定期報告(ウルグアイ内政・外交:4月)
1.概要
(1)内政・社会
●9日,地方統一選挙(5月9日)候補者登録が締め切られた。モンテビデオ県 知 事選挙ではFA(左派拡大戦線)党が優勢(FA44%~52%)。地方選挙全体では,FA 党が若干有利であるが,ほぼ現状の各党勢力が維持されるとの分析が支配的。
●バスケス前大統領はムヒカ大統領との会談において,2014年の自身の体調次第 で 大統領候補もあり得ると発言。現在共産党等が同大統領から距離を置き始める中 , 党内団結強化の観点から本年12月にはバスケス前大統領を党総裁に選出される動 き もある。
●過去の軍政への反感がFA党内で根深い中,ムヒカ大統領は,軍政時代の人権侵 害 囚人(70歳以上)等の自宅拘禁を検討するとした他,閣僚等の軍部に対する考 え 方を(融和の方向に)変えるよう求めた。
●当国は約100万人のA型インフルエンザ接種を目標。まず40万人分のワクチンの 購 入を予定。しかし26日現在,19万人分を購入・配付したのみであり,特に地方 へ のワクチン配付の遅れが問題。(3月15日までに15名が感染し,うち5件は重症 の由。)
(2)外交
●20日国際司法裁判所は,ウルグアイは河川共同管理委員会に対しセルロース 工 場建設に関する連絡手続き義務を怠ったとした他、同工場の環境汚染はないとの 判 決を下した。25日,亜側環境保護団体等は同架橋にて2万人集会を開き同判決 等 を批判した他,ウルグアイ側でも同架橋封鎖解除のための集会が行われたが,両 者 の衝突等はなかった。
●7日,ムヒカ大統領はべネズエラでのチャベス大統領等との会談にて,1000台 の 車両(年間),200台のトラック(年間),180トン(毎月)の鶏肉等の輸出枠を 獲 得した。
●3日,当国国防省は,1994年以降国連平和維持活動により26名の国民が死亡し , 現在は2621人の要員が活動しているとした他,携行機材の老朽化等によりコンゴ で の任務が不可能となり近く同要員約350名が帰国する等と発表した。
2.内政
(1)地方統一選挙(5月9日)
(イ)9日,5月9日の地方統一選挙候補者登録が締め切られ,知事・県議会議 員 候補者632人,市長・市議会議員選挙候補者788人の登録があった。
(ロ)22日,当地各紙はモンテビデオ県知事選挙に向けた世論調査結果(2社)を 発表。 Cifra:FA党44%,国民党20%,コロラド党14%,その他の党3%,未定19%。 Equipo MORI:FA党52%,国民党18%,コロラド党12%,その他の党3%,未定15 %。 同地方選挙結果につき,全体的にFA党が若干有利としつつも,ほぼ現状の各党 勢 力が維持されるとの分析が支配的。
(ハ)FA党執行部は,従来モンテビデオ県では60%前後の支持率を得ていた が ,次期同県選挙でのオリベラ候補の支持率が50%前後で推移していることに危 惧 する意見が出始めている。他方、国民党は、現状で推移すれば今後長期的に見て 伝 統政党何れも勝ち目が無いとして,9日の選挙後にコロラド党との選挙協力の可 能 性を探るとしている。
(2)政府関連ポストの各野党への配分 本件配分は政策実施に際する与野党協力を促す目的を有するが,3日,政府と 各 野党の合意が得られ,野党に配分する合計30ポストのうち18ポストを国民党 , 10~11ポストをコロラド党,1~2ポストを独立党に配分することとなった。21 日 にはほぼ全ての具体的ポストの各党への配分を了したが,最終的に中央教育審議 会 委員(CODICEN:中等教育行政を担当)1名の配分で国民党とコロラド党の間で協 議 が続いている。なお,28日上院は,中銀等8政府機関16ポスト(全てFA党関 係 者)の任命を了承した。
(3)FA党内(バスケス前大統領)動向等 9日付当地紙は,3月25日のムヒカ大統領とバスケス前大統領の会談におい て ,バスケス前大統領はムヒカ大統領を全面的に支持する旨伝えた他,2014年の自 身 の体調如何によっては大統領候補もあり得ると発言したと報じた。今次両者の協 力 確認は,ムヒカ大統領の各種方針に反対する共産党と社会党が同大統領から距離 を 置き始めたためとされる。また,党内団結強化の観点から本年12月の党総会にお い てバスケス前大統領を党総裁に選出する動きもある由(バスケス前大統領が党内 団 結を維持し,ムヒカ大統領が支持基盤の不利益ともなり得る国家改革等を実施す る 方向。5月9日の地方統一選挙後に党内改革につき協議開始予定の由)。
