ウルグアイ内政・外交:2010年3月
1.概要
(1)内政・社会
○3月1日、フェリーペ西皇太子、南米7ヵ国大統領、クリントン米国務長官他の出席を得てムヒカ大統領の就任式典が開催された(我が方より佐久間大使が特派大使として出席)。同大統領は教育、エネルギー、環境、治安問題に取り組む等述べた。
○5月9日の地方統一選挙に向け、モンテビデオ県では1990年以降政権を維持しているFA党は前社会開発次官を同県知事候補とした。同県ではFA党が51%の支持率で大幅優位。
○16日、ムヒカ大統領は軍事政権後初のゲリラ出身の大統領として軍関係者と会合。軍関係者と和解する会合として注目。また、同大統領は貧困軍人の問題解決への姿勢も示した。
○2日、新学期が開始。公立小中学校は校内暴力、教師不在で授業が出来ない等課題多し。当地IBDは児童貧困問題を指摘(0歳~17歳で35%前後が貧困状態)。ムヒカ大統領は、出生率が高い貧困層の子供への対策は将来の治安対策に繋がると発言。
(2)外交
○野党からの対キューバ人権決議提案は、与党FA党の反対により否決。今後キューバ国内で同様の死亡事件が発生すれば、FA党はキューバ擁護は困難としている。ムヒカ大統領は、「人権の侵害は耐えられない、避けられるべき」と発言。
○ムヒカ大統領は10~12日ピニェラ・チリ大統領就任式のためチリ訪問。12~14日、ボリビアにてモラレス大統領と会談(天然ガスの輸入、ボリビアの大西洋への出口確保等協議)。
○21日よりムヒカ大統領はブラジリアを訪問。ルーラ大統領との首脳会談にて、送電線連結計画、国際架橋建設、鉄道網整備等の他デジタルTV方式についても協議。ムヒカ大統領は、「各国が日本方式を決定する中、欧州が以前同様ウルグアイに関心を持っているのか否か分からない点が問題だ。」として、5月の欧州訪問の際に欧州側の考えを質すと述べた。
2.内政
(1)ムヒカ大統領就任式
3月1日、晴天の下、フェリーペ西皇太子、南米7ヵ国の大統領、クリントン米国務長官等の出席を得て、就任式典(議会)、新旧大統領引継式典(独立広場)、及び祝賀レセプションが開催された(日本からは佐久間大使が特派大使として出席)。
今次就任式ではムヒカ大統領自身はネクタイをつけず、基本的には気さく且つ質素な雰囲気の中で実施され、議会から独立広場への移動に際しては(車両及び徒歩)常に大衆から声援を受ける等、同大統領の絶大な人気が伺われた。
就任演説で同大統領は、(イ)教育、エネルギー、環境、治安の4項目を今後30年間の国家的課題と位置付け、右に対し全政党及び国民の団結を求め、特に、(ロ)国家建設のための教育の重要性と貧困撲滅を強く訴えた。また、(ハ)理想的な国家としてニュージーランド(NZ)とオランダを挙げ、今後、農業、インテリジェンス、観光、地域的ハブ機能強化に尽力すると述べた。更に、(ニ)国家的課題への予算配分では全政党が責任を以て取り組むべき、(ホ)公務員給与の優遇は疑問(当国公務員約26万人(人口5人に1人)、人口比でチリの1.3倍)、(へ)国家改革を具体的な形で進める等と述べ、高く評価された(注:4日、国家改革のためNZより2名の専門家が派遣される旨報道あり)。
(2)地方選挙(5月9日)
5月9日の地方統一選挙に向け、各党は4月9日までに各党候補を選挙裁判所に登録する必要があるところ、特にモンテビデオ県知事選挙については、FA党は候補者をアナ・オリベイラ前社会開発次官のみに絞り込んだが、国民党及びコロラド党は複数候補を擁立する方向。
11日、当国上院は、地方統一選挙に際して実施される初の市長選挙に関し、全国89の市で選挙を行う法案を可決した。これにより、同日の知事・県議会選挙に際し89市の市長選挙も実施されることとなった。因みにモンテビデオ県では8市で選挙が行われる。
24日、FA党内派閥の共産党はMPPとの選挙協力をやめ、社会党派と組んで選挙活動等を行うと発表した。また、25日にはFA党集会が行われ、バスケス前大統領がムヒカ大統領を中心とした団結等を訴えたことから、同前大統領がFA党内の団結維持に動き出し、ムヒカ大統領が政策運営をし易い環境作りを始めた、更に、同前大統領は2014年の大統領選挙出馬への意向を持っているとの見方が出始めた。
