ウルグアイ内政・外交:10月
1.概要
(1)内政・社会
●15日、8月31日に提出されていた5カ年予算案が下院で可決。右法案は、19日に上院に提出された。
●20日、下院は失効法(軍事政権下で軍人・警察などが職務遂行上行った人権侵害の罪を不問とする法)を無効化とする法案を与党左派拡大戦線(FA)党の票のみで可決。
●政府は中央官庁の職員の勤務時間を最低6~8時間とする政令を公布するとしたことで、公務員労組側から強い反発を受けている。
●現在、既に期限のきれた89グループの労働協約に関し、政労使三者により賃金審議会が開催されているが、合意への遅れが顕著で、今後各労組によるストが増加する見込み。
(2)外交
●27日、キルチネル前大統領が逝去したことを受け、ウルグアイ政府は亜政府及び国民に対し、哀悼の意を表し、3日間服喪することを発表。
●アルマグロ外相はスウェーデンとフィンランドを訪問し、フィンランドではStora Ensoセルロース社に対し、ウルグアイでのセルロース工場操業を許可する署名を行った。
●18日、第8回共同市場審議会及びメルコスール議会(Parlasur)が開催され、Parlasurにおける加盟各国の議席数が承認された。
2.内政
(1)政府の動き
ア 5カ年予算案の下院通過
15日、8月31日に提出されていた5カ年予算案(下院での追加項目も含め計848目)が下院で可決(99議席中52票(FA党50票と独立党2票)で可決)。争点となっていた(ア)公務員法の修正、(イ)大統領府コーディネーターの地方派遣、(ウ)政治任命職の新規設置については、引き続きその内容につき上院で審議されることとなる。右予算案は19日上院に提出され、12月中旬までには可決される見込み。
イ 大統領府コーディネーターの地方派遣
大統領府から18人までのコーディネーターの地方派遣を可能とする法案が下院を通過し上院へ送付されたが、右コーディネーターの人数及び任務の特徴(各県派遣とするか6人の地方コーディネーターとするか、技術的側面もしくは政治的側面からの人事とするかなど)について、上院で更なる協議が行われることとなる。政府は既に国民党Alianza Nacional派(ララニャガ上院議員代表)、及び国民党系県知事らと6人の地方コーディネーター派遣で合意に至っているものの、国民党Unidad Nacional派(ラカジェ上院議員代表)やコロラド党は断固反対としており、今後も協議が続けられることとなる。
ウ 銀行情報の開示緩和法案
経済協力機構(OECD)のタックス・ヘイブンに関するグレー・リストからの脱却に向け、上院において9月から銀行情報の開示緩和修正法案が審議されているが、現在のところ修正案内容は、脱税の証拠となりうる情報を持つ場合のみでも、二重課税防止条約もしくは情報交換協定締結国の要請により、国税庁長官を決裁権者として、司法に情報の開示を要請できるとするもので、可決されれば国税庁の権限が現行法内よりも拡大することとなる。一方、グレー・リストからの脱却には、OECDモデル租税条約第26条に沿った二重課税防止条約もしくは情報交換協定を12ヵ国と締結する必要があるが、18日、政府はスイス及びリヒテンシュタインと二重課税防止条約を署名したことで、計7ヵ国と締結したこととなり、グレー・リスト脱却まで残り5ヵ国となった。
エ 失効法の無効化法案
20日、下院は失効法を無効化とする法案を与党左派拡大戦線(FA)党の票のみで可決。今後上院での審議が始まるが、FA党上院ニン・ノボア議員(アリアンサ・プログレシスタ派)、サラビア議員(エスパシオ609派)及びウイドブロ議員(CAP-L)の3議員が同法の無効化に反対しており、与党票のみで可決させたいFA党は、3人の票を取り込むため説得を続けることとしている。
オ 外国政府及び外国企業による土地の購入
ムヒカ大統領は6日、本件の調査をこれまで行ってきているFA党ルビオ上院議員(ベルティネンテ・アルティギスタ派)、アガシ上院議員及びサラビア上院議員(エスパシオ609派)と協議し、外国政府及び外国企業による土地購入を抑制、調整する法案作成を委任。今般の焦点は国家の主権を守ることにあり、土地の購入制限対象を全国土に広げ、外国企業のみでなく、外国政府にも右制限を適用することとし、一方で、既に外国人が所有している土地については、新たな規範は適用しないとする方向で協議中。
カ 6時間勤務政令
政府は中央官庁の職員の勤務時間を8~18時とし、最低6~8時間勤務とする政令を公布すると発表。右政令は、出勤をコントロールする規制を整備し、欠勤や遅刻に対する罰則も定めるもの。公務員同盟(COFE)は右実施のための給与増額を求め強く反発している。
(2)労働組合関連
ア 7日、ムヒカ政権2回目のゼネストが実施されたが、2008年のバスケス前政権時に実施されたゼネストより少し大きめのものとなった程度であった。全国労働総同盟(Pit-Cnt)は、公的、民間両セクターから極めて高い支持を獲得することができたとして、今般のストを評価した。
