ウルグアイ内政・外交動向(2007年11月~12月)
●概要
内政面では、汚職や裁判に関する話題が世間を騒がせたと同時に、与党・拡大戦線(FA)の次期大統領選挙候補者選び、及びFA代表の選出を巡って、FA内部で激しい議論が交わされた。
外交面では、BOTNIA社セルロース工場の操業許可を巡り、亜との激しいやりとりが行われた他、ウルグアイのメルコスール議長国の締めくくりとして、12月半ばに共同市場審議会及び首脳会合が行われた。
●内政
(1)支持率
(イ)バスケス大統領の支持率
調査会社FACTUM12月調べのバスケス政権の支持率は52%支持、30%不支持、15%中立。前回9月調べでは47%支持であり、支持率が前回調べから5%回復したと同時に、前回調べ28%の不支持が30%まで増加。FACTUMの責任者ボティネリ氏によれば、支持・不支持の差(despolarizacion)が明確になってきている。尚、2005年は62-63%の支持、2006年前半は57%、後半は55%。2006年12月55%から2007年3月には、ブッシュ米大統領及び伯ルーラ大統領の訪問を反映して60%まで上昇したものの、6月には税制改革の施行及び次期大統領選挙への不出馬表明を受けて51%の支持率に留まっていた。
(ロ)政党別支持率
12月のFACTUM調べによれば、現在、大統領選・国政選挙が行われるとしたらどの政党に投票するかを調査したところ、与党・拡大戦線(FA)支持が44%、国民党支持が34%、コロラド党支持が9%、独立党支持が2%、支持政党未定その他が11%という結果であった。
今統計の結果、与党FA支持の44%に対し、野党連合(国民党、コロラド党、独立党)への支持率の合計が45%となり、経済危機を経験した2002年第2四半期以降初めてFA支持率が野党連合の支持率を下回った。今選挙が行われれば、FAは非常に厳しい戦いを強いられ、政権の座に残ることができるかどうか微妙なところである。
(2)中絶合法化法案の審議
11月6日、上院は中絶を合法化する条項を含む法律(Ley de Salud Sexual y Reproductiva)の承認に関する再審議を行い、最大の議論点であった条件付きで中絶行為の刑事訴追免責を定める条項を含めて承認した。11月7日、法案は下院に送られた。
尚、調査会社CIFRA調べによれば、中絶合法化には、国民の49%が賛成、39%が反対している。
(3)健康保険制度改革法案
11月7日、下院通過。11月21日、下院で加えられた変更点に関し、再度上院で投票が行われた結果、同法案は成立した。右により、2008年1月1日より、18歳以下の子供もカバーする新健康保険制度が発足する。
(4)陸軍の武器調達・施設改修工事に関する癒着
11月22日発行の週刊ブスケダ紙が報じたところによると、陸軍の武器調達・施設改修工事に関する汚職の告発文が大統領府に届けられ、バスケス大統領は本件に関する調査を命じた。匿名の告発文によれば、ニン・ノボア副大統領とその弟で個人秘書も務めるゴンサロ・ニン氏が本件に深く関わっているとのことであるが、同氏は11月24日法廷に出向き、本件の調査を要請した。
(5)アルバレス元大統領に対する起訴拘留命令
12月17日、当地裁判所は、亜で拘留されたウルグアイ人反体制政治家を1978年にウルグアイへ秘密裏に輸送・殺害した件で、アルバレス元大統領(Gregorio Alvarez,1981ー1985)を強制失踪の罪で起訴・拘留する予審判決(auto de procesamiento con prision)がCharles裁判官により下された。同日アルバレス元大統領は拘留され、軍政期の人権侵害の罪で拘留されている元軍人が収監されている特別刑務所に収容された。
また、同時にJuan Carlos Larcebau, Lorge Troccoliの二人の退役軍人にも強制失踪の共謀罪で起訴・拘留命令が下された。
(6)拡大戦線(FA)の全国総会
12月14日にFAの全国総会(常設の最高決定機関)、15-16日に第5回党大会(非常設の最高決定機関)が行われた。
