2 内政
(1)政府及び議会の動き
ア 上院は,ウルグアイ鉄道公社(AFE)の新総裁にホルヘ・セテリッチ氏が就任することを承認した。同氏は、燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)のセンディック総裁の顧問を務めていたが,AFE改革のためにムヒカ大統領が指名した。
イ 12日,ムスレラ住宅土地整備環境大臣は,下院にて環境省設立のための法律案に関して発言。業務量が過剰なことから,環境局(DINAMA)を他の省庁の管轄下におく事を望む旨発言した。また,ムヒカ大統領から,環境政策の組織強化のための案を記した報告書を提出する事を求められているとした。
ウ 17日,コロラド党及び国民党のUnidad Nacional派は,刑事責任を問うことの出来る年齢の下限を18歳から16歳に引き下げることに関しての国民投票を可能とするために実施していた署名活動を終了し,36万7609件の署名を議会及び選挙裁判所に提出した。今後,署名有効化のための法的手続きが行われ,25万9045人(有権者259万441人の10%)分の署名が認められれば,2014年の大統領選挙の際に国民投票が実施されることとなる。
専門家の中には,これにより,治安問題が次回の大統領選挙における最重要テーマの一つとなり,結果として野党に有利に働くとしているものもいる。
(2)教育関係
ア ゴメス教育文化省次官は,教育評価国家機関(INEE)を設立し,2012年中に活動を本格的に開始する旨発言した。同機関は,公私双方の初等・中等教育機関での学習レベルの評価・コントロールを実施し,また学習スケジュールや教員の能力評価等も実施する予定。
20日,エルリッチ教育文化大臣は,INEEの幹部となる5名と初めて会合を持った。
イ 観光週間(セマナ・サンタ)の休暇中に,老朽化の進む公立学校の工事が行われなかった事に対し,教員労組等から批判が噴出。コロラド党のボルダベリー党首も本件について,教育文化省の「不作為」を非難した。
9日,エルリッチ大臣は,国家教育局(ANEP)の管理する学校でのインフラ整備不足に対応し,緊急に対応を要する校舎のリストを拡大するために,今後は「ショック療法」を行うとした。政府は,今年1月にも同種の政策を発表しており,当時緊急に対処するとされた212校のうち,70校ほどには何の処置もなされていないもよう。
これに関連し,11日,政府は,上記212校のリストに新たに50の教育施設を加え,ムヒカ大統領は関係する省庁及び公社に対してANEPの管理する校舎の工事・管理の実施を指示した。本件は,ANEP内部の非常に煩雑な手続きを経ずに工事を実施するための処置であり,アストリ副大統領は,一連の問題に関連して,手続きの問題を認め,非常に煩雑な官僚システムの結果であったとした。また,ムヒカ大統領は「歴史的な予算を配分したが,それを使い切るだけの能力を有していなかった」とした。
ウ 12日,ムヒカ大統領は,以前から発表していた通り,ウルグアイ職業訓練学校(UTU)を独立した教育機関とするための法律案を,FA党の後ろ盾も野党の賛成もないまま国会に提出した。
(3)労働関係
ア 1日,モンテビデオ県保有のTV Ciudadの職員は,同県で開催される文化事業の放送をするようにとのオリベラ同県知事の指示に反対し,事業会場にてピケを実施した。
イ 中等教育教師組合(FENAPES)は,17日にストライキを実施する方針であったが,与党からの働きかけを受け,14日の総会にて採るべき方針についてのコンセンサスを得られず,実施延期を決定した。
また,モンテビデオ県教職員組合(ADES Montevideo)は17日に総会を開催し,中学・高校でのストライキを決定しようとしたが,27日のFA党党首選の前にストライキを実施しようとする急進派の計画はつぶれた。これによりストライキの実施は回避されたが,6件の職場占拠の実施は合意され,「今後は全て政府との交渉次第である」とされた。ADESの主な要求は,①2012年予算での給与上昇,②公社等の設備でのインフラ整備,③新たな職務の創出,④同部門の労働者によって策定される教育プロジェクトの実施の四点。