最近の世論調査(8日付ウルティマス・ノティシアス紙及び18日付エル・パイス紙)は、モンテビデオ県知事選挙での各党支持率は、FA支持51%、国民党支持16~22%、コロラド党9~11%、独立党1~2%と発表している。
(3)ムヒカ大統領と軍関係者との会合
16日、ムヒカ大統領は約300名の将校等に対し(於:ドゥラスノ県空軍基地)、軍政時代の過去を振り返るのでなく未来を見据えて、国の発展に向けた国民の団結と融和を訴えた他、貧困軍人問題解決(同軍人の住宅建設)等への協力を求めた。ムヒカ大統領と軍関係者の今次会合は、軍事政権後初のゲリラ出身(軍政権下14年間投獄経験あり)の大統領と軍関係者との和解の会合として注目された。なお、当国下級兵士の6割以上が平均貧困率以下の生活を強いられ、5%が極貧の水準にあるとして、同兵士の給与増額の必要性が報道(5日)された。
(4)大統領直轄の情報局長の任命
10日、ムヒカ大統領は、大統領直轄の情報局長に元反政府武装組織ツパマロスのアウグスト・グレゴリ氏を任命した。同局長は国防省及び国家警察の情報局を統括・コーディネートする役割を担う。なお、当国では国家警察、三軍等の情報組織の統率不足が指摘されており、特に最近の麻薬・武器犯罪等へ効果的に対応するために、同組織の調整が必要とされていた。本件人事については、特に野党等からグレゴリ氏が過去にツパマロスに所属していたことから情報局長への任命に疑問が呈されている。
(5)外貨準備のインフラ整備への利用
23日、ムヒカ大統領は将来外貨準備を鉄道整備や全日制学校の建設(約130の小中学校)等のインフラ整備にあてることを検討すると発表した。現在当国には約80億ドルの外準があり、2009年予算の約1割に当たる9.5億ドル程度の利用が可能の由。
3.外交
(1)対キューバ人権決議の否決
3日、当国上院において、キューバの人権活動家オルランド・サパータ・氏の(獄中での断食の後)死亡(2月23日)を受けて、国民党及びコロラド党が対キューバ人権決議案を提案したのに対し、与党FA党の反対を受けて右は否決された。
また、9日、下院においても国民党及びコロラド党により本件関連決議案の提案がなされたが、FA党の反対で否決された。17日、アルマグロ外相はFA党議員との会合の後、「キューバ非難のための十分な材料を有しておらず、現在調査・検討中。」と述べた。また、22日FA執行部は、本件協議の後、(イ)キューバ国内問題は同国国民が解決すべき、(イ)米国は経済封鎖を解除すべき、(ハ)人命が失われることは残念等とのコメントを発出したが、サパータ氏死亡については触れなかった。
他方、25日、FA党内知識人(ヘラルド・カエターノ(歴史学者)、ホアン・マヌエル・キハーノ(経済学者)等)は、サパータ氏死亡に際するキューバ政府へのFA党の対応に対し疑問を呈した。また、FA党内では、今後キューバ国内で人権活動家等の死亡事件が発生すれば、FA党としてキューバを擁護し続けることは困難との考え方が出ている由。
ムヒカ大統領は、31日、キューバ政府には直接言及しなかったが、「人権の侵害は耐えられない、避けられるべき」と発言した。
(2)ハイチの追加的援助
5日、当国海軍艦船「アルティガス号」は約120トン(約45万ドル相当)の物資を搭載してハイチに向かった。物資は、主に、浄水装置2機、医薬品(5トン)、米、砂糖、粉ミルク、トウモロコシ粉等の食料品(合計40トン)、玩具類、トウモロコシの種子及びインゲン豆(計34トン)、農機具(1600キロ)。
(3)メルコスールを通じた外交の強化
9日、アルマグロ外相は、「ウルグアイは伯、亜を中心とするメルコスールとの関係を最重要視している。中国、米、EU等の大国はメルコスールとの関係強化を望んでいる。」として、今後メルコスールを中心にした大国等との外交に尽力する旨述べた。
(4)イスラエル治安大臣の訪問
