ウルグアイ内政・外交動向(2009年3月~4月)
1.概要
(1)内政
○3月2日、工業エネルギー鉱業大臣を中心とした超党派の原子力発電所建設調査委員会が会合を開始した。
○任期残り1年となったバスケス大統領は、これまでの政権運営の成果等について演説を行った。
○干魃が実体経済に多大な影響を与えていることが懸念された。
○失効法の無効化の是非を問う国民投票を実施するために必要な署名が集まった。
○在外投票を可能にするための憲法改正の是非を問う国民投票が10月25日に実施されることが確定した。
○バスケス大統領連続再選を可能とする憲法改正審議手続きに必要な署名が目標を満たさず、同大統領連続再選はなくなった。
○党内選挙を6月28日に控え選挙キャンペーンが本格化してきた。
○党内選挙に向けて支持率についてのアンケート調査が頻繁に行われている。主要各党大統領候補ではFA党ムヒカ候補(MPP派)50%強、国民党ラカジェ候補(Unidad Nacional派)50%前後、コロラド党ボルダベリー候補(バモス・ウルグアイ派)70%弱の支持率で各党の他の候補にリードしている。
○3月上旬、麻薬問題(Pasta Base)の深刻化をうけ、マリファナ使用の合法化議論が沸き起こった。
(2)外交
○バスケス大統領は、ビニャ・デル・マル(チリ)にて開催された革新指導者首脳会議にてバイデン米国副大統領他と会談した他(3月27日~)、フェルナンデス外相は、クリントン米国国務長官と会談した(4月6日、ワシントン)(何れも米国新政権発足後初)
○バスケス大統領の外遊(ブラジル、中国、チリ、トリニダード・トバゴ、コスタリカ)。
○国連査察団による刑務所等収容施設査察の実施。
○OECD国際税制基準ブラックリストにウルグアイが掲載され企業活動への影響が懸念されたが、最終的にグレーリストに掲載されることでひとまずの事態沈静となった。
2.内政
(1)下院議長交代
3月1日、FA党のRoque Arregui下院議員(社会党)が下院議長に就任した(任期は1年)。
(2)原子力発電所建設関連
3月2日、マルティネス工業エネルギー鉱業大臣をはじめとした超党派の原子力発電所建設フィージビリティ調査委員会が初めての会合を開いた。この場で、国民党等の野党からも原子力発電による電力の利用を禁ずる現行の法律条項を廃止すべきであるとの意見が聞かれた。
(3)任期満了を1年後に控えたバスケス大統領の演説
3月7日、バスケス大統領が就任からこれまでの政権運営における成果(貧困の減少、経済対策等)と任期満了を控えての抱負等についておよそ130分間の演説(於モンテビデオ)を行った。バスケス大統領は、(イ)金融危機の影響を受ける今後2010年までの政権運営においても(社会政策を減らすような)財政収支調整は行わない、(ロ)金融危機の到来はネオリベラリズムの理論が崩壊したことを意味しており、金融危機からの脱却は短期にやってくるわけでも簡単でもない、(ハ)ウルグアイは金融危機に対応できるだけの準備を万全に整えており、政府は支出に慎重でもあると述べた。更に、あらゆるインフレ抑制のための方策をとる準備があることを強調した。また、少年鑑別施設の環境改善に向け野党に協力を呼びかけた。
この国民に向けた演説に関し、野党は「税金を用いて与党FA党の宣伝をした」と非難した。
(4)INAU(ウルグアイ青少年機関)新代表任命
3月10日、上院は、出席議員27人中25票でNora Castro下院議員(バスケス大統領が青少年収容施設環境改善問題等対策のために指名)をINAU代表として承認した。同氏は同16日代表として就任した。
(5)「失効法(軍政期人権侵害に恩赦を与える法律)」無効化問題
(イ)3月30日、ブロベットFA党代表が失効法無効化のための国民投票を求める文書に署名した。
(ロ)4月23日、バスケス大統領は外遊先のコスタリカで、「一個人としてウルグアイ国民は失効法に縛られるべきではないと考えており、同法には反対である。」「一人の人間でありウルグアイ国民であると同時に、大統領として組織に対して負う責任があり、FA党としての公約を守らねばならず、同法の廃止を求める署名をすることは出来なかった。」などと発言し、失効法の無効化に賛同する意向を表明した。今回の発言はバスケス大統領が政権についてから公には初。なお、政府与党のアストリ上院議員は(2004年のFA党の公約を尊重するため)署名はしないが、国民投票が実施されるなら賛成票を投じると述べた。また、同じく与党のムヒカ上院議員は2008年に既に同法無効化を求める文書に署名済み。