組合は,6月の5日~7日にかけて各県にて一校ずつ選び24時間の職場占拠を実施することで合意し,それでも政府と合意に至らなければ,48時間の職場占拠を26日~27日にかけて実施すると発表した。
ウ ヤザキの工場では従業員のカテゴリー化見直し等を要求した工場占拠が行われ、カネロネス県知事が労使間交渉の仲介役を務めた他、非組合員労働者等が労働省に対し、労組により労働妨害について陳情に行くといった状況が見られた(詳細については,4月の経済定期報告を参照)。
エ 30日,若年層雇用促進政策の一環として,16歳から20歳までの学生を対象とした公営企業での職業経験プログラムの募集が始まった。応募は5月11日まで受け付ける予定であり,約700名の応募者が見込まれている。
オ 30日,ILOが2011年に採択した「家事労働者の適切な仕事に関する条約」が議会批准プロセスに入った。今後審議が順調に進めば,ウルグアイは世界で初めての同条約批准国となる。
(4)厚生省関係
ア 16日,厚生省の官房長(No.4のポスト)にグラシエラ・ウバッチ(Graciela Ubach)氏が就任するとの決定を大統領府が行った。本件に関しては,かつてベネガス厚生大臣が決定した人事案件としてムヒカ大統領に話を上げてきたため同大統領が激怒したという経緯があるほか,厚生省にベネガス大臣も所属する共産党系の人間が増えていく(ウバッチ氏は,2009年まで共産党に所属)ことを同大統領が快く思っていないとされる事情があったとされ,承認に時間がかかっていた。
イ 17日,ボノミ内務大臣は,部下に対して,国家の安全または内務大臣の職務に関わるものに限り報告するよう指示していたため,当国病院において多数の末期患者が看護師により殺害されていた事件(注:ベネガス大臣が本件について全く連絡を受けていなかったと発表して,内務省と厚生省の情報共有・調整の不足が浮き彫りになったとされていた)に関し,本件が明らかになった3月17日までボノミ大臣自身も把握していなかったと公表した。
(5)与党拡大戦線(FA)党関係
ア 13日,FA党首選(5月27日)に立候補しているアガシ氏(MPP),シャビエル氏(社会党),ルビオ氏(Vertiente Artiguista)及びカスティージョ氏(共産党,全国労働総同盟(Pit- Cnt))の四名が選挙活動を開始した。
イ 17日,候補者の一人であるシャビエル氏の選挙キャンペーンのオープニングが開催され,アストリ副大統領,ミケリーニ上院議員らが挨拶を行った。アストリ副大統領はFA党の統一の維持を訴え,左派連合の中で派閥の傾向が強くなる事に同意できないとした。
(6)内務関係
ア 16日,ボノミ内務大臣及びバスケス同次官はFA党議員と会合を行い,デ・レオン議員発案の「麻薬(パスタ・バセ)の密売所を夜間でも強制家宅捜索できるようにするための解釈法(注:麻薬の売買が行われていると推定される場合,その場所は住居ではなく,店舗であると解釈し,憲法上禁止されている夜間の強制家宅捜索にあたらないという解釈を加えるもの)」やその他の治安問題に関して協議を行った。
本件会合後,グアルテチェ警察庁長官は,夜間の強制家宅捜査を行えないことが麻薬組織に利点を与えているとして,夜間の強制家宅捜索の権利は必要不可欠であるとした。解釈法案に関しては,憲法上,家庭は夜間不可侵であるとの規定がある事から,専門家や議員の間でも評価が分かれている。
(7)教会と政府との関係
ア 3月30日に,ウイドブロ国防大臣がウルグアイ経団連(ADM)主催の昼食会にて,「キリストはやせた間抜け」と発言したことに、ミナス県司教やラカジェ上院議員(元大統領)が強く反発。ウイドブロ大臣は,自らの発言の趣旨を説明し,沈静化に努めた。