9日、当国訪問中のVitzhak Aharonovitchイスラエル治安大臣はムヒカ大統領等に表敬した際、イスラエルは治安対策技術等を通じてウルグアイに協力する用意がある旨述べた。
(5)独二重課税防止条約署名
9日、当国訪問中のヴェスターヴェレ独外相は、ムヒカ大統領及びアルマグロ外相と会談し、通商関係、文化交流、科学、農業、獣医技術分野等につき協議した。また、今回両国の二重課税防止条約にも署名した。これにより、当国はOECDのタックス・ヘブンに関わるグレーリストから脱却するために必要な12ヵ国との締結に向け、5ヵ国目の署名を了するに至った。(更に、26日、スイス及びフィンランドとも二重課税防止条約の署名を了したとも報じられた。)
(6)ムヒカ大統領のチリ訪問
10日~12日、ムヒカ大統領はチリ大統領就任式に出席するため同国を訪問し、同式典に出席した他、バチェレ前大統領とピニェラ新大統領と会談した(地震被害に対するウルグアイの協力意向等を伝達)。また、在チリ在住ウルグアイ人と会合し、高い技術と専門性を有する在外ウルグアイ人の帰国を慫慂した。更に、ムヒカ大統領はプレスに対して、チリと諸外国のFTAはウルグアイにとっても有益として、当国がチリとの通商関係深化につき協議していくこと、また、税関手続き簡素化等の関税障壁撤廃についても協議していくと述べた。
(7)ムヒカ大統領のボリビア訪問
12日~14日、ムヒカ大統領はコチャバンバを訪問し、モラレス大統領と会談した。同会談では、(イ)気候変動問題、(ロ)URUPABOL(ウルグアイ、パラグアイ、ボリビアによる同盟)の活性化問題、(ハ)パラナ川を活用したボリビア及びパラグアイとの貿易拡大、(ニ)家畜伝染対策、(ホ)ボリビアの大西洋への出口確保につき協議された。また、ボリビアがモンテビデオ港及びヌエバ・パルミラ港を出来る限り早く利用できるよう協力することが確認された他、ムヒカ大統領は、コカの葉を噛む習慣はボリビアの文化的伝統であるとして、右慣習を支持する旨発言した。他方、モラレス大統領は、ウルグアイに天然ガスを輸出する用意がある旨表明(アルゼンチン経由案が有力)。
(8)外務省人事等
19日、当地各紙は、当国外務省人事として、(イ)レイナルド・ガルガノ元外相、在西大使、(ロ)ペドロ・バス前外相、在チリ大使、(ハ)ロドルフォ・カマロサーノ輸出協会会長、在墨大使への任命を報じた。また、当国外務省は現在アフリカ大陸にあるエジプト及び南アの2大使館に加え、もう一つの大使館の開設を検討している由。
(9)ロサディージャ国防大臣の訪米
米州機構テロ関係会議に出席していた当国ロサディージャ国防大臣によれば、22日米国防省フランク・モラ次官補と会談し、両国が近い将来国防関連の協定を締結する意向であり、取り敢えず両国は共通の関心事項につき協議を開始することになった由。
(10)国連の当国宛未払い問題(平和部隊派遣関係)
22日、当国共和国銀行は、現在国連からの支払いが滞っている当国平和維持要員派遣経費約7000万ドルにつき、取り敢えず同銀行が当国国防省に対し1500万ドルを融資し、右を以て国防省から平和維持軍参加者に一部支払うと発表した。
(11)ウルグアイ国軍廃止提案
25日、アリアス・コスタリカ大統領は、ムヒカ大統領に対しウルグアイでも軍を廃止したらどうかと提案したと公表した。なお、コスタリカでは1948年に軍を廃止している。右発言に対し当国国民党等野党から反対意見が出された他、ムヒカ大統領も麻薬等組織犯罪に対応する必要もあり廃止の考えはないと述べた。
(12)ILOによる当国労働法修正提案
26日、ILOの「結社の自由委員会」は、当国の労働法で認められた組合員による職場占拠の自由は、非組合員及び雇用主の就労の自由を侵してはならないとして、同法の修正を求めた。
(13)ムヒカ大統領の訪伯
ムヒカ大統領は21日~23日にブラジリアを訪問し、22日、ルーラ大統領との首脳会談及び同大統領主催晩餐会に出席した。同訪問には、アルマグロ外相、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣、アゲレ農牧大臣等が同行した。
