ウルグアイ内政・外交:11月
1.概要
(1)内政
●10日、ムヒカ大統領は左派与党拡大戦線(FA)党の各派閥代表を召集し、労働争議につき会合を行い、争議多発による外国系企業の撤退の可能性につき懸念を示しつつ、労組らと関係の深い共産党派に姿勢の改善を求めるメッセージを送った。
●16日、Pit-Cntはムヒカ政権に入って5回目の部分ゼネストを決行。10月にはストが20件行われ、対9月比で50%増となった。
●ムヒカ大統領の支持率は4月~11月で、66%から58%と8ポイント低下。治安の悪化が特に影響していると見られている。
(2)外交
●22日~28日、アストリ副大統領及びアルマグロ外相はアベジャ全国食肉協会副会長やその他国会議員らとともに韓国を訪問し、ウルグアイ牛肉、柑橘類、鶏肉及びソフトウェアなどの輸出に関し協議を行った。
●26日~28日、ムヒカ大統領はスペインを非公式訪問し、エネルギー関連プロジェクトに関し、同国企業等と会合を行った。
●30日、ウルグアイは南米諸国連合(UNASUR)設立条約発効に必要となる第9ヵ国目の批准国となった。これによりUNASURが正式に誕生することとなった。
2.内政
(1)政府動向
ア 3日、銀行情報の開示緩和法案が上院を通過、今後下院で本件につき審議されることとなる。同法案が下院で可決されれば、二重関税防止条約もしくは情報交換協定を締結する国との銀行情報の開示ができることとなり、ウルグアイ人の国外での所得に対しても所得税の課税が可能となる。
イ 10日、ムヒカ大統領は左派与党拡大戦線(FA)党の各派閥代表を召集し、労働争議につき会合を開いた。争議多発による外国系企業の撤退の可能性につき懸念を示す一方、争議、5カ年予算案、失効法の無効化に関して、党内での合意レベルを高めることを要求。「ム」大統領の発するメッセージは、争議に深く関与している共産党やその他急進左派関係者に向けられた。
ウ 15日~19日、WHOたばこ規制枠組条約第4回締約国会合(COP4)が開催され、開会式に「ム」大統領も出席、フィリップ・モリス社がウルグアイ政府を世銀投資紛争解決センターに提訴している件に関し、小国を窮地に追い込むような法的手段をとっているとして同社を強く非難、また、バスケス前政権時の反たばこ規制法を改正しない方向で闘っていくことは大きな犠牲を払うことを認めた上で、国内では既に合意済みであることを主張した。なお、オレスケル厚生大臣は、反たばこキャンペーンの展開をメディアに義務づける法案の策定を急ぐ旨発表した。
エ 世論調査会社Cifra社によると、ムヒカ大統領の支持率は4月~11月で、66%から58%と8ポイント低下。支持率は依然高いものの、治安の悪化が特に影響していると見られている。他方で、同大統領の好感度は同時期で66%から67%と伸びている。「ム」政権を支持する理由の内訳は雇用創出が16%、教育12%、低所得者層への住宅建設11%、貧困対策8%、逆に指示しない最大の理由は治安で30%となった。
オ ニン・ノボア上院議員が兄弟と共に管理している農村開発組合への参加を前副大統領時に隠蔽し、資産の虚偽申告をしていたとして、2008年に指摘され調査されていたが、バハック検察官は同議員を提訴、最高裁も法的違反を認め、上院が議員特権の剥奪に応じるよう、一連の関係書類を送付した。
(2)労働争議関連
ア 現在のところ、民間企業において40%の賃金交渉が終了したが、12月31日にきれる労働協約の賃金交渉は、1月もしくは2月に交渉を開始する見込み。全国労働総同盟(Pit-Cnt)によると、6月に賃金交渉が始まったにも関わらず、労働者の78%に当たる百万人の労働協約が更新されていない由。なお、貿易サービス会議所は、12月末にきれる労働協約を6ヶ月延長することも検討している。
イ 11月初旬、銀行労組(AEBU)は政府及び共和国銀行(BROU)に対し、BROU内での就業条件や給与見直しを求め、断続的に手形交換を停止するストを決行。手形決裁に問題が生じた。ムヒカ大統領はAEBUに対し、大統領府令を発令する可能性につき言及したが、問題解決に向け忍耐が必要であるとし、発令を断念。AEBUに対し熟考を求めた。