イ 6月30日に期限のきれた民間セクター89グループの労働協約に関し、政労使三者により賃金審議会が開催されているが、これまで合意に至っているのは未だ10%のみであり、今後各労組によるストが増加する見込み。これまで、木材、飲料、建設、金属工業関連においてストが行われている。なお、12月31日に労働協約がきれる130グループに関しては、労使による非公式二者協議を既に始めているグループもある。
ウ 当国「エル・オブセルバドール」紙によると、コロラド党バジェ政権終了時(2005年)に比べPit-Cnt加盟者は3倍の32万人となり、労組組織率は30%となった由。
(3)国防関連
ア 20日、バスケス前大統領時に創設されていた軍参謀総長のポストに、ボニージャ空軍最高司令官が就任した。右ポストは、ロサディージャ国防相直属で、陸・海・空軍最高司令官らの顧問役や、軍資材購入などのコーディネーター役として機能する由。また、ボニージャ参謀総長は兵員の削減、給与増額、軍装備の増強を訴え、軍構造の改革に取り組む構え。また、空席となった空軍最高司令官にはマルティネス元補佐官が就任。
イ 駐ウルグアイ・ネルソン米国大使は、ウルグアイ軍のPKO派遣を世界のリーダー的存在であると評し、米国政府はウルグアイPKOに通信、発電機及び浄水器などの機材購入のため約100万ドルを援助することを発表した。この他、訓練所改築プロジェクトに50万ドルが、また、ハイチで活動するウルグアイ軍へ34台のジープが贈与される。
ウ 22日、ロサディージャ国防相は、米国による当国青少年センターの建設及び機材購入のため、バージェス南方軍国防協力局大佐及び駐ウルグアイ・ネルソン米大使と合意書に署名した。
(4)内務関連
14日、ボノミ内相はイスラエルを訪問し、治安における協力協定を締結した。今後、イスラエルは自国の治安システムを基にして当国にアドバイスするなど、治安強化に協力する。また、近々、当国警察当局は警察官をイスラエルに派遣し、訓練プログラムを受講させる見込み。当国政府の関心は、未成年による犯罪対策及び刑務所施設改善である由。
(5)その他
ア 6日、ボルダベリー・コロラド党党首は、党首ポジションをより透明性の高いものとするため、また若手党員の育成のため、今後党首を辞任し、ローテンション制とすることを発表した。
イ 8月及び9月に行われたFactum社世論調査によると、現在大統領選挙が実施された場合の各党支持率は、FA党49%、国民党22%、コロラド党13%。
ウ 当国公立病院における麻酔医不足により、1,400人の患者が手術待ちとなっている件で、「ム」大統領は麻酔医らとの会合を開催、共和国大学医学部研修医に関しても、2011年より麻酔医としての研修医を今後の2倍としていくことを確認した。
3.外交
(1)対亜関係
ア 6日、ウルグアイ委員会(CARU)の科学委員会を構成する4名の科学者(ウルグアイ側2名、亜側2名)は、ウルグアイ国家環境局(DINAMA)のワーキング・グループとともに、UPM工場への第一回立ち入りを行った。一連のUPM工場の立ち入り検査の結果公表は、12月初旬を予定、その後、亜側に位置する施設への立ち入り調査が行われる。
イ マルティン・ガルシア運河の浚渫事業に関し、アルマグロ外相とCARUメンバーは、 中国企業による事業の実施の可能性について示唆した。
ウ 20日、年始めより空席となっていた駐ウルグアイ亜大使について、亜議会はミゲル・ダンテ・ドヴェナ氏の任命を承認し、翌21日、ウルグアイ政府もこれを承認。同氏の大使任命については、7月に既に予定されていたものの、これまで亜議会の承認が下りていなかった。
エ 27日、キルチネル前大統領が逝去したことを受け、ウルグアイ政府は亜政府及び国民に対し、哀悼の意を表し、3日間服喪することを発表。「ム」大統領は翌28日、妻のトポランスキー上院議員とともに訪亜し、前大統領の通夜に参加、フェルナンデス亜大統領及び亜国民へ励ましの声をかけた。
(2)対米関係
ア 5日、上院は米国との科学技術協力協定及びTIFA議定書を承認した。本科学技術協定は、2008年にバスケス前大統領が議会に送付、その後、一時は期限が切れ承認されることなくそのままになっていたものであり、その目的は、科学技術分野における協力、共同研究・共同プロジェクト推進を行うことにある。
イ ウルグアイは、中央銀行と米国財務省間で合意された資金洗浄回避のための技術支援を今後受けることとなる。右は、金融活動に影響を与えないように規則を設定するもので、当国における資金洗浄回避やそのための調査促進、及び金融犯罪に関し、当国が取り組む活動の一部となる。
(3)対ロシア関係
