ウルグアイ内政・外交動向(2008年3月~4月)
●概要
(1)内政面
バスケス政権発足3年目の節目である3月1日をもって6名の閣僚が交代した。他方、次年度補正予算案や教育改革法案、女性の政治参加促進法案など、多くの重要な法案が策定されるとともに、2007年7月から始まった新税制に関連して、個人所得税の年金課税の合憲性を問う訴訟で相次いで判決が下された。
(2)外交面
新外相として就任したフェルナンデス外相が積極的な外交活動を行い、ガルガノ前外相との違いを鮮明にした。特に、米・ウルグアイ貿易促進に関して前向きな姿勢が見られる。
●内政
(1)下院議長
3月1日、国民党のペルドモ下院議員が下院議長に就任した。
(2)閣僚交代
3月3日、6名の新閣僚及び大統領府長官、5名の新次官の就任式が行われた。新しく就任したのは、シモン教育文化大臣、アガシ農牧水産大臣、フェルナンデス外務大臣、バジャルディ国防大臣、コラッチェ住宅土地整備環境大臣、マルティネス工業エネルギー鉱業大臣、トマ大統領府長官、ベルテレッチェ農牧水産次官、バス外務次官、メネンデス国防次官、コウリエル住宅土地整備環境次官、ガデア工業エネルギー鉱業次官の12名である。
今回の閣僚交代ではテクノクラートを多く配すことで実務的な政府造りが目指されており、同時に、FA各派閥のリーダーを閣外に出すことで旧大臣らが大統領選に向けた選挙活動に専念できるようにする目的があると見られている。
(3)個人所得税(IRPF)年金課税の合憲性を巡る裁判
2007年7月1日より施行された新税制において個人所得税(IRPF)が導入されたが、年金受給者への課税を違憲だと主張する一連の訴訟に関する最高裁判所の判決が3月26日以降続々と言い渡された。判決はいずれも年金課税を違憲とするもので、違憲に一票を投じていたボッシオ判事が4月7日に定年を迎えるまで票差3対2での右違憲判決が続き、400近くある訴訟のうち計15の訴訟で違憲判決が下された。
最高裁は、4月7日までの違憲判決に関して、「法の下の平等」を記した憲法第8条及び年金・社会保険受給の権利を定めた第67条などに則り、1)納税は労働の見返りとして給料を受け取る現役労働者に課される義務であり、この点で、年金所得者は労働者とは異なった状況に置かれていること、2)社会保険の給付金は所得から生じたものではなく、現役時代の納税に対する報酬として国庫から支払われるものであること、3)妊婦や失業者らに補助金が適用されるのと同様、年金受給者らは特別な配慮が必要な対象であることなどを判決の根拠とした。
右判決後も、与党FAの主要議員やバスケス大統領、アストリ経済財務相はIRPFの年金課税を擁護する態度を崩さず、一連の判決を尊重するとの発言はしながらも、IRPFの見直しに関しては、課税を違憲としたボッシオ判事が定年退職を迎えたことで、最高裁の力関係が変わる可能性に鑑み、更なる訴訟による判決の結果を熟慮した上で対策を練ることとした。
そんな中、ボッシオ判事の後任として4月22日Jorge Larrieux氏が最高裁判事として任命されたが、同判事は合憲に一票を投じたため、4月30日、最高裁は、個人所得税の年金課税を合憲であるとする判決を下した。
野党は課税される者とされない者の間での不公平感を無くすため、個人所得税の年金課税を廃止するよう求めているが、その一方で政府はこれまでの違憲判決で課税対象から外された1500人あまりの年金所得者らに再度課税すべく代替案を模索中である。
(4)FA(拡大戦線)への支持率低下
3月29日付エル・パイス紙によれば、3月初めの15日間に、現在、大統領選・国政選挙が行われるとしたらどの政党に投票するかを世論調査会社FACTUMが調査したところ、FA支持が42%、国民党支持が35%、コロラド党支持が8%、独立党支持1%、白紙回答3%、支持政党未定その他11%という結果になった。昨年12月に実施された同様の調査と比較すると、FA支持率は2%の下落、国民党支持率は1%上昇、コロラド党支持率は1%下落で、1999年以降初めて国民党とコロラド党への支持率合計がFAへの支持率を超えたことになる。
(5)「El Movimiento 26 de Marzo」のFA離脱
3月29日、FAの急進派であるEl Movimiento 26 de Marzoは派閥の全国会合にて、現バスケス政権の政策は伝統的左派から逸脱したものであるとして、全会一致でFAからの離脱を決定・表明した。同派閥は、1971年のFA設立当初からのメンバーであったが、FAにおいて少数派閥であり、全国的にも県議会議員を4名輩出しているのみであった。
(6)FA全国総会
