大臣は、国連がウルグアイPKO派遣部隊部員に2009年9月から10年2月まで未払いにしていた償還金32,846,651米ドルを支払ったと発表した。
(ロ)ロサディージャ国防相は国家予算での軍事機材購入は不可能に近いことから、近くベネズエラを訪問し、空軍及び海軍用の米国製中古の軍事機材のオファーを受ける可能性につき示唆した。現在軍隊は1,200万ドル必要とされる予算のうち300万ドル分の予算しか配当されておらず、バスケス政権時にはGDP比1.2%を軍事予算としていたが、今政権ではさらに減額される可能性もある。また、27日、「ウ」と伯は8月4日開催される両国首脳会合において、軍事機材協力、人材育成、訓練及び両国軍隊共同演習などの17軍事協力事項につき軍事協定を締結する旨発表した。
(4)教育
(イ)アストリ副大統領は教育関連予算をこれまで通りGDPの4.5%で維持することを発表したが、教員連盟はこれを6%とすることを要求しており、6月9日には右要求のためストライキを起こすとしている。
(ロ)新学年がスタートして2ヶ月経ったが、中等教育校において、未だ4,012教師分のポストが埋まっておらず、これにより授業が実施されていないため、特に数学、英語及び情報通信関連の授業に重大な影響がでていることがわかった。この要因としてはア)教員研修と授業が同時間に実施され、研修には研修費用が支給されるためこれを選ぶ教師が多いこと、イ)多くの教員が2005年に創設された社会開発省(MIDES)へ流れ込んだこと、ウ)教員の病休が増加したことが挙げられる。
(ハ)社会開発省と中央公教育審議会によって特別教育プログラムが実施される問題校において、過去4年間で留年率が26%から17.8%に低下したことがわかった。
(5)ムヒカ大統領の動向及び発言
(イ)ムヒカ大統領は原子力発電の利用につき強調し、電力消費増加緩和のためこの3ヶ月中に何らかのアクションをとる必要があると述べた。
(ロ)11日、ラウル・センディック氏を会長、ヘルマン・リエット氏を副会長、フアン・ゴメス氏をディレクターとするANCAP(燃料アルコールセメント公社)新理事会就任式が開催され、ムヒカ大統領はANCAP職員は公務員であり「代替可能な人材」であるなどの演説を行った。また、21日には、「公務員は特に何の変調もない、植物人間的で文句ばかり言う人生を送る」と公務員批判を繰り返し、労働組合からの反発を受けている。
(ハ)13日、ムヒカ大統領は軍政権により隠匿され、最近発見された軍政権時代の国民党の軍政権に対する戦い等を収めた歴史的資料約300点を国民党に返還した。
(ニ)ムヒカ大統領は大統領就任後に連日続いたハードな日程のため体調不良となり、専任医師より第6回EU・中南米・カリブ首脳会合への出席を控えるようアドバイスされ、出席を取り止めた。また激務の日程調整を勧められており、今後は休息の時間を増やすとのこと。
(6)その他
(イ)プルーナ航空株式の25%をカナダの民間企業JAZZが買い取ることに双方合意したため、プルーナ航空の株式は25%を政府、25%をJAZZ、50%をLeadgateが所有することとなった。また、同航空は、ブリティッシュ・エアウェイズ(英)とスカイ・エアライン(智)と協定を結び、域内における異なる空港で両航空会社の給油源となり、サン・パウロ行きやポルト・アレグレ行き、及びエセイサ行きの航空便を支援していくこととした。
(ロ)10日、ロレンソ経済財務大臣は当国GDP成長率を修正し、2010年は5.1%、2011年は4.2%、その後3年についても4%増加すると発表した。対米ドル為替については比較的安定しており、2011年は19.9ペソ、その後少しずつドル高となり2015年までには平均21.6ペソとなると発表。また同期間において雇用数は7.4%増加すると見込んでいる。
(ハ)商工会議所のデータでは、自動車およびトラックの販売数は2010年1月―3月間で2009年の同時期と比べ80.5%成長した。また、家電販売については各家庭では71.6%、スーパーや協同組合では36.3%で平均53.9%の増加となっている。
