ウルグアイ内政・外交:12月
1.概要
(1)内政
●上院は8月31日に提出された868項からなる5カ年予算計画案を20日可決。
●23日、政府は当国北部における水不足の長期化を懸念して、牧畜業における90日間の緊急事態宣言を発出。
●27日、政府は2007年に既に決定していたデジタルテレビ欧州方式に関し、ブラジルやアルゼンチンといった日伯方式を採用した周辺諸国との関係への考慮等から日伯方式に転換することを正式に発表。
●世論調査会社Equipos Mori社の発表によると、12月時点のムヒカ大統領の支持率は48%、不支持は25%。
(2)外交
●22日、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣及びウルグアイ代表団は、アルゼンチン代表団とブエノスアイレスで会合し、液化天然ガスの再気化処理施設建設について協議、本件は2011年秋(当地)に国際入札にかけられる由。
●6日、「ム」大統領は、ブラジル人人類学者であったダルシー・リベイロ氏を偲ぶ記念式典参加のため訪伯し、ルーラ伯大統領と会談。
●アルマグロ外相はパレスチナに関し、どの国境で承認するかは未定としながらも、2011年の早い時期に国家承認する方向であると発表。
●政府はベネズエラとコロンビアにおける長雨災害に対し、非常食、衛生品や水補給などの物資を両国に空輸するなど、緊急援助を決定。
2.内政
(1)政府及び議会の動き
ア 2日、上院は8月31日に提出された868項からなる5カ年予算案を可決、100以上に渡る修正箇所につき下院で再審議が行われた結果、20日、右予算案は最終的に可決、2011年1月1日の公布を待つ。主な審議事項は国家改革に伴う公務員法で、大統領府から地方へのコーディネーター派遣は、当初の各県1人の18人から6人まで人数を減らすこととなった。この他政治職には技術適正検査の必要性なども盛り込まれた。また、トポランスキー上院議員及びその他FA党上院議員は法務省創設の検討案を盛り込んだ。本予算案は対GDP昨年比で18%増となっている。
イ 15日、2010年の通常会期は閉会、3月1日の再開まで常設委員会が設置されることとなる。
ウ 23日、政府は当国北部における水不足の長期化を懸念して、アルティガス県及びサルト県の牧畜業における90日間の緊急事態宣言を発出。11月以降、当国では北部を中心に降水量が減少し、水不足の長期化が危ぶまれている。
エ 27日、政府は既に決定していたデジタルテレビ欧州方式採用に関し、地政学的な理由に加え、地域統合に対する意志を再確認し、ブラジルやアルゼンチンといった日伯方式を採用した周辺諸国との関係への考慮の観点から日伯方式に転換することを正式に発表。これに対し、2007年時欧州方式を採用したバスケス前大統領や野党も政府の決定に賛意を示した。
(2)軍関連
国連平和維持部隊に参加するウルグアイ空軍が、パイロットの飛行合計時間を不正に操作していたとして、退役軍人らにより告発された。国連はPKO部隊パイロットの勤務条件として計3000時間の飛行経験を義務付けているが、当国においては予算上の問題で右規準に見合う質のパイロット確保は困難であり、バスケス前政権時より国連に対し規準の緩和を要請していた。ロサディージャ国防相とマルティネス空軍最高司令官は、飛行時間の計算方法につき弁明を行い、今後の新たな計算法の適用を承認。13日及び14日、ロサディージャ国防相は野党により議会に召喚され右説明を行った。
(3)労働関連
賃金審議会の開始や5カ年予算計画案の審議により、労働争議が8月頃から顕著となった。2010年の労働争議は前政権1年目の2005年の2倍となり、労働争議数は150、労働損失日は1,279,500日で1,114.500人が関与した。
ア 公的セクター
(ア)1日、中央省庁職員22,000人が該当する「最低6時間勤務政令」が公布されたことで、公務員同盟(COFE)は勤務時間延長による給与補填がないことを不満とし、同日部分的ストを実施。なお、COFEは右政令の違法性につき11月に行政裁判所に提訴していたが、第1審に続いて第2審もCOFEの訴えを退けた。今後、COFEは経済的補償を求め、賠償裁判所へ本件を持ち込む見込み。