今回の主要議題はFAの新代表選出に関してであった。現在代表はブロベット教育文化大臣が務めているが、同省はバスケス政権の改革の目玉の一つである教育改革法案を抱えている一方、バスケス政権も後半期に入り、2009年10月に行われる予定の次期大統領選挙が近づいてきているところ、FA内では「フルタイム」の代表の必要性が生じていた。事前に各派閥間で新候補につき交渉が行われていたものの、最終的には各派閥が合意できる統一候補を絞ることができず、選出は2008年4月に行われる第6回党大会まで先延ばしとなった。
また、全国総会及び党大会での決議は、政府の政策決定に対する直接の拘束力は持たないものの、米国との経済協定交渉を制限する決定、ハイチに展開するPKO軍の段階的撤退を求める決議等、政府の政策と相反する各種の決議が採択された。
(7)同棲法の成立
11月28日、下院通過。12月18日、FA票のみで上院で承認された。国民党は同性カップルへの権利付与に関連して反対票を投じた。同法案は、継続して5年以上同棲しているカップル(含む同性カップル)に法的な夫婦と同等の権利・義務を与えるもの。右により、相互扶助(Asistencia reciproca)、財産の共有(Creacion de sociedad de bienes)相続権、遺族年金他社会保障関係年金の受け取りが可能になる。
(8)政治家の国内遊説
(イ)11月26日、バスケス大統領は閣僚を帯同しアルティガス県Tomas Gomensoro市及びBella Union市を訪れ、大統領就任から今までの33ヶ月間に成し遂げた成果を国民に直接説明した。バスケス大統領はこの国内遊説"Pueblo a Pueblo"を今後も継続する意志を表明している
(ロ)12月2日、ラカジェ元大統領(国民党)は、バスケス大統領と同様にアルティガス県Tomas Gomensoro市、Bella Union市、及びBaltasar Brum市を訪れ、現政権の成果を一部賞賛しながらも、異なる政策を国民に直接提示した。
(9)モンテビデオ県営カジノの汚職
前政権期(2000年―2005年)のモンテビデオ県営カジノの運営に関する不正疑惑が2007年2月に持ち上がり、調査が続けられてきた結果、12月20日、スロット・マシーンの賃貸契約に関する不正容疑でベンゴア元県営カジノ支配人(現国家カジノ運営局長)他2人に対する起訴拘留命令が発出された。尚、調査の過程にてアラナ住宅土地整備環境大臣(当時のモンテビデオ県知事)及びムニョス厚生大臣(当時のモンテビデオ県庁官房長)も召還されたが、両人は本件への関与を否定している。
●外交
(1)セルロース工場建設問題
(イ)11月1日、アラナ住宅土地整備環境大臣はBOTNIA社セルロース工場が環境基準を満たしたとして操業許可が発出するべく記者会見を予定していたが、モラティーノス西外相の求めにより、バスケス大統領が外遊先より許可発出延期の決定をとった。
(ロ)11月8日、チリで行われたイベロアメリカ・サミットの場を利用し、ガルガノ外相とタイアナ亜外相の間で会合がもたれた。会合には、西国王の仲介役としてモラティーノス西外相も同席した。同会合に先駆け、ウルグアイからはカンセラ外務省官房長及びトレス環境庁長官がチリに先乗りし、亜側と事務レベルで調整を行っていたものの、最終的には本件解決につながる進展はなく、対話継続の意志を盛り込んだ共同声明さえ発出されなかった。また、BOTNIA社セルロース工場の移転を求めて在チリ亜大に陳情に押しかけた亜活動団体を公に支持したキルチネル大統領に対し、バスケス大統領は不快感を表明した。
(ハ)11月8日、チリでの外相間の直接対話が不調に終わり、またキルチネル亜大統領が亜活動団体を公に支持したことを受けて、バスケス大統領はBOTNIA社セルロース工場の最終操業許可を下した。
(ニ)操業認可を受けて、BOTNIA社は11月9日に操業開始。工場の釜に火がいれられ、釜が完全温まった約一週間後にセルロースの生産が開始された。生産されたセルロースは一定量たまった後にNUEVAPALMIRAの港に運ばれ、同港で保管される。12月5日には、独、仏、フィンランド向けの2000トンがオランダの港に向け出港された。