(イ)4月5日FA全国総会が開かれ、共産党、ヌエボ・エスパシオ、ビクトリア・デル・プエブロなどの発議により、FA全体として失効法(軍事政権時に行われた軍人による人権侵害を免責とする法律)廃止に向けた署名収集活動に賛同する決議が採択されたが、この動議に異議を唱えていたFA内の多数派閥(社会党、MPPなど)は、次期大統領選を考慮に入れると、失効法廃止をはっきりと支持するのは政権にとって好ましくない事態を引き起こす可能性があるとして懸念しており、署名活動が実行されるか不明である。
(ロ)FA全国総会は不正疑惑で昨年12月に起訴拘留命令を受けたベンゴア元県営カジノ支配人及び顧問2名に対し、裁判所からの判決が言い渡されるまでFAの党員資格を停止する決定をした。
(ハ)ブロベットFA代表代行が代表として再任される予定であったが、共産党が再任する条件として複数の副代表を選出する制度を導入することに拘ったため、同月19日に開催される党大会まで結論が引き延ばされることになった。(党大会では、投票によりブロベット代表代行が正式なFA代表として再任命された。一方で副代表選出に関しては今後開催される全国総会にて、基盤委員会の中から選出することで合意するに留まった。)
(ニ)FAの急進派閥である「El Movimiento 26 de Marzo」は政府の穏健政策を不満として離党届けを正式に提出した。
(7)教育改革法案
4月14日、シモン新教育文化大臣の指揮のもと作成された教育改革法案が各閣僚に配布された。今後国会にて審議が行われる予定である。今教育改革法案にて特筆すべきは、大学以外の教育機関の質を評価する国立研究所の設立、及び教育審議委員会のメンバー5名の内3名を内閣が指名、2名を教師らが選出できるようにすることによる「教育の自治」促進などである。
教師組合は、教育審議委員会の5名のメンバー全員が教師によって選出されるよう求め、右を共産党及びMPPも支持しており、今後の反発は必至。
(8)FA党大会の開催
4月19日、FA党大会が開催され、バスケス政権の公約として懸案になっている教育改革法案に関して、政治からの介入を受けない完全な「教育の自治」を認めるか否かについての動議は過半数の賛同を得られなかったため採択されず、本件討議の為の特別委員会を創設することで合意、議論は右の場に委ねられた。
(9)女性の政治参加促進法案
4月22日、上院の憲法規範委員会は女性の参政数(県議会や国会議員選挙などで出馬議員の3分の1を女性が占めるようにする)に関する法案を承認した。今後5月14日に上院で同法案について審議投票がなされる予定である。(5月14日の上院での審議では、国民党上院議員らが、党内選挙も法案に含めるべきであり参政プロセスは段階的であるべきだという主張をしたため、投票は先送りされた。)
同法案は時限法案であり、2009年と2015年まで暫定的に施行し、期間終了後、継続について審議する。
(10)ニン・ノボア副大統領に対する疑惑
4月中旬、野党及び与党内から、ニン・ノボア副大統領は、セロ・ラルゴ県知事時代に共和国銀行から融資を受けた(1991年)後、返済が滞ったために信用(クレジット)・財産差し押さえをされていたが、2005年副大統領の地位に就いた2ヶ月後に差し押さえを解除されたことについて、不当に債務帳消し若しくは一部免除をしてもらった可能性があるとして調査されている。一方、ニン・ノボア副大統領は、債務帳消しのための特別優遇措置は受けていないと弁解している。
(11)2009年度補正予算案
4月21日、閣議の場にて、補正予算案の内容が公表された。これによれば、2009年は3億19百万の予算増額となり、その中で1億3千4百万ドルが教育予算として当てられる。これにより、懸案となっていたGDPの4.5%を教育予算に充てるというFAの公約が果たされることになる。
(12)バスケス大統領による次期大統領候補者支持
4月30日、バスケス大統領は地方閣議後のフライベントス市において、アストリ経済財務相がFAからの大統領候補としてふさわしい条件を兼ね備えていると言及し、同氏の立候補を支持する旨公の場で初めて表明した。また、5月半ばには上院に戻り大統領選挙を視野に入れた政治活動を始める予定であったアストリ経済財務相に対し、個人所得税の年金課税問題及び補正予算案についての議会でのやりとりが一段落するまで(7月めど)は大臣の座に留まるよう依頼したと発言した。
(13)野党の動き
(イ)4月12日
12日、ラカジェ元大統領は、エレリスモ派の臨時集会にて、大統領候補になるべく国民党党内選挙に出馬する意向を表明した。
(ロ)4月21日