(4)ムヒカ政権と軍との関係
(イ)9日,ムヒカ大統領はFA党幹部等に対して党内の団結を求めると同時に自 ら の政策方針,即ち,(a)軍政時代の人権侵害囚人(70歳以上)等を自宅拘禁に 移す,(b)パスタ・バセ(麻薬)常習者は強制的に治療施設に収容する,(c) 外 貨準備をインフラ整備に充てる等を示した。特に(a)及び(b)への反対が強く , 党内団結を崩す要因となっている((b)は収容施設の不足等を以て反対あり)。
(ロ)12日,ムヒカ大統領は閣議において,過去の軍部の活動を忘れるつもり は ないとしつつ,閣僚等の軍部に対する従来の考え方を(融和の方向に)変えるよ う 求めた。また,23日,ムヒカ大統領は軍司令部を訪問し,幹部から軍の課題等 に つき聴取した他,ボノミ内相は月給6000ペソの軍人は貧困層に属するとして,右 の 改善を約した。また,軍人の転出を防ぐ方法も検討するとも発言(軍パイロット が 民間に転職するケース等あり)。
(ハ)9日付当地紙は,政府は当地の各国大使館及び国際機関の警備を現在の警 察 ではなく軍が行うことを検討しており,右は当国外務省の考え方にもよると報じ た 。
(5)ムヒカ大統領の支持率
(イ)28日,Equipo Mori社は同大統領への現在の支持率は60%,不支持は1 1%と発表。右は,昨年10月の大統領選挙での得票率48%,11月の同決選 投 票での52%を上回っている。また,FA党員では87%が同大統領を支持。しか し ,バスケス前大統領の当選直後の64%の支持率には及ばず(同前大統領の不支 持 は9%であった)。
(ロ)29日,Cifra社は同大統領の支持率は66%,不支持は6%と発表(28 %は未回答)。FA党員では83%が支持し,国民党及びコロラド党員等の53% が 同大統領を支持しているとも発表。
(6)国家公務員制度改革等 22日,ムヒカ大統領は国家公務員組合関係者との会合にて,現在政府機関で 就 労する約3600名の非正規職員は,その必要性等をそれぞれ精査した上で,2011年3 月31日まで就労を認める(4月26日付政令)とした他,2011年の採用試験において 現在の同職員が応募することは歓迎すると発言。また,同組合連合会が新規採用 職 員の月給を約60%増加させ13000~14000ペソとし,最低賃金(現在は6800ペソ ) 以上の生活を保障すべきと発表した(現在は週40時間勤務で平均月給9900ペソ, 同 30時間で同7600ペソ)ことに対し同大統領は,検討するとのみ回答。(他方、全 国 労働総同盟は民間企業の最低賃金を現行5500ペソから10000ペソに引き上げるよう 求めた。) 他方,27日,当国商工会議所は公務員給与の引き上げは諸外国との競争力の低 下 ,財政赤字拡大を招くとして右に反対を表明。
(7)刑務所改善 15日,ボノミ内相は,本年1200万ドルを以って2つの刑務所を建設し,刑務 所 の環境を改善する(現在約5000人の収容能力に対し約9000人収容)と述べた。ム ヒ カ大統領は26日の閣議において,約2000人の軍人による刑務所の警備を検討す る とも述べた。 17日,欧州連合は当国囚人の刑務所内就労及び娯楽施設の改善のため600 万 ユーロの支援を行った。同協力を通じ刑務所職員の研修も実施される予定。また , EUはカネロネス県等の幾つかの刑務所への協力を行う予定の由。
(8)原子力エネルギー検討委員会 22日,クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は下院工業委員会において, 今 後のエネルギー政策策定の過程で原子力エネルギー利用に関わる委員会の協議を 開 始すると述べた。具体的には、世論調査等を行い国民の考え方を調査しつつ,I A EAの政策との整合性等につき研究する由。
(9)その他
(イ)18日、当地オブセルバドール紙は現在の国民の関心事項は,治安(50 % ),教育(14%),経済(10%),汚職(9%),税金(9%),その他( 8 %)と発表。
(ロ)21日IMFは,2015年の当国のGDPは315億ドル(2009年)から543億 ド ルに増加する,1人当たりのGDPでは9425ドルから15949ドルまで増加すると発 表 。
(ハ)22日,国際農業バイオ技術サービス(ISAAA)は,農業分野での遺伝子技 術利用ではウルグアイは世界第9位(2009年)と発表した(一位は米国)。現在 ウ ルグアイでは約80万ヘクタールの農地で遺伝子技術が利用され,大豆及びトウモ ロ コシは代表例。