ウ 16日、Pit-Cntはムヒカ政権に入って5回目の部分ゼネストを決行。10月にはストが20件行われ、対9月比で50%増となった。バスケス前政権時(2005年)は労働争議数が114、労働損失日は392,914日、職場占拠数は29であったものの、2010年1月~10月間はそれぞれ、139、937,097日、19占拠となっている。
エ 行政府は、中央省庁職員(専門職関係者)に対する「最低6時間勤務政令」を12月1日に公布するとしたため、公務員同盟(COFE)は時間延長分の補償としての賃上げがない限り右政令は違法であるとし、76名の関係職員等が行政裁判所に提訴したが、17日、行政裁判所第1審はこれを退け、右政令による勤務時間の再編成は職員に適用される法的制度を犯しておらず、行政は国家公務員の労働制度改正を自由裁量で行うことができるとした(現在第2審へ上訴中)。また、COFEは12月15日にチリで開催される国際労働機関(ILO)会合に向け、政府による団体交渉権に関する法令の違反につき、ILOに提訴するためPit-Cntを説得に入る。
オ 医療系の3労組は、医者等が加入する健康保険(Cajas de Auxilio)が2011年から内容の劣る国民健康保険(FONASA)に統合される法案の議会提出に反対し、大規模ストを決行。これに対し、政府は労組側と数度の交渉を経た上で、健康保険の存続を認める法案修正を行って議会に提出したため、右労組らはストの決行を取り止め、議会審議を見守ることとした。
カ 加えて、公的セクターでは市町村、司法、税関、警察労組、民間セクターでは食肉、フリーゾーン、航空関係などがそれぞれ賃上げを主として、セクター内の労働条件及び社会保障制度改善を求めストを決行した。また、税関では政府によるスト破りが実行された他、食肉労組においてはピケも行われた。公証人によるストなど、およそ労組とは無関係なものまで現れた。
キ 世論調査会社Cifra社によると、アンケート回答者の46%が労組活動不支持で、62%はPit-CNTに不信感を抱いており(FA党支持者でも57%)、36%が最近の争議活動は正当化できないと回答している。
(3)国防関連
ア 8日、任務遂行中の陸軍司令官及び大佐が、軍政下における犯罪に関わっていたとして、軍政後初めて有罪を宣告された。右は陸軍での反響を呼び、今後軍内部での連帯結束が強まる見込みで、退役申請が増える可能性もある。本件のように遡及的に当時の犯罪を訴追できたことから、現在上院で審議されている(軍政期の人権侵害を事実上免責する)失効法の無効化を可能とする解釈法の必要性に疑義もでている。
イ カラメス海軍最高司令官は、海軍が直面する機材の旧式化の現状に対応するため、PKO部隊を始めとして軍の再編を試みるため、兵員の削減を行うことを発表。また、マルティネス空軍最高司令官も、経験豊富で優秀な海軍パイロットが民間へ流出している現状を遺憾とし、その穴埋めの困難さを指摘している。
ウ 22日~25日、ボリビアで第9回米州防衛大臣会議が開催され、28ヵ国の防衛大臣が参加し、軍事費の透明性,各国間の信頼関係と協力関係の醸成等につき協議した。2012年第10回会議はウルグアイで開催されることとなり、ロサディージャ国防大臣は2012年までの議長に任命された。
3.外交
(1)対アルゼンチン関係
19日、ドベナ新駐ウルグアイ亜大使がムヒカ大統領に信任状を奉呈した。
(2)対エクアドル関係
16日、ムヒカ大統領はアルマグロ外相及びセンディック燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)総裁とエクアドルを訪問し、コレア大統領と会談。エネルギー関連、飲料水用機材供給、麻薬取引や資金洗浄の撲滅に関して合意が行われた。
(3)対スペイン関係
26日~28日まで、ムヒカ大統領はクレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣、メンデス同省エネルギー局長及びセンディックANCAP総裁とともにスペインを非公式訪問し、当国におけるエネルギー関連プロジェクトに関し、同国投資家らと会合、ANCAPや電力公社(UTE)と協力し、プロジェクトを推進していくことで合意した。