(ホ)BOTNIA社工場の釜に火をいれる過程にて、11月22日及び27日、不快な臭いがフライ・ベントス市に広がり、同工場は住民に対する謝罪を行ったが、住民の健康に対する被害はなかった。
(ヘ)11月21日、カナダの調査会社Ecometrixは、BOTNIA社は世銀が要求する環境・社会基準をクリアしているとの調査書を発表した。Ecometrixの環境調査書は、2006年11月に世銀がBOTNIA社工場建設計画に融資を決定する際の参考にされている。
尚、BOTNIA社工場操業開始後、ウルグアイ環境局(DINAMA)、ウルグアイ技術研究所(LATU)、水道公社(OSE)などにより、水、空気、土壌の環境監視が行われている。
(ト)亜グアレグアイチュ市の環境団体によるグアレグアイチュ市―フライベントス市を結ぶ国際橋梁の封鎖は引き続き続いている。11月16日の週末には、ウルグアイ政府がBOTNIA社工場の操業を許可したことを受け、コロン市―パイサンドゥ市を繋ぐ国際橋梁でも封鎖が行われた。一方、コンコルディア市―サルト市を結ぶ国際橋梁では、環境団体が封鎖を試みたものの、亜の国境警備隊が右を阻止した。
(チ)BOTNIA工場の操業許可を受けて、亜環境団体は活動を活発化させた。右を受け、11月9日、亜活動団体のウルグアイ入国を阻止するために、バスケス大統領はグアレグアイチュ市―フライベントス市を繋ぐ国際橋梁をウルグアイ側より閉鎖する決定を行った。さらに、11月24日には他2つの国際橋梁もウルグアイ側より閉鎖する決定を行った。上2つの国際橋梁については、11月26日には警備隊を残しつつ封鎖を解除したものの、一番下のグアレグアイチュ市―フライベントス市を繋ぐ国際橋梁のウルグアイ側からの封鎖はクリスマスまで続いた。
(2)貿易投資枠組み協定(TIFA)二国間委員会
12月3日、ウルグアイと米国は、当地にてTIFAをめぐるスケジュール及びこれまでの成果を評価するために協議したが、具体的な成果はなかった。右協議には、ウルグアイ側からは、カンセラ外務省官房長とロレンソ経済財務省マクロ経済政策局長が参加し、米国側からは、USTRのアイゼンスタット代表補が出席した。
(3)メルコスール共同市場審議会及び首脳会合
(イ)EU委員の来訪
欧州委員会アルムニア委員は第34回メルコスール共同市場審議会(CMC)関連会合出席のため12月16-18日モンテビデオを訪れ、16日にはメルコスール加盟各国経済財務相及び中央銀行頭取らと会合した他、17日には、バスケス大統領と会談した後、メルコスール議長国を務めるウルグアイのガルガノ外相との間でメルコスール・欧州委員会間の共同宣言に署名した。右共同宣言には5000万ユーロの対メルコスール無償資金協力がもりこまれている。
(ロ)イスラエルとの通商協定締結
12月18日モンテビデオにおいて行われた第34回メルコスール共同市場審議会会合の枠組みの中で、メルコスール議長国代表のガルガノ外相及びタイアナ亜外相、アモリン伯外相、ラミレス・パラグアイ外相とイシャイ・イスラエル副首相・産業貿易労働相の間でメルコスール・イスラエル間のFTA署名がなされた。
(ハ)共同市場審議会及び首脳会合
(概要)
12月17日に外相及び経済相レベルによる第34回メルコスール共同市場審議会が開催され、また18日には、加盟国からはフェルナンデス大統領(亜)、ルーラ大統領(伯)、ドゥアルデ大統領(パラグアイ)、チャベス大統領(ベネズエラ)、及び準加盟国からはバチェレ大統領(チリ)、モラレス大統領(ボリビア)が出席の上、首脳会合が開催された。首脳会合では「メルコスール加盟国及び準加盟国首脳による共同声明」、「メルコスール加盟国首脳による共同声明」が採択された。
(主要議題)
ウルグアイが議長国の間に取り組むべき優先課題として、関税コードの作成及び対外共通関税の二重課税廃止(及び徴収した対外共通関税を加盟国間で公平に分配するシステムを作ることで、域内自由流通を達成すること)が挙げられていたが、事前の16日に行われた共同市場グループ(GMC)特別会合でも、加盟国間の意見の相違を埋めることができず、2008年上半期に策定が完了することを求める条項が共同宣言に盛り込まれた。