3.外交
(1)対アルゼンチン関係
(イ)5日,ムヒカ大統領はアルマグロ外相と共に,急遽ヘリコプターにてアル ゼ ンチン大統領官邸を訪問し,フェルナンデス大統領及びタイアナ外相と会談した 。 同会談では,(a)アルゼンチン経由ボリビア天然ガス輸入に際する通過料の減額 (30%),(b)ラ・プラタ河マルティン・ガルシア海溝浚渫,(c)4月20 日 の国際司法裁判所よる判決(当国ポツニア社セルロース工場の環境汚染問題に関 わ る判決)以降の両国の取り組み,(d)南米共同体事務局長選挙について協議され た模様。
(ロ)20日,国際司法裁判所は同工場問題に関する最終判決を行い,ウルグア イ はウルグアイ河規約に基づく河川共同管理委員会に対し同工場建設に関する連絡 手 続き義務を怠ったとする一方で、同同工場は環境を汚染していないとの判決を下 し た。他方,25日,亜側環境保護団体等は同国際架橋にて2万人集会を開きIC J 判決等を批判した。同時に,ウルグアイ側でも同封鎖解除に向けた集会が行われ た が,両者の衝突等はなかった。
(ハ)28日,ムヒカ大統領はアルゼンチンを訪問し,フェルナンデス亜大統領 と 会談した(アルマグロ外相同行)。右は20日の上記裁判結果を受けたものであ る が,両首脳は,(a)国際司法裁判所の判決を尊重する,(b)両国間国際橋梁の 封 鎖解除期限等を設定しない,(c)ウルグアイ河共同管理委員会(CARU)を活性化 させていく,(d)5月末もしくは6月初旬に「ウ」側で再度首脳会談を開催する 等,を確認した。 (ニ)南米共同体事務局長選挙については,29日ムヒカ大統領は当国上院議員 と の会合において,「ウルグアイはキルチネル前亜大統領に投票もしないが,拒否 権 も行使しない。会議において大半の国が同前大統領を支持する際はそれに習う。 」 と述べた。なお,国際橋梁封鎖解除に向けて,当国のキルチネル前亜大統領支持 が 当国が有する唯一の対亜外交カードであり,右外交カードを切ってしまえば,同 問 題の切り口となるその他外交カードがなくなることを当国は充分認識している。
(2)ムヒカ大統領のベネズエラ訪問 6日~7日,ムヒカ大統領はべネズエラを訪問し,チャベス大統領等との会談 を 行った。右会談等では,二国間関係(経済,経済協力,投資関係等),メルコス ー ル,南米共同体,将来のラ米カリブ共同体の強化につき協議された。ALBAに つ いてはウルグアイは従来同様オブザーバーの形で参加して行くこととなった。そ の 他具体的な成果として,ベネズエラはウルグアイに(イ)1000台の車両(年間) , (ロ)200台のトラック(年間),(ハ)180トン(毎月)の鶏肉の輸出枠を認め た 他,家畜の遺伝子研究について両国で協力していくことになった。
(3)エクアドル外相のウルグアイ訪問 14日,パティニョ・エクアドル外相は当地を訪問してアルマグロ外相と会談 し ,チリにて「パ」外相がウルグアイはキルチネル前亜大統領のUNASUR事務 局 長立候補を支持していると述べたことに関して,アルマグロ外相に謝罪した(注 : ウルグアイの立場は,何れの候補者も正式には支持していないというものであっ た )。その他,両者はUNASUR条約の批准(注:現在エクアドル,ベネズエラ , ボリビア及びガイアナの4カ国が批准を了し,9カ国の批准をもって同条約は発 効 ),南米銀行(注:Banco del Sur、2007年12月にベネスエラにてベネズエ ラ,伯,亜,ボリビア,エクアドル,パラグアイ,ウルグアイの南米7カ国によ っ て設立),UNASUR・米国間交渉,ハイチ支援について会談した。
(4)リヤード・マルキ・パレスチナ暫定自治政府外相は当地を訪問 17日,リヤード・マルキ・パレスチナ暫定自治政府外相は当地を訪問しアル マ グロ外相と会談した。同会談後当国外務省は,両国政府は相互に代表事務所を設 置 して友好関係を築くと発表した。右につき当国外務省筋は,右合意は外交関係の 設 立を意味せず,全ての欧州連合諸国や中南米諸国が同暫定政府と有している関係 と 同様とのコメントを行った。
(5)ウルグアイの国連平和維持活動への貢献 3日,当国国防省は,(イ)1994年~2010年までの国連平和維持活動により26 名 の当国国民が死亡し,(ロ)現在は2621人の要員が同活動を行っている(その多 く はハイチ及びコンゴ),(ハ)これまでの要員派遣に関わる経費のうち7000万ド ル が国連から未払いになっている,(ニ)コンゴの湖沼・河川警備を行っていた当 国 兵(100名)及び技術関係兵士(150人)が携行機材の老朽化等により任務遂行が 不 可能となり近く帰国する,等と発表した。