(イ)2日、「ム」大統領はボノミ内相及びブレンタ労働社会保障相とともに、中央省庁職員による職場占拠に対し、強制的な占拠解除を可能とする政令に署名。COFEがこれに強く反発する一方、企業家団体らは、同政令の適用を民間セクターに拡大することを大統領府に要請。政府は、本政令は公的セクターのみにしか適用されないと強調した。
(ウ)県職員労組(ADEOM)は賃上げ要求のため、ゴミ回収停止を指示、約2週間に渡りゴミ回収が滞った。厚生省は街中にあふれたごみによる伝染病の恐れを指摘、8日には、ゴミ回収サービスをエッセンシャル・サービスとみなす政令が労働社会保障省により公布されたが、ADEOMは引き続きストを決行。11日~13日には陸軍が県内のゴミ収集に従事し300トンを回収、21日までに通常通り回収されるに至った。他方、モンテビデオ県庁は政令を遵守しなかった180名の職員に対し、減給処分とすることを決定した。
(エ)30日、COFEは政府との労働協約交渉の中で、2011年1月からの6.8%の賃上げや6月からの皆勤手当の支給を受けるかわり、特定の用件に該当する場合スト権を放棄する平和義務条項に同意し、3年の労働協約に署名した。
(オ)国家公務員サービス事務所(ONSC)の報告によると、2009年12月時点の国家公務員数は計248,157人であったが、2010年上半期、新たに8,333人を新規採用、計256,490人となった。
(カ)銀行労組(AEBU)内部の中央銀行職員グループは、19日に労働協約が切れたことを受け、これまで労働者に有利であった労働協約の6ヶ月延長を求め政府と交渉。政府はこれに対し、協約の延長は認められないとしており、賃金に関する団体交渉の開始前に、労働協約に関する合意が得られない場合、AEBUは貿易関連業務における銀行間の送金停止や銀行決裁手続きの停止及びATMサービス停止を決行するとしている。
イ 民間セクター
20日、ブレンタ大臣は、民間セクター賃金審議会において90%が合意に至り、31日に労働協約の切れるグループについても3分の1は交渉を既に開始し、60~90日以内に合意に至る見込みであると発表。政府は労働協約期間の3~5年を目指した交渉を行っていたが、殆どの協約が2年間となった。なお、残り133のサブグループは来年1月3日に召集される。
(4)保健衛生関連
麻酔医不足により、公立病院で計約4000件の手術が実施できない事態を受け、「ム」大統領は1月1日に施行される5カ年予算から700~1000万ドルの資金を前倒しして利用し、患者を首都圏の病院や民間医療へ移動するなどの保健衛生緊急法案の作成を発表。同法案は15日に上院を、16日に下院を通過したものの、右法令が国際労働機関及び世界保健機構より法的問題を指摘される恐れが高いことから、政府は麻酔医との対話により本件を解決に導く姿勢をとることとし、右緊急法令の公布には至らなかった。23日には、政府と麻酔医間での賃金や勤務条件交渉において合意に至り、27日合意書に署名した。また、「ム」大統領は域内諸国から麻酔医らを呼び寄せるため、各国に協力を依頼している。
(5)その他
ア オリベラ・モンテビデオ県知事は、近年の大型ショッピングセンター建設ラッシュにより経済的打撃を受けている小売店を保護するため、今後は県内における新規の大規模商業施設建設を許可しない旨発表。「ム」大統領も右政策を支持した。
イ 世論調査会社Equipos Mori社の発表によると、12月時点の「ム」大統領の支持率は48%、不支持は25%。同大統領就任時の支持率は60%で、その後最高支持率は71%(6月)を記録したが、その後23ポイントの減少となった。なお、右には「治安悪化」や労働争議の増加などが強く影響している。
3.外交
23日、アルマグロ外相は記者会見を開き、2011年ウルグアイ外交日程・方針を発表。ムヒカ大統領は、1月にペルー、11年上半期に中東、下半期には東南アジア、10月にスカンジナビア半島及びドイツを訪問予定と発表した。この他中国・ロシア訪問も予定されている。アルマグロ外相は2011年上半期に米国を訪問する予定で、その際「ム」大統領の訪米についても協議される見込み。
(1)対アルゼンチン
22日、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣及びウルグアイ代表団は、アルゼンチン代表団とブエノスアイレスで会合し、二国間プロジェクトである液化天然ガスの再気化処理施設建設について協議。右プロジェクトは、液化天然ガスの再気化船をモンテビデオ海岸60キロ地点に設置し、海底ガスパイプラインを通してガスを輸送するもので、2011年秋(当地)には国際入札にかけられる由。また、右施設から一日に供給されるガス容量をこれまで計画されていた1000万立方メートルから1500万立方メートルに増加させることが合意された。