国民党のラカジェ氏(エレリスモ派候補)が、国民党執行委員会集まりの中で国民党執行委員辞任を表明した。右は、党内選挙、大統領選挙に向けた選挙キャンペーンに専念するためのもの。国民党の慣習では、選挙に出馬する者は党の運営に関わるのは好ましくないとされてきた。一方、同じく党内選挙出馬予定のララニャガ党執行委員会委員長は8月若しくは9月に同職を辞する考え。
(ハ)4月28日
ビダリン・ドゥラスノ県知事が、国民党執行委員会に対し「Soplan Vientos Nuevos」派の登録を行った。同氏は2ヶ月前に国民党エレリスモを離れていた。今回作られる新しい派閥が大統領選挙事前キャンペーンを支援することになる。この日、大統領候補として党内選挙に立候補することを国民党の本部にて正式に表明した。
●外交
(1)フェルナンデス外相とタイアナ亜外相の会談
3月12日、フェルナンデス外相は外相就任後初めての外遊先としてアルゼンチンを訪れ、ブエノスアイレスにてタイアナ亜外相と会談を行った。この中で、南米地域の現状、エクアドル・コロンビア間の紛争、メルコスールに関する評価など、様々な懸案事項に関して意見交換がなされた。
ボスニア社工場問題に関しては、国際司法裁判所にて解決されるという点で意見を同じくした。また、タイアナ外相は、ウルグアイ河規約にある規定を一つ一つ尊重していく必要性を強調した。中でも、紛争の原因となったボスニア社工場建設のような事例に関しては事前の情報提供と相談のメカニズムが不可欠である点を強調した。一方、フェルナンデス外相は、アルゼンチン領内で環境活動家らが実施している国際橋梁封鎖に関して、これまでと同じく封鎖解除の要求を繰り返した。
メルコスール域内対外二重関税問題に関しては、タイアナ外相により、しかるべき対策を講じていくことをフェルナンデス外相に約束された。また、両外相は法律上・技術上の障害はあるものの、本来の関税同盟を達成するために不可欠な二重関税撤廃を可能にする関税コードの達成は可能であるという楽観的な見方を示した。
(2)ハイチにおける国連PKOへの増援
(イ)3月24日、バジャルディ国防相は、国連からの要請によりハイチのMINUSTAHにおけるウルグアイ軍の増強を進める旨、上院国防委員会にて報告した。報告によれば、ハイチにおける密輸と麻薬密売撲滅のため現地治安警察を支援する目的で、ウルグアイ海軍から8つのポイントに16隻の高速艇を5月より、また、同空軍からは最新機材を装備した偵察機(AVIOCARC212)1機を4月中旬に配備する予定である。
(ロ)4月8日、国会両院総会は同年4月15日から1年間、ハイチにおける国連PKO(MINUSTAH)に参加せしめることを目的として、空軍偵察機(C212)及び30名を上限とした乗組員のハイチ派遣を認める決定を下した。
(3)亜とのBotnia社セルロース工場問題
(イ)4月7日
バスケス大統領は、2005年11月以降に職を失ったサンマルティン橋梁近くのフライベントス市に住む住民61名に計250万ペソを配布することを決定した。これは、政府に補償申請を出していた84人のうちの61人の訴えに耳を傾けたもの。
(ロ)4月27日
亜・グアレグアイチュ市とウルグアイのフライベントス市の間にかかるサンマルティン橋上にて亜人及びウルグアイ人環境活動家らが500人以上集まり、橋梁上にてウルグアイ政府を非難するとともにボスニア社工場の撤退を求めるデモを行った。
(ハ)4月30日
亜の地方裁判所がウルグアイのパイサンドゥと亜・コロンを結ぶアルティガス橋の封鎖を解除するよう命令を出した。これにより、現在では、サンマルティン橋のみが封鎖されている状態である。
4.要人往来
(1)3月12日
Kim Howells英国外交担当国務大臣(Minister of State at the Foreign and Commonwealth Office)がウルグアイを訪問し、カンセラ外務審議官と会談、国連改革や気候変動、貧困撲滅、民主主義の強化、メルコスール・EU関係深化の進展状況など、様々なテーマについて議論がなされた。
(2)3月17日~18日
OAS本部(ワシントン)においてエクアドル・コロンビア国境問題に関するOAS外相協議会が開催された。同協議会に出席したフェルナンデス外相は副議長を務め、中立的立場で両国紛争の平和的解決に貢献した。
(3)3月30日~4月1日
米州イノベーションフォーラムがプンタ・デル・エステにて開催され、パネリストとしてパディラ米商務次官が参加した。
(4)4月5日~7日
アストリ経済財務相が5日マイアミに到着。7日には、米州開発銀行の第49回総会に出席。ポールソン財務長官、チリ財務相らと会談を行い、アメリカの経済不振とその影響、また、米州各国の市場を結びつけるためのインフラ改善の必要性などについて話し合った。