(6)キューバ人権問題 6日FA党は,(イ)アムネスティ・インターナショナルの報告に触れつつ,( ロ )キューバ国民自身による決定及び人権の完全な尊重を謳うと同時に,(ハ)キ ュ ーバに対する米国の攻撃的対応(経済封鎖)を批判し,(ニ)同インターナショ ナ ル国際人権団体はその報告において全ての人間が人権を享受できるよう国際社会 に おいて対話を維持する必要があることを確認している,との宣言を採択し,同日 右 を当国下院に提出した。
(7)第35回ケアンズ・グループ閣僚会合開催 19日~20日,当国において第35回ケアンズ・グループ閣僚会合(WTO 農 業関連)が行われ,ムヒカ大統領は開催挨拶の中で「先進工業国は我々に自由に 物 を売るが,そのようには我々から購入しない。これまでのWTOの成果を守るべ き である。「弱い者」にとって国際法による仕組みは唯一の保証である」と述べた 。 他方,ラミーWTO事務局長は,「技術的には本年中のラウンド終了の機は熟し た 」としたが,その他関係者は「終了に向けた意志は感じられたが,内容はほとん ど なかった」と述べた。我が国からは郡司 農林水産副大臣他が出席した。
(8)その他
(イ)対韓国牛肉輸出に関し,3日,当国政府は約1500頁に及ぶ資料を韓国 側 に提出したとして,今後同国が当国の牛肉輸入に向け種々検討することとなった と 発表した。
(ロ)22日,アルマグロ外相は当国商工会議所セミナーにおいて,チリが米, 墨 ,中国等56ヵ国との自由貿易協定等を締結し,世界の90%の市場へのアクセ ス を有しているとして,チリとの経済関係強化を優先する方向であると述べた。
(ハ)EU・メルコスールFTA交渉 27日、ブラッセルにおいて両者の事務レベル協議が終了し、今後の交渉は5 月 18日~19日のラ米・EU首脳会議の際に行われる。既に両者はこれまでに2 回 の協議を終えているが、特に農業産品関税面等での課題を残している。なお、本 件 交渉は2004年以降停滞していた。
4.社会
(1)麻薬関係 3月31日,ボリビアからパラグアイを経由して当国に飛来した軽飛行機より , 当国セロ・ラルゴ県で約180キロのコカインが投下された。当局は同投下以降 の 追跡により5名のウルグアイ人及び1名のコロンビア人を逮捕した。 13日,エクアドル(キト)にて逮捕されコロンビアに引き渡されたラミロ・ キ ンテロ(米国DEAの最重要捜査対象の1人)が,過去に亜やペルー他,モンテビデ オにも一時居住していたが,気候等が合わず出国していた事実が明らかになった 。 12日,当国との協議のため当国を訪問したロシア安全保障審議会Nicolai Patrushev委員は,ウルグアイは麻薬密輸組織により中継地として利用されている とコメントした。 7日,国家青少年更正院は,青少年の麻薬(主にパスタ・バセ)使用状況につ き ,同院入所中の100名中90名は14歳~18歳,9名14歳以下,1名10歳以下とし て ,同使用が低年齢化していると発表した。
(2)A型インフルエンザ 4月5日よりA型インフルエンザ・ワクチンの接種が開始された。当国では合計 約100万人への接種が必要なのに対し現時点では40万人分のワクチンの購入を予定 しており,今後妊婦及び15歳以下児童等を優先して接種する方向。しかし26日 現 在,19万人分の購入・配付を了したのみであり,残りの購入・配付が遅れ,特に 地 方各県へのワクチン配付の遅れが問題視されている。(3月15日までに15名が感 染し,うち5件は重傷の由。)
(3)2030年ワールドサッカー開催計画 南米サッカー連盟が了承している2030年ワールドカップ二国(亜・ウルグアイ ) 共同開催につき,当国政府は国会に対し右意向を正式に国会で決議するよう求め る 模様。
(4)当国における外交使節団の裁判問題 当国最高裁は,2009年中当国各国大使館の労働問題により同最高裁が扱った件 数 は,伯大使館の案件を含め合計11件であったと公表した。
(5)中絶合法化問題 12日,中絶規制委員会は,2009年中に66件の中絶が行われた旨,また , その多くは胎児の健康等の原因によると発表した(昨年,当国上下院にて中絶の 合 法化法案が採択されたがバスケス前大統領が拒否権を発動し,発効しなかった経 緯 あり。)