(2)対ブラジル
ア 6日、「ム」大統領は、ブラジル人人類学者であったダルシー・リベイロ氏を偲ぶ記念式典参加のため訪伯し、ルーラ伯大統領と会談。デジタルテレビ日伯方式他、エネルギー関連及びロチャ県における深水港に関し協議が持たれた由。
イ 16日、伯フォス・ド・イグアスにおいて「ム」大統領はルーラ伯大統領と会談し、両国によるエネルギー協力や鉄道の相互連結、ロチャ県の深水港の建設などについて協議が持たれた。
(3)対パラグアイ
2日、コンデ外務次官はパラグアイを訪問し、カストロ・パラグアイ外務次官と会談し、パラグアイからの電力購入や資源補完に基づく地域エネルギー統合などにつき協議した。
(4)対メルコスール
17日、第40回メルコスール首脳会合が伯フォス・ド・イグアスで開催され、「ム」大統領及びアルマグロ外相が出席。メルコスールはシリア及びパレスチナとの自由貿易交渉開始に向けた協定に署名した他、15日には、メルコスール加盟4ヵ国他7ヵ国(韓国、キューバ、エジプト、インド、インドネシア、マレーシア、モロッコ)との間で途上国間特恵関税協定に関するサンパウロ議定書に署名した。また、「ム」大統領は、ルゴ・パラグアイ大統領及びモラレス・ボリビア大統領との会談(URUPABOL)を行い、三ヶ国間でのエネルギー協力推進につき、政治的意志を表明する共同声明を発出した。
(5)その他
ア 6日、ウルグアイとフランスは社会保障制度協定を締結し、両国で労働に従事した人々に同等の年金制度を適用する制度を確立することとなった。右協定では、ウルグアイ在住約3000人のフランス人と、フランス在住約5000人のウルグアイ人が対象となる由。また、政府は同様の協定をスペインや域内諸国とも締結している。
イ 3日及び6日、伯と亜がそれぞれパレスチナを国家承認したことから、当国でも本件における姿勢につき討議が加熱。アルマグロ外相は2011年の早い時期に国家承認を行うことを発表。どの国境で承認するかは未定。
ウ 22日、ウルグアイは、国連平和構築委員会の組織委員会メンバー国(2011年及び2012年)として再選出された。右は、当国が目指す2016年から17年の安保理非常任理事国選出に向けた主要な指標である平和維持や国際平和への決意を示すとされる。
エ 政府は、ベネズエラとコロンビアにおける長雨災害に対し、非常食、衛生品や水補給などの物資を両国に緊急支援することを決定。28日にベネズエラへ、年明けにコロンビアへ空輸する。
オ 29日、既に署名、批准済みであったメキシコとの二重課税防止条約が発効。右条約は2009年8月14日にメキシコ大統領の訪ウ時に締結されていたもの。
4.社会
(1)治安
ア 1日、ポシートス地区の文房具店に2人組の男が押し入り、現金を強奪し68歳の店主を銃で負傷させる強盗傷害事件が発生。その後の捜査により、犯人の一人は12歳の少年であることが判明した。また同日、マンガ地区では69歳の男性が帰宅中に背中を銃で撃たれ死亡する強盗殺人事件が発生する等、銃を使用した強盗事件が多発している。
イ 7日、旧市街地区において観光中の外国人が銃を所持した5人組に襲われ、現金を奪われる強盗事件が発生した。前月には当地ウルテイマス・ノティシアス紙が旧市街地区の治安荒廃を特集した記事を掲載しており、同地区の治安悪化が懸念されている。
ウ 23日、国内最大の収容人員をもつコムカル刑務所における所内検査の結果、約600本の手製刃物が発見された。また29日には同刑務所において、受刑者6人による脱走未遂事案が発生しており、刑務所の管理体制に批判が集まっている。
(2)その他
ア ECLACの報告書によると、ウルグアイは2008年~2009年で貧困率を23%減少させた。
イ OECDが実施する生徒の学習到達度調査(PISA)において、65ヵ国中ウルグアイは中南米域内でチリに次いで2位だったものの、世界標準では47位にとどまった。
ウ 米国Democracy Ranking Associationが実施する各国の民主主義ランキングの発表によると、ウルグアイは2004年時の29位から8ランク上げ21位で、ラ米諸国ではトップとなった(日本は20位)。