イ コトゥグノ・モンテビデオ大司教は,5日のミサにおいて,「(末期の患者に空気を注射するなどして殺害していた看護師2名にたとえて)注射器をとる者と中絶の薬を飲む者の間に違いはない」旨発言した。これに対して,ブリオッソ厚生省次官は,「現代の女性の現実からかけ離れている」として激しく反論した。
(8)その他
ア 9日,ウイドブロ国防大臣は,プンタ・デル・エステのラグーナ・デル・サウセ空港に個人所有の飛行機向けのVIP空港開設を計画していると上院にて発言。税関・通関において快適さを提供し,数カ月滞在する場合には運転手用の宿泊施設も提供する予定とした。
イ 17日,それまで集団犯罪担当法廷の裁判官を務めていたホルヘ・ディアス氏が全政党の支持を受け検察長官に就任した。就任会見において,検察の更なる効率化,刑事手続き法の改正を行う必要があると発言した。
ウ 26日,Equipos Mori社が支持政党に関する世論調査結果を公表した。結果としては,政党別の支持率は,FA党40%,国民党22%,コロラド党16%となり,二大政治ブロックが支持率をほぼ二分する構図に大きな変化はみられないものの,二大伝統政党内部で、コロラド党が国民党に迫る勢いをみせている(2007年6月の調査では、国民党はコロラド党に対して20ポイントの差をつけていたが、今回は6ポイント差となっている)。
3 外交
(1)対ブラジル外交(経済関係については,経済の4月定期報告を参照)
19日,ムヒカ大統領はブラジルを訪問し,ルセーフ伯大統領と会談した。
(2)対アルゼンチン関係(経済関係については,経済の4月定期報告を参照)
ア 9日,ムヒカ大統領はフェルナンデス亜大統領と会談し,亜政府の行っている貿易障壁に関しての協議を行った。
イ アルマグロ外務大臣は,13日,訪問先のコロンビアにおいて,フォークランド(マルビナス)紛争におけるアルゼンチンの主権の要求を支持する旨発言した。
ウ 17日の亜政府によるYPF国有化決定に関して,ムヒカ大統領は同決定への支持・連帯を表明し,主権の範囲内で各国家はこういった決定を取れるとし,そもそもの間違いは,民営化してしまったことであるとした。
エ 23日,ロレンソ経済財務大臣は亜と情報公開に関する署名を行ったと発表した。
オ 26日,アルマグロ外相はモンテビデオにおいてティメルマン亜外相と非公式な会合を実施し,二国間での懸案事項について意見交換を行った。アルマグロ外相は,YPF国有化に向けたアルゼンチンの取組を「全面的に」支持することを明らかにした。また,基本的に当国にとって重要なテーマについては考慮されており、早急に具体的な進捗が見られることを期待すると述べた。
ティメルマン外相は、マルティン・ガルシア運河の浚渫事業の前進を保証し,当国外務省の二国間交渉関係者によれば、5月3日にブエノスアイレスで右事業の入札に係る署名が行われる予定である。
(3)対米国関係
ア 3日付け「エル・パイス」紙によれば,ムヒカ大統領は米国において銀行詐欺により拘留されているウルグアイの元領事の送還を米国に求める決議に署名。米国政府に対してはこれまでも同種の要請を行ってきたが認められていない。
イ アルマグロ外相によると,14日,ムヒカ大統領は米州首脳会合のサントス大統領主催晩餐会において,オバマ米大統領と二国間関係や国際問題等について1時間以上友好的に話をした。ムヒカ大統領は様々な国際問題についてのオバマ大統領の考え方を高く評価していたとのことである。
(4)対ベネズエラ関係
13日、ムヒカ大統領は、ベネズエラを訪問しチャベス・ベネズエラ大統領と会談した。チャベス大統領は、ムヒカ大統領が病状を見舞ってくれたことに感謝した。
また,ムヒカ大統領はメネンデス・ベネズエラ工業大臣等の閣僚と意見交換を行った。メネンデス大臣は,労働者による企業経営のための生産性補完を促進すると述べ,両国のガラス企業による製品の共同開発、輸出が検討されることとなったと発表し,食糧の貿易についても、当国からの米及び小麦各10万トンの輸入を本年も継続することを約束した。
(5)対ボリビア関係