(5)4月29日~30日
訪米(ワシントン)したフェルナンデス外相は、ライス米国務長官と会談し、貿易投資枠組み協定(TIFA)に基づく科学技術協力協定に署名するとともに、両国間貿易・投資についての審議会合に出席した。
5.その他
(1)タバコ中毒対策法
2006年3月1日公共施設の屋内での禁煙が義務づけられたが、右をさらに厳しくする法律(法令18256号)が3月6日成立した。
この法律施行により、医療施設及び教育施設の屋外喫煙、マスメディア及び印刷物を通じたタバコ製品の宣伝、自動販売機によるタバコ販売などが同年6月より禁止されることとなる。
(2)ALADI
(イ)第14回ラテンアメリカ統合連合(ALADI)閣僚級審議会開催
3月11日、モンテビデオにて第14回ALADI閣僚級審議会が開催された。フェルナンデス外相、アモリン伯外相を初めとして、各国から大臣・副大臣が出席。亜のマルビーナス諸島に対する主権擁護、米がキューバに課している経済・通商封鎖反対、地域社会の団結及び地域統合プロセスにおけるALADIの役割についての宣言が採択された。また、オペルティ事務局長の後任としてパラグアイ外交官のウーゴ・サギエル氏(Hugo Saguier)が選出された。
今回の会合において外交デビューを果たしたフェルナンデス外相は、地域統合はウルグアイにとって非常に重要であるとした上で、市場流通において広範な地域市場が存在しないことがウルグアイの直面している主要な経済不均衡の要因であり、また、地域統合には、生産性とエネルギーに関する計画が欠かせない旨発言した。
また、オペルティ事務総長は、自由貿易地域達成への道のりは険しいものであるし、右達成にかかる時間は国によって異なるであろうが、ALADIに加盟するラテンアメリカ各国にとっては疑いようもない目標であると強調した。
(ロ)ALADI事務局長の任期満了
3月26日、オペルティ事務局長が午前11時をもって任期を満了した。
(3)プラン・セイバルの拡大
3月30日、プンタ・デル・エステにて行われた米州イノベーションフォーラムの開会式において、バスケス大統領は、これまで小学校の先生及び生徒のみを対象として行ってきたプラン・セイバル(公立小学校の生徒たちが全国で等しくコンピューターの操作ができるようにするため、無線LAN機能のついたラップトップコンピューターを無料で配布する計画)を今後、全ての中等学校教諭にも拡大していくと発表した。
(4)世界一の焼き肉大会
4月13日、国立食肉協会(INAC)のイニシアティブにより、1万2千キロの牛肉(1500メートル)を使ったアサード(焼き肉)大会がモンテビデオで開かれ、世界で一番長距離のアサードとしてギネスブックに登録された。このイベントは、ウルグアイの伝統的食文化を世界に知らしめることを目的として開催されたものである。
(5)節電計画の大統領令
燃料の高騰、電力消費量の予測以上の増加を受けて、4月14日、閣議にて節電計画についての大統領令が承認された。右により、プライベートセクター(商業・住居)に対して商店出入り口のイルミネーションや看板の明かりを出来る限り減らすよう勧告される。一方、公共セクターの電力消費に関しては5%の節電を目指すことが決まった。文化関連のショーやスポーツに関しても野外での電力消費には制限を設けられる。
(6)大統領府副長官の失効法廃止支持
ホルヘ・バスケス(大統領の弟で大統領府副長官)は、4月22日、Pit-Cnt本部にて失効法を廃止するための国民投票を求める書類に署名をした。同氏は、「一市民として署名をした。全ての法律と同様、右法律も尊重はしてきたが、これまで失効法を支持したことはなかった。」とコメント。因みに、バスケス大統領は、現政権では失効法を廃止しないことを確約している。
(7)南米銀行出資金分担額等に関する合意
4月25日、南米銀行加盟国の各国経済相らがモンテビデオにて会合を開き(亜は経済相任命問題で欠席)、同行への初期資本金を70億ドルとする旨決定した。また、資本金70億ドルの出資比率は、加盟国の経済格差を考慮の上、亜・伯・ベネズエラは20億ドルとし、ウルグアイ・エクアドルは4億ドル、パラグアイとボリビアは1億ドルとする旨合意された。なお、各国が負担する出資金の10%までは各国現地通貨にて拠出可能であり、残りに関しては国際通貨にて拠出することとなった。
小国を優遇するため、出資金とクレジットの上限額は一致せず、亜・伯・ベネズエラに対するクレジットは出資額の4倍まで、そのほかの国々は、出資額の8倍までとされた。