バスケス大統領のこの行為に関し、野党からは、「公約違反である」との批判が出ている。
(ハ)4月24日、国民投票を実施するために必要な有権者の10%以上である約34万の「失効法」無効化を求める署名が集まり、同署名が、両院総会議長に付託された。
(ニ)4月27日に同署名は選挙裁判所に引き渡され、有効な署名数の確認作業に入った。有効署名数が要件に達していれば、本年10月25日に国民投票が実施される。
なお、23日に公表された民間調査会社Factum社によるアンケート結果によれば、同法廃止に賛成する国民は46%、反対30%、無回答24%。
(6)選挙のための市民証取得締め切り
4月15日、有権者による市民証(Credencial Civica:投票に際し必要とされる手帳)の取得が締め切られた。新規登録者は約28万人で、最終的に本年党内選挙で投票する権利を持つ有権者の合計は258万4219人となった。
(7)国会審議
(イ)在外投票の是非
(a)3月16日、FA党政治執行部は、在外投票を可能とする憲法改正法案を承認し、議会に送付した。
(b)4月1日、両院総会議長は、2014年から在外投票を可能とする憲法改正の是非を問う国民投票を本年10月25日に実施するべく、両院総会にて3分の2以上の賛成署名(5分の2=53票が要件)を得た法案を選挙裁判所に送付した。なお、法案が国民投票で可決されるためには、有権者全体の35%以上が投票に参加した上でその過半数が賛成票を投じる必要がある。
(ロ)「尊厳死」を認める法律の成立
3月17日、2001年の法案策定から約8年の審議の末、上院による法案修正及び下院による右承認を受けて、末期の病気に苦しむ患者が書面により事前に延命治療を拒否することを認める法律が成立した。なお、患者当人が意思表示をしないままに意識不明になる場合は、延命治療継続の判断は、配偶者、内縁者、若しくは一親等の血縁者に委任される。同法律は、4月3日バスケス大統領により署名され、同21日公示された。
(ハ)女性の政治参加促進法の成立
3月24日、下院は、「選挙候補者名簿(党内選挙は本年から、両院議員選挙は2014年に施行、県知事・県議会議員選挙は2015年施行)の3分の1は女性」を各政党に義務づける法律を可決した(上院では2008年5月承認済み)。同法は4月21日に公示された。
なお、候補者名簿の下位3分の1を女性候補とすることが可能であるため、同法の解釈を修正する動きも見られる。
(ニ)南米諸国連合(UNASUR)設立条約批准
4月14日、2008年5月23日に南米12カ国によって署名された南米諸国連合(Unasur)設立条約が上院にて承認され、下院の審議に送られた。
(8)党内選挙に向けた各党の動き
(イ)与党拡大戦線(FA)党
(a)バスケス大統領再選問題
3月2日、バスケス大統領再選運動活動家等はブロベットFA党代表に10万4,033人分の署名を手渡し(約15万人分足らず)、目標は達成できないままに再選キャンペーン終了を宣言し、その活動を終えた。現大統領の連続再選を可能とする憲法改正審議手続きを開始するには、約25万の署名が必要とされていた。
(b)FA党合同選挙キャンペーン
・3月13日、FA党大統領候補者3名(ムヒカ:MPP派、アストリ:アサンブレア・ウルグアイ派、カランブラ:無所属)は第一回FA党合同選挙キャンペーンをリベラ県にて実施した。歓声などムヒカ候補の人気が際だった式典であった。式典の中では、“結束”が強調され、野党には同様の式典を開催するまとまりはないとも言及がなされた。
・3月26日、FA党大統領候補3名は、モンテビデオにて2回目となる合同選挙キャンペーンを実施した。
・4月17日、カネロネス県ラス・ピエドラス市にて3回目となるFA大統領候補合同選挙キャンペーンを実施。ブロベットFA代表は、国民党やコロラド党にはFA党のような団結力は無いという点を強調した。
(c)カランブラ候補の県知事休職
4月13日から党内選挙キャンペーンに専念するため、カランブラ・カネロネス県知事は知事職を休職。
(d)選挙と政権運営の分離
4月13日の閣議にて、バスケス大統領は、6月の党内選挙の後10月の総選挙に向けて選挙キャンペーンに参加する閣僚は、選挙キャンペーンが政権運営に悪影響を及ぼさないよう、職を辞するよう通達した。
(e)チャルロネ下院議員のベルティエンテ・アルティギスタ派加盟
4月19日、チャルロネ下院議員(3期連続下院議員)はベルティエンテ・アルティギスタ派に加盟する旨の書簡をFA党代表に提出した。同下院議員は、本年2月にはカランブラ候補を支持する旨表明し、それまで所属していた社会党を離れていた。