24日,モラレス・ボリビア大統領暗殺計画に参加していたとして国際指名手配となっていたアレハンドロ・メルガル・ペレイラ(通称「ルカス」、ボリビア国籍)が,カラスコ国際空港からブラジルに向けて出国しようとしていたところ,インターポールによって身柄を拘束された。今後,ボリビア政府の要請を待って身柄の引き渡しを行う予定。
(6)対国際機関関係
ア 1日,コンゴ民主共和国で,国連平和維持軍(PKO)のオブザーバーとして活動(注:PKO参加兵士とは異なる)していたウルグアイ人司令官がゲメナ(Gemena)市の自宅で死亡しているのが発見された。
イ 10日,コンゴ民主共和国においてPKOに従事し,休暇を使って帰国していたウルグアイ人海軍兵士がマラリアで死亡したことが発表された。同兵士は,ウルグアイ帰国後に症状が出て,5日間入院した後に死亡したとのことである。
ウ 14日,ムヒカ大統領はコロンビアにて開催された第6回米州首脳会合に参加した。挨拶の中で「唯一正当化される戦争は,対貧困,対無知,対浪費の戦争である」と述べると同時に,キューバの米州首脳会合への参加を支持した。また,アルゼンチンによるフォークランド(マルビナス)諸島の要求を擁護した。
エ 16日~17日,中南米諸国の防衛次官がウルグアイにて会合を行い,次回の米州防衛大臣会合において扱われるテーマに関して協議をした。メンデス国防次官は,自然災害への対応,PKO及び新たな脅威に対応するためのセキュリティ上の基準がテーマとなるとした上で,「麻薬組織による密売は新たな脅威の中に含まれる」と発言した。
カ 政府は,国連による国連シリア監視ミッション(UNSMIS)への派遣要請に応え,2名の軍人の監視団員を派遣することを決定し国連に伝達した旨発表した。
オ 26日,アストリ副大統領はチリ・サンティアゴのECLAC本部において「社会経済開発に関する国家プロジェクトにおける技術革新と生産性向上の課題」と題する講演を行った。
(7)その他
ア 18日,政府は,ニューヨークのウルグアイ国連代表部事務所においてネパールとの外交関係を開設した。両国の国連代表部大使名義で共同宣言が発出され,今回の外交関係開設が実り多い両国関係の端緒となる旨述べられた。ウルグアイ大使は,今後の両国関係を南々協力の枠組みを通して強化する意向を表明し,5年間で20カ国以上と新たに外交関係を開設したと述べた。
イ 25日,ムヒカ大統領は,ウルグアイを訪問中のプエルトリコ出身社会派レゲトングループ「カジェ13」のレネ・ペレス・ホグラル氏と面会した。プエルトリコの国際機関への加盟(注:国連非植民地化委員会において協議中)を求める同氏の訴えに対して,アルマグロ外相は,ウルグアイ政府の本件調査実施への関心を表明した。
4 社会
(1)治安
ア 9日,ボノミ内相は、閣僚会議において,殺人事件の多発状況に関する資料を提出した。本年第1四半期における殺人事件の件数は88件で,前年同期に比べ160%の増加となった。殺人の要因としては,個人的な問題によるものが17件,報復によるものが13件,強盗によるものが13件,DVによるものが11件,犯人が死亡したものが6件,その他が5件,不明が23件であった。
イ 18日,INAU(ウルグアイ少年庁)の施設(コローニャ・ベーロ内サランディ施設)から犯罪少年13人が脱走した。当該施設は特に警備が厳しく脱走が困難な場所であり,また職員が全く気づいていないなど不可解な点が多いことから,職員らが手引きしたのではないかとの疑いがかけられている。脱走は2009年に1040件,2010年に800件,2011年に120件と大幅に減少してきている。また,本年第1四半期までに発生した脱走も,前年同期に比べ97%減少している。
ウ 20日,リベルタ刑務所において刑務官2人が受刑者に銃で撃たれる(うち1人は死亡)事件が発生した。この事件の発生を受け,労働組合に加入している警察官(刑務官)らが,受刑者らの面会禁止等の措置をとったところ,受刑者らが反発し,女性刑務所,コムカル刑務所で暴動が発生したほか,受刑者の家族によって国道封鎖が行われた。また,一連の騒動によって矯正局の幹部が更迭された。