首脳会談等では、(イ)二国間送電線連結計画、(ロ)二国間国際架橋建設、(ハ)二国間鉄道網整備、(ニ)南米共同体の現状分析等、(ホ)二国間委員会創設(両国外務省主催)、(ヘ)ハイチ安定化ミッション、(ト)デジタルTV方式、等の他、メルコスール強化等につき協議が行われ、5月3日、ルーラ大統領がウルグアイを訪問することも発表された。
デジタルTV方式に関しムヒカ大統領は、「ウルグアイは欧州方式採用の立場をとったが、その後何の具体的進展もない。その後地域の各国が日本方式を決定していく中で、欧州が以前のようにウルグアイに関心を持っているのかどうか分からない点が問題だ。」として、5月の欧州訪問の際に欧州側の考えを質すと述べた。また、「現在我々が行っているのは深く情報を知ること、及び比較することであるが、これは欧州側とも行う予定だ。我々はポジションをを有していない。また、急いでもいない。」とも述べた。
4.社会
(1)2日、小学校(約47万人)、また8日には中学校(約23万人)の新学期が始まった。公立小中学校の課題として、授業の17%が教師不在で授業が出来ない(教師の不足及び兼職等による)、また、児童・生徒の7.6%が経済的問題により精神面及び医療面で健康管理がなされていない等の問題が指摘されている。更に、1教室の過剰人数(1クラス45人)、インフラ不足、落第問題(公立学校生徒の約3割が落第乃至留年の経験を有する)、半日学校の存在、構内暴力等の課題も多い。
また、30日、アレックス・マツェイ中学校協会会長はボノミ内相と協議し、71の中学校等の治安維持(生徒の暴力事件等)のため国家警察もその任務に当たる旨約束した。
(2)5日、A型インフルエンザに関し、当国は近く南米保健機構より約百万人分のワクチンを入手するとして、4月中旬頃より妊婦等を優先しつつ接種を始めると報道。
(3)9日、当地IBDは当国の子供の貧困問題を発表した。当国一般国民の20.5%が貧困状態にあるが、年齢別では、6歳以下が39.4%、6~12歳では37.3%、13~17歳では30.7%が貧困状態にあるとした。ムヒカ大統領は、貧困層の出生率が高い現状からして、現在の貧困層の子供への対策を講じることは将来の治安対策に繋がると述べている。なお、09年の未成年犯罪者数は約25000人(一日平均70人)であり、そのうち22000人が父兄に渡され、約3000人が更生施設に保護されている。
(4)16日、昨年末に一つの区切りつけたプラン・セイバル(公立小学校全生徒等にパソコンを配付する計画)に関し、利用者の94%が右を評価し(1%が反対)、そのうち、学校の授業以外(各家庭)では、55%が娯楽、38%が一般情報入手、38%が学習情報入手、10%がニュース、8%が健康情報、5%が職探し等に利用していると報じられた(なお、32%の家庭ではPCの利用方法を知らない由)。
(5)16日、ムヒカ政権の重要政策である貧困者住宅問題に関し、同政権が本年下半期にパイロット計画として約300軒(モンテビデオ県2地域、地方4地域)の住宅を建設する旨発表した。現在全国で住宅問題を抱える国民は約18万人存在し、同政権は同住宅を有志、軍人、及び囚人(煉瓦作り)に担わせることを考えている。また、貧困層の住宅建設と共に、同層への教育、職業訓練、社会参加教育の実施も予定している。
(6)19日、当国最大労組の全国労働総同盟(PitCNT)は、現在約32万人の組合員数を本年中に42万人に増やすべく、特に地方農村、林業従事者を対象に勧誘を行う旨発表した。
(7)28日、世界経済フォーラムは、世界133ヵ国中ウルグアイは技術面で第57位(前回65位)であると発表。右は政治的安定性、経済成長、インフラ等を基準に決定される由。
(8)19日夜当国証券取引所元会頭ロスピーデ氏が誘拐され、約24時間後に開放された。29日、同誘拐事件の重要参考人10人(男7名、女3名)が当局の取り調べを受け、うち2名(男)が逮捕・起訴された(1人逃亡中)。