(ニ)ムヒカ大統領が提出した資産申告によると、同大統領は世界で最も質素な大統領の一人であることがわかった。財産として唯一所有するものは1987年産ホルクスワーゲン・Fuscaで現価37,500ペソ(約2,000米ドル)。銀行口座も不動産も所有しておらず、唯一の収入源は大統領としての給料227,800ペソ(約12,000米ドル)であるが、この70%も所属するFA党や社会政策実施に寄付している。ムヒカ大統領の所有財産を1Fuscaとすると、ボリビア・モラレス大統領は70Fusca、バスケス前大統領は668Fusca、フェルナンデス亜大統領は6,170Fusca、伊ベルルスコーニ首相は557,000Fusca所有とのこと。
3.外交
(1)対アルゼンチン関係
(イ)3~4日、ブエノス・アイレス州のホテルにおいて、南米諸国連合(UNASUR)臨時首脳会合・外相会合が開催され、UNASUR設立条約第10条に定められた手続きに則り、ネストル・キルチネル氏をUNASUR事務局長に任命した。バスケス前政権ではキルチネル前亜大統領の事務局長就任に対し拒否権を行使していたが、ムヒカ大統領は各国のコンセンサスに対し、「投票もしなければ拒否権も行使しない」という立場を貫き、事実上コンセンサスに同意した。これに対し野党が強く批判したため、アルマグロ外相は国会への説明を行った。
(ロ)6日、ムヒカ大統領が2011年の亜大統領選挙において、Justicialismo(社会的正義:亜ペロン大統領が提唱した政策)が勝利することを望む旨の発言をしたところ、同発言がキルチネル前大統領の再選を暗に意味することから、当国野党及びジャーナリストらから内政干渉などとの批判を受けた。また、ムヒカ大統領はUNASUR事務局長選出のコンセンサス合意につき、11年の大統領選挙でキルチネル前大統領が再選された際15年まで良好な関係を築くこととともに、恩を着せておくためであるとの見方もある。
(ハ)7日、4月20日にセルロース工場問題に対し国際司法裁判所から下った判決後初めて、ウルグアイ河共同委員会(CARU)が招集され、CARUの今後の機能につき確認された。他方、12日、亜はCARUに対し、ウルグアイ川の新たなモニタリング方法及びUPM社(前Botnia社)セルロース工場の監視プロジェクトを提案したが、ウルグアイ側はこれを内部統制であるとして却下。しかし翌日、アルマグロ外相はアルゼンチンの提案につき非常に興味深い提案であると修正し、同モニタリングにつき検討する旨発表した。
また、16日にはグアレグアイチュ環境活動家らが会合を開き、国際橋梁封鎖の未解除を決定。これに対し亜エントレリオス県知事は「闘いをやめることなく、別の方法での闘いを」との懇願書を活動家らに提出。活動家らはこれに反発し、6月2日に予定されている「ウ」・亜首脳会談時に3つの国際橋梁の交通を切断する旨発表した。なお、グアレグアイチュ市民(特に企業家)は、国際橋梁封鎖による損害が非常に大きいとして、コンセプシオン・デル・ウルグアイ裁判所(亜エントレリオス県)に対して環境活動家らを提訴した。
(ニ)亜政府はブラジル行きの輸出貨物船のウルグアイ港への寄港を禁止することを発表したため、アルマグロ外相は亜のとる自国保護政策につき正式に抗議した。
(ホ)26日、国会はムヒカ大統領の要求により、UNASUR条約の批准について討議を始めたが、これに対し野党はフライベントスの国際橋梁封鎖問題が解決しない限り本案件につき承認しないとしている。
(へ)6月2日に開催されるムヒカ大統領と亜フェルナンデス大統領の首脳会談では、ウルグアイ川浚渫問題及びエネルギー関連を中心としたペンディング事項約27案件について討議されることとなっている。
(2)対ブラジル関係