(ロ)野党国民党
3月16日、国民党Unidad Nacional派のラカジェ大統領候補は、同派閥の次期大統領選に向けた政策綱領を発表。IASS(社会保障支援税)やIRPF(個人所得税)の撤廃等を目指す旨語った。
(ハ)野党コロラド党
3月11日、同党ラマス氏が党内選挙への出馬を表明した。
3.外交
(1)バスケス大統領のブラジル訪問
3月9日~10日 バスケス大統領はブラジリアを訪問し、ルーラ大統領と会談した。会談では両国を結ぶ送電線事業、域内政治情勢について意見交換した。また、金融危機に際し先進国の保護主義を非難しつつ、メルコスール強化を約束した。
共同宣言では、両国間電力送電のための事業の開始、伯BNDES銀行のウルグアイ支店を開設することを約束、またブラジル政府としてペトロブラスによるウルグアイ大陸棚での地下油田・ガス探査に積極的に関与していくことなどが盛り込まれた。(フェルナンデス外相、ガルシア経済財務大臣、マルティネス工業エネルギー鉱業大臣、センディックANCAP(燃料・アルコール・セメント公社)総裁等同行。)
(2)外交関係樹立
3月10日、ウルグアイはモンテネグロとの外交関係を樹立した。
(3)バスケス大統領の中国訪問
3月21日~26日、バスケス大統領は中国を訪問し、北京にて、胡錦涛国家主席、温家宝首相、全国人民代表大会の常設委員と会談を行い、通商関係及び投資について話し合った。(大統領夫人、フェルナンデス外相、ガルシア経済財務大臣、マルティネス工業エネルギー鉱業大臣、ベルテレッチェ農牧水産次官、フラッティINAC(食肉庁)長官、プンティグリアノANP(国家港湾局)局長、Pit-Cnt(ウルグアイ労働総同盟)代表及び47社(70名)の企業家等も同行)
(4)バスケス大統領の革新指導者首脳会議出席
バスケス大統領は、チリのビニャ・デル・マルで開催された革新指導者首脳会議(3月
27日~29日)(Cumbre de Lideres Progresistas)に出席し、バイデン米国副大統領
(27日)、ブラウン英国首相(28日)及びバチェレ・チリ大統領(28日)と個別会談も行った。
革新指導者首脳会議において、バスケス大統領は国際金融危機にあって保護主義に走ってはならない旨強調した。
バイデン米国副大統領との会談では、両国の政治・貿易関係の更なる深化につき確認され、また、バスケス大統領は、同米国副大統領に対して、ウルグアイ産牛肉の米国市場への輸出手続きの加速化、及び特定のウルグアイ製品を米国へ輸出する際に優遇措置が付加されるよう要請した。
(5)国連査察団による国内刑務所等収容施設査察
3月21日~27日、国連のノワック査察官が国内の刑務所、精神病院及び少年鑑別施設(INAU)等13の収容施設の査察を実施し、刑務所、警察署留置場及び少年鑑別所の劣悪な環境を指摘するとともに、家庭内暴力や受刑者数の多さについて触れた。
なお、同報告公表後、バスケス大統領は過密な刑務所の囚人を即座に軍施設等に移送するよう指示を出した。
同問題に関連し、4月13日、トゥルネ内務相は、閣議での承認の後、飽和状態にある刑務所から受刑者を移送する等を主な内容とする計画を発表した。これにより1250人の受刑者を新たな施設に移送することになる。
(6)国際税制基準ブラックリストへのウルグアイの掲載問題
(イ)4月2日、OECDが発表した国際税制基準に関する報告書の中で、ウルグアイは右基準に協力的でない国としてブラックリストの中に位置づけられた。これは、ウルグアイが銀行口座の納税情報の提供に協力的でない国であるとの判断によるものであった。
(ロ)4月3日、ガルシア経済財務大臣は、ウルグアイがOECDの税に関する透明性及び情報交換に関する基準を正式に受け入れ、右基準を国内税制に組み込み、本年中に右に関連する国際合意に批准する旨グリアOECD事務局長に書簡で伝えた。
(ハ)4月3日、OECDはウルグアイのブラックリストからの削除を発表し、また、
同7日、OECDはウルグアイ、コスタリカ、フィリピン、マレーシアを税務に関する透明性を著しく欠く「ブラックリスト」から正式に外し、税務に関する透明性が充分でない「グレーリスト」に掲載する旨発表した。
(7)フェルナンデス外相とクリントン米国国務長官の会談
4月6日、南極条約50周年・国際極年(IPY)記念閣僚レベル会合に出席のためワシントンを訪問中のフェルナンデス外相は、クリントン米国国務長官と会談した。