9~13日、アルマグロ外相は、センディックANCAP(燃料・アルコール・セメント公社)総裁及びフラッティ食肉協会会長とロシアを訪問し、ラブロフ露外相と会合。これまでの二国間関係を評価すると共に、貿易の質改善をもとにした港湾及び鉄道インフラにおけるエネルギーや投資協力において二国間関係を強化していくことを確認した。今般は、南極協力の覚書に署名、漁業や一般パスポートに関するビザの廃止に関する合意の交渉を進めることや、文化交流、科学技術協力の強化などについても合意された。
(4)対メルコスール
18日、第8回共同市場審議会及びメルコスール議会(Parlasur)が開催され、Parlasurにおける加盟各国の議席数が承認された。2011年から伯37、亜26、パラグアイ及びウルグアイ18議席とし、2015年までにそれぞれ、75、43、18、18議席とする。また、議員の国民による直接選出と法的拘束力を持つ裁判所の創設も承認された。
(5)対URUPABOL
21日、コンデ外務次官、カストロ・パラグアイ外務次官及び駐ウルグアイ・リエラ・ボリビア大使よる会合が開かれ、3国間における地域統合プロセスを強化するプロジェクトについて確認。天然ガスパイプライン敷設の実行や、パラグアイからの水路による液化天然ガス輸送の実現のため、アンデス開発公社(CAF)による資金援助調査の重要性についての意見交換を行った。また、南米地域インフラ統合(IIRSA)の枠組内で、ウルグアイ大西洋側に深度のある海港を建設するための実現性調査の実施についても確認された。各省庁代表団により構成された貿易、ロジスティックなどに関する三者委員会を設置する必要性についても合意。
(6)対EU
24日及び25日、EUラ米投資提供メカニズム(LAIF:ラ米諸国における技術開発のためのインフラ投資を助長するプログラム)フォーラムが、当国外務省及びEU間で開催された。右フォーラムには、ラ米及び欧州諸国から民間セクターの代表者や金融機関が多数参加し、地域の政治経済指導者等に対して、LAIFがラ米諸国へ提供する機会について紹介された。今後ラ米諸国にはLAIFの枠組みで、1億2,500万ユーロの予算が配分されることとなっている。
(7)その他
ア バルグナイム・サウジアラビア農相は、20人ほどの企業(農牧関連機材、ロジスティック・システム、灌漑システムなど)経営者からなる代表団とともに訪ウし、アゲレ農牧水産相同行のもと、地方の食糧生産関連施設を視察した後、「ム」大統領と会談を行い、両国間の貿易や米生産、牧畜、植林及びその他部門におけるウルグアイの可能性に関して議論がなされた。また、右代表団の訪ウは当地経済界からの反応も良く、米、羊毛、乳製品部門での両国間での関係強化が期待されている。
イ アルマグロ外相はスウェーデンとフィンランドを訪問し、フィンランドではStora Ensoセルロース社に対し、ウルグアイでのセルロース工場操業を許可する署名を行った。
3.社会
(1)治安
ア 1日、Prenalia memoria y justiciaなる市民団体が、先月ボリビア国内で発生したウルグアイ人殺人未遂事件の対応に関して外務省に抗議。同団体は外務省前で車のタイヤを燃やし、ペンキの入った瓶を外務省建物の外壁に投げつける等の過激な行動を行った。
イ 1日、モンテビデオ市内の個人商店を襲った強盗犯2名が店主に銃で射殺される事件が発生、店主は過剰防衛として逮捕されたが、2日後に釈放された。これを受け、ボノミ内相は「10年前と治安状況に変化が生じており、判事の判断にも変化が感じられる」と発言、治安の悪化及び自己防衛のための銃所持を肯定とも取れる発言を行った。
ウ 7日、6月に発生したプンタデルエステ(当国有数のリゾート地)における両替商経営者の妻誘拐事件に関し、元警察官、弁護士を含む3名が逮捕された。
エ 15日、市内の個人商店に銃を持った2人組が押し入り、現金等を奪って逃走したため、店主が犯人等を追いかけ、犯人等と格闘になり射殺された。犯人の2人は未成年で、被害額は100ペソ(約5ドル)であった。右事件をきっかけに各地区で治安悪化への対応を求める抗議デモが頻発した。
オ 9月に引き続き10月中にも2回、カラスコ地区の民家に複数の男達が押し入り、家人等を銃で脅た上、現金、車等を奪う強盗事件が発生。同地区は当国有数の高級住宅街であり、同地区での治安悪化が懸念される。
(2)その他
ア 国連開発機構(UNDP)により発表された2010年人間開発指数(HDI)においてウルグアイは38位、ラ米諸国ではチリの33位に次ぎ高い指数となった。
イ 国際NGOトランスパレンシー・インターナショナルによると、世界178ヵ国における汚職度ランキングで、ラ米諸国ではチリの21位に続いてウルグアイは24位であると発表された。昨年両国ともに25位であったのに対し、今年はそれぞれ順位をあげている。
ウ インドで発生したとされる抗生物質の効かないスーパーバクテリアが欧州や米国に広がって問題になっているが、今般ブラジル北部でも発見されたことから、当国は疫病警戒対策を迫られている。