4日、ルーラ伯大統領はブエノスアイレスにおいて開催されたUNASUR首脳会談後、ムヒカ大統領とともにモンテビデオに移動して、イ)Petroburas社による石油産業発展のための専門家レベル等での協力、ロ)ウルグアイ河北部での水路計画の展開、ハ)Santana do Livramentoとウルグアイ間の鉄道施設への関心、ニ)伯政府及び民間会社を中心とし、モンテビデオ市にコンベンションセンターを設置するための融資を中心とした二国間協力プロジェクトにつき確認した。ルーラ大統領は「ウルグアイが他のメルコスールや中南米諸国との間の競争力を維持するためには、ウルグアイ経済がこのまま成長し続けることが重要である。」と述べたのに対し、ムヒカ大統領は、「小国であるウルグアイは、伯の発展のための踏み台になる政治的意思を有している。」とした。
(3)米国南方軍ダグラス・フレーザー将軍の訪ウ
6日、米国南方軍ダグラス・フレーザー将軍が訪ウし、ラ米には紛争の危険はない、今後ラ米各国(ベネズエラ及びボリビアを除く)とは軍事協力を締結して行きたいと述べた。また、フレーザー将軍はロサディージャ国防大臣と国防に関し会談し、ウルグアイとの様々な協力関係の構築につき確認した。
(4)対EU関係
(イ)アストリ副大統領はムヒカ大統領の体調不良を受け、17~18日に開催された第6回EU・中南米・カリブ首脳会合に代理出席した。
(ロ)同会合では、フランスを初めとするEU農業国10カ国が反対する中、EU-メルコスール間FTA交渉が再開されることが発表された。これに対し、アストリ副大統領は、ウルグアイは世界に向けて開いていくべき国の一つであり、これを当国の商工業及び投資誘致に繋げていかなければならないとした。
(ハ)ウルグアイ-スペイン間受刑者移送協定の締結
両国内相は両国で刑を言い渡された受刑者が自国で服役できるようにする受刑者移送協定に調印した。
(ニ)イベロアメリカ機構(OEI)代表部をモンテビデオに開設
同代表部は保健、教育、スポーツ、国家社会教育関係を中心とした活動を行う予定。
(5)対イラン関係
24日、イラン製低濃縮ウランの国外移送に関するイラン・トルコ・ブラジルの3カ国合意につき、ウルグアイ政府はイラン政府に支持表明した。また、24日~28日にかけてプンタ・デル・エステで開催された第4回地球環境ファシリティ総会に出席したMohammadzadehイラン副大統領は、26日、ムヒカ大統領と会談し、ウルグアイに対し風力エネルギー分野での協力の準備があることを明らかにした。また、米の輸出及び将来的には穀物の輸出についても合意を進めていくことを確認した。
4.社会
(1)保健
(イ)A型インフルエンザ
6日、10万人分のA型インフルエンザ用ワクチンがコロニアに接到し、24日にはさらに30万人分が接到した。
(ロ)E型肝炎
ウルグアイで初めてE型肝炎が発見された。E型肝炎はA型肝炎に似ているが、人間や動物の排泄物による汚水などの社会的状況に左右され発生する。
(2)犯罪
(イ)18日に行われたペニャロール対ナシオナルのサッカー優勝決定戦において、ペニャロールが勝利したことで7月18日通りでは暴動が発生し、火器、薬物、ナイフが押収され、600人が逮捕された。
(ロ)中央銀行は1月1日から4月25日までの間102,666米ドル分の偽札を入手しており、そのうち969枚が100ドル札であった。
(3)貧困
(イ)6日、国家統計院は2008年と2009年の間で、0歳~5歳までの16,700人の子供が貧困を克服したと報告した。
(ロ)社会開発省はこれまでの社会政策計画から漏れていた30,000家族に対し、今後住居改築などの生活環境改善プランを適用することを発表した。
(4)ウルグアイ人の食肉需要量
ウルグアイ全国食肉協会(INAC)が実施した食肉消費・流通に関する統計によると、2009年の当国における食肉消費量は1人当たり牛肉58.2㎏と去年より3.5㎏増となった。なお、国産牛肉流通量は184,836,799㎏(約18万トン)、輸入牛肉流通量は131,773㎏、自家消費量は7,792,290㎏。国産牛肉流通量は昨年より7.3%増加し、5連連続で上昇。また、国産牛肉消費量の83.1%は精肉店・スーパーを、16.9%は加工工場を経由している。