両外相は、17日から19日までトリニダード・トバゴで開催される第5回米州サミットに向けた協議の他、両国及び米州地域の関心事項について協議した。
(8)南部アフリカ関税同盟(SACU)・メルコスール間貿易特恵協定署名
4月6日、SACUは、メルコスール側が署名済み(2008年12月にサルバドールでメルコスールCMC首脳会合が開催された際)の貿易特恵協定に署名した。
(9)米州首脳会議
4月17日~19日、バスケス大統領は、ポート・オブ・スペイン(T.T.)で開催された第5回米州首脳会議に出席するとともに、南米諸国連合(UNASUR)12カ国首脳等とオバマ米国大統領との会合に臨んだ他、米国議員団と会談し通商関係について話し合いを行った。
UNASUR及びオバマ米国大統領の間で行われた会談の中では、バスケス大統領を含むUNASUR首脳陣は、米州首脳会議へのキューバの参加資格を回復する必要性について認識を同じくした。
(10)バスケス大統領のコスタリカ訪問
4月19日、T.T.からコスタリカに到着したバスケス大統領は、23日及び24日の公式訪問日程の中でアリアス・コスタリカ大統領と会談(23日)を行った(フェルナンデス外相、ガルシア経済財務大臣、アガシ農牧水産大臣、ウルグアイ企業30数社等が同行)。
首脳会談の中で、バスケス大統領はコスタリカとの貿易拡大に関心を示し、両国の貿易関係は拡大するための条件が整っていると述べた。また、両大統領は本年下半期バスケス大統領がMERCOSURの議長国及びアリアス・コスタリカ大統領がSICA議長国を務める機会を利用して両共同体の間で連携協定締結に向けた交渉開始のため、加盟各国に働きかけを行うことへの関心を示した。
(11)トルコとの協定署名
4月30日、Kayalarトルコ通商副大臣が当地を訪問しフェルナンデスと会談。各種合意に署名を行った。
4.要人往来
(1)来訪
(イ)3月4日~5日
インスルサ米州機構(OAS)事務総長が4日ウルグアイに到着し、同日夜FA党大統領候補3名と国民党ララニャガ候補、コロラド党のボルダベリー候補、同アモリン候補と夕食を共にした。この場で、国際金融危機とそのラテンアメリカにおける影響が話し合われた。インスルサ事務総長は、他のラ米各国に比べて、ウルグアイは比較的安定しており、他国に安心感を与えると評価した。
同事務総長は5日にはALADIを訪問した他、メルコスール事務局にてラ米・カリブ電子政府網年次会合にてスピーチを行った。5日朝にはバスケス大統領、午後にはフェルナンデス外相とも会談を行った。
(ロ)3月27日~28日
メルコスール議長国パラグアイのルゴ大統領が当国を訪問し、メルコスール設立18周年式典に参加した。
(ハ)4月26日
マレーシア国王夫妻がウルグアイを訪問し、国会視察、バスケス大統領夫妻と会見(於:大統領官邸)等実施した。
(2)往訪
(イ)3月2日
ガルシア経済財務相は、ポルトガルのポルトで開催されたイベロアメリカ蔵相会合に出席。Portucel(ウルグアイ国内にセルロース工場建設を予定)の役員らとも会合の場を持った。
(ロ)3月3日
バス外務次官は、エジプトを訪れ外務省高官等と会談した。
(ハ)3月4日~5日
バス外務次官は、レバノン・ベイルートを訪れ、ファウジ・サッルーフ外相等と会談した。
(ニ)3月10日
チリにて開催された南米諸国連合(UNASUR)防衛審議会会合にバジャルディ国防大臣が出席。米国に対してキューバへの封鎖を解くよう要請するということで合意した。
(ホ)3月31日
カタール・ドーハにおいて開催された第二回アラブ・南米諸国首脳会議にニン・ノボア副大統領が出席。
5.その他(社会面)
(1)車両運転に際しての血中アルコール濃度基準の変更
3月16日から、法規定により血中アルコール濃度の適用基準が見直され、血液1リットル中に0.5グラムまでとなっていたアルコール濃度が0.3グラムに下げられた。
(2)タクシー運転手組合によるスト
4月10日、モンテビデオ県セロ地区西部にてタクシー運転手が殺害され、タクシー運転手組合は11日からモンテビデオ全域で24時間のストを実施した。
(3)モンテビデオ県バス料金改定
4月20日、モンテビデオ県内を運行する路線バスで2時間乗り放題チケット(20ペソ)と1時間1回乗り換え可能チケット(15ペソ)が導入された。
(4)モンテビデオ県内における断水
4月20日、カネロネス県からモンテビデオ県に水を供給する水道管の一つが破損。モンテビデオ中南部を中心に20以上の地区で断水が続きおよそ50万人の市民に影響が出たが、22日の朝復旧した。