また、インドやシンガポール等との連携を探るための会合実施、韓国との経済協定締結に向けた検討の為の会合の実施、ロシアとの協力協定締結などがウルグアイが、議長国を務めた2007年下半期における進展として紹介された。
(ニ)チャベス大統領の第2回人民大会への出席
12月18日夕方、共和国大学の講堂で行われた第2回人民大会(2do Congreso del Pueblo)にチャベス大統領は出席し、約400人の前で2時間を超える演説を行った。
演説では、反帝国主義・反米を訴え、唯一のオプションは社会主義である、米国によるネオリベラリズムに対抗していたのは唯一ベネズエラとキューバであったが、現在は左派政権が増えているとしてウルグアイ、亜、伯、ボリビア、エクアドル、ニカラグアの国名を挙げた。また、FARCとの人質交換交渉の仲介に関するコロンビアとの対立、自国での憲法改正案の否決、気候変動、NYのツイン・タワービルで消費されていたエネルギー、火星における蒸気の存在など、幅広いテーマに言及した。さらに、ウルグアイ人詩人マリオ・ベネデッティにフランシスコ・デ・ミランダ勲章を授与した。
(ホ)12月18日、34回メルコスール共同市場審議会会合の機会に、ウルグアイとアンデス開発公社(CAF)は、ウルグアイがCAF株式を購入し、CAFの特別加盟国(miembro especial)の地位を得る合意書に署名した。右署名式には、バスケス大統領、アストリ経済財務大臣、カンセラ中央銀行総裁、ガルシアCAF総裁等が出席した。
(4)国際機関
11月8日、ウルグアイは2008年国連経済社会理事会選挙にて、理事国に選出された。
(5)ハイチPKO
12月12日、ハイチに駐留しているウルグアイPKO部隊の派遣機関を一年延長する法案が上院を通過し、成立した。
●要人往来
・11月1日、アラウッホ・コロンビア外相が来訪した。
・11月3日、アイゼンスタットUSTR代表補が来訪し、ウルグアイと米国の貿易投資枠組み協定(TIFA)をめぐるスケジュール及びこれまでの成果を評価するために協議した。
・11月9日―10日、バスケス大統領はチリで行われたイベロアメリカ・サミットに出席した。
・11月11日、サパテロ西首相はモラティノス外相を伴い、イベロアメリカ・サミット終了後、モンテビデオに来訪し、外遊中のバスケス大統領に代わりニンノボア副大統領と会談した他、来年3月の西総選挙をにらんだ選挙活動を行った。
・11月14日―20日 バスケス大統領はアストリ経済財務相、ムヒカ農牧水産相、ルビオ予算企画庁長官、県知事らを帯同し、通商関係拡大及び各種分野での協力関係促進の為、ニュージーランド、マレーシア、ベトナムを訪問した。
・11月11日―17日、アンゴラで6月に行われた第6回南大西洋平和協力地帯閣僚会議の場でウルグアイが行った招待によりLucasナミビア外務次官が来訪し、二国間政策協議の定期的開催及び外交官の査証免除のための協定に署名を行った。また、各省代表者の前にてナミビアのプレゼンテーションを行った他、アガシ農牧水産大臣他と会談した。
・12月2日、エルバラダイIAEA事務局長が来訪し、バスケス大統領を表敬、ガルガノ外相及びエレラ外務次官と会談した。
・12月10日 バスケス大統領はフェルナンデス亜大統領就任式に出席した。また、大統領就任式出席に先立ち、バスケス大統領は到着した亜空港にて、9日に参加各国によりブエノスアイレスで署名がなされた南米銀行の設立文書に署名した。
・12月11日―12日、チャオ米労働長官が来訪し、ボノミ労働大臣、レプラ工業エネルギー鉱業大臣他と会談した。
・12月14日 ラホイ西国民衆党党首が来訪した。
・12月17日―18日、第34回メルコスール共同市場審議会(CMC)及び首脳会合がモンテビデオ於いて開催され、加盟国からはフェルナンデス大統領(亜)、ルーラ大統領(伯)、ドゥアルデ大統領(パラグアイ)、チャベス大統領(ベネズエラ)、及び準加盟国からはバチェレ大統領(チリ)、モラレス大統領(ボリビア)が来訪した他、右機会を利用して、欧州委員会アルムニア委員(経済・通貨担当)及びイシャイ・イスラエル副首相・産業貿易労働相が来訪した。