(4)対米関係
10日、バレンスエラ米国西半球担当国務次官補が当国を訪問し、「ム」大統領等と面談を行い、米国が中南米地域で行おうとしていることは、誠実かつ各国の問題を尊重した協力であることを主張、さらに全ての国に影響を与える地域・国際情勢に関しての意見交換が行われ、二国間のテーマに関しても話が及んだ。また、グローバル化の影響及びその中でチャンスを活用するために、各国が協力する必要性について確認された。
(5)対中国関係
1日、ムヒカ大統領は中国HYXグループより、1万人の子どもたちのためのスポーツ機材供与を受けた。
(6)対韓国関係
ア 22日~28日、アストリ副大統領及びアルマグロ外相はアベジャ全国食肉協会副会長やその他国会議員らとともに韓国を訪問し、ウルグアイ産牛肉、柑橘類、鶏肉及びソフトウェアなどの輸出、投資保護協定及び二重課税防止条約などに関し協議を行った。また代表団は両国の企業家が参加する貿易関連の経済フォーラムに参加するとともに、当国にも進出しているPOSCO社(鉄鋼関係)、Kia社やインソン株式会社(モンテビデオ港に魚の冷凍工場を有している他、オメガ3脂肪酸をエサとした鶏肉の生産を目指す企業)、サムスン社等を訪問視察した。
イ 23日、ウルグアイ政府は北朝鮮による韓国・延坪島への砲撃を非難するプレスリリースを発出した。
(7)対南米諸国連合(UNASUR)関係
26日に開催されたUNASUR首脳会合に韓国訪問後のアルマグロ外相が出席。UNASUR設立条約発効には9ヵ国の批准が必要とされており、これまで8ヵ国が批准していたが、30日、ウルグアイ上院はこれを可決、9ヵ国目の批准国となった。また、キルチネル前事務局長の逝去を受け、今後新事務局長の有力候補として、バスケス前大統領の名前も挙がっている。
4.社会
(1)治安
ア 5日、INAU(ウルグアイ青少年局)の労働組合長は、局内に保護された少年等に麻薬を与える、暴力を振るう、売春を強要する等、「マフィア」の様な職員が存在し、幹部等は右行為を看過している旨の内部告発を行った。また度重なる同局からの少年脱走事案に対して、「我々は教育者であり、収容少年の逃走を防止する任にはない」とも述べた。右発言を受け、同局長は部内監査を実施する旨発表した。
イ 10日、LA POP(Proyect de Opinion Publica de America Latino)が発表した09年5月から本年5月までの南米諸国における犯罪被害比率調査に於いて、当国は21%が何らかの犯罪被害に遭っており、ペルー(31%)、エクアドル(29.1%)、ベネズエラ、ボリビア、アルゼンチン(26.2%)に次ぐ比率であることが判明した。
ウ 12日、Fenasip(警察労働組合)が当地サッカー2大クラブが雌雄を決する「クラシコ戦」に際し、「222サービス」(当館注:警察官が任意で登録することができる内務省斡旋による正規時間外労働(アルバイト)業務で、供貸与品である制服や銃などを利用することもできる)を72時間停止するという実質的なストライキ宣言を行った。これに対し、内務省幹部はスト参加者に対する制裁措置を検討する旨を明言、ストライキは実施されたが、同サービス従事者の約10%に留まり、大きな混乱はなかった。
エ 16日、12歳の少年4名を含む7人組の少年グループが、付近に住む路上生活者に激しい暴行を加え、同人を殺害した。4人は同日補導されたが、4時間後にはINAUを脱走し、翌日、再補導された。
(2)近年女性の労働市場参入が増加傾向にあるラ米諸国内で、当国では1990年に42.9%であった女性の労働参加率が2010年では53%となっていることがわかった。ラ米最高はペルーで、38.2%から60.9%への増加が見られた。近年は、独身女性のみでなく、子どもを持つ女性の労働市場参入も顕著である由。
(3)British American Tabaccoの報告によると、ウルグアイ国内市場において、違法なたばこ販売が全体の25%を占めている由。主に内陸県(セロ・ラルゴ、リベラ、アルティアガス)において消費されるたばこの25%、モンテビデオでは20%が密輸品。