ウルグアイ経済報告(9月分)
【概要】
1.インフレ上昇率は8月までで7.88ポイントとなり、引き続きインフレ上昇の抑制が課題となっている中、中央銀行は政策金利を8.75から9%に引き上げた。しかし、インフレ上昇の抑制のためには、歳出抑制、賃上げ調整が必要であるとの声も出ている。財政赤字はGDP比2.3%となった。
2.輸出額は引き続き増加したが、輸入は減少。政府は更なる貿易多角化を進めるため、対アフリカ、アラブ諸国、アジアとの経済関係強化を狙っている。
3.アルゼンチンの輸入規制をはじめとする各種規制措置により、モンテビデオ港の稼働率が減少している他、アルゼンチン人のウルグアイでの預金が増加している。また、観光シーズンに向けて、アルゼンチン政府の規制措置によりアルゼンチンからの観光客が減少することを恐れ、政府は観光客への間接税還付等の措置を提案した。
4.ブラジルとの間では造船、インフラ、デジタルテレビ、風力発電等の分野での生産統合に向けて各レベルでの協議が続けられている。
5.Pluna社の競売は企業の参加が見られず、政府は対応策を迫られることになった。また、OECDの税の透明性に関し、ウルグアイはこれまでのフェーズ1からフェーズ2に上げられることが認められた。
【本文】
1.消費者物価指数(国家統計院(INE)データ)
8月の消費者物価指数は7.88ポイント。特に教育(12.14ポイント)、家具・家庭用品等(11.07ポイント)、レストラン・ホテル(10.58ポイント)、保険(10.01ポイント)分野での上昇率が高かった。
2.為替(国家統計院(INE)データ)
8月は平均1ドル21.31ペソであった。ここ数ヶ月ドル安が続いている。
3.投資・外貨準備高等(29日、30日付「エル・パイス」紙)
ア 経済財務省の投資法適用委員会が1-8月に免税等承認に向けた手続きを行った投資案件数は556件、金額で13億5,870万ドルで前年同期比63%増となった。その内、36%が工業、24%がサービス業、19%が観光、11%が農業、10%が商業分野の案件であった。
イ 本年第二四半期の外国からの投資額は6億7,200万ドルで、6月までの1年間で28億2,700万ドルとなった。
ウ 中央銀行の外貨準備高は、6月までで23億700万ドルとなった。
4.財政赤字(29日付「エル・パイス」紙)
8月の財政赤字は、第一四半期の干ばつでエネルギーコストが上がり、電力庁(UTE)の赤字が増えたこともあり、GDP比2.3%で約10億5,000万ドルとなった。
5.政策金利引き上げ(29日付「エル・パイス」紙)
中央銀行は、政策金利を8.75%から9%に引き上げた。インフレが上昇を続ける中、ドルを下げ、輸入価格を引き下げるのが狙い。しかし、民間のアナリストは、競争力が悪化することを懸念しており、インフレ上昇を抑制するためには、歳出を抑え、賃上げを調整する必要があると述べている。
6.貿易(UruguayXXIデータ、12日付「エル・オブセルバドール」紙、24日付「エル・パイス」紙)
(1)輸出
ア 1-9月の輸出額は68億7,000万ドルで前年同期比13.1%増となった。9月は7億5,100万ドルで前年同期比4.5%であった。世界経済の成長の減速等により、2012年の輸出額は91億6,100万ドル、2013年は前年比5.9%増で97億500万ドルとなることが見込まれている。2013年はブラジル、中国、インドの経済成長の減速、一次産品の価格低下を見込んで、前年比の増加率が下がると見ている。
イ 1-9月の輸出先国は、1位がブラジル(輸出額12億4,200万ドル)で全体の18.1%。また、ヌエバ・パルミラ・フリーゾーンには9億3,200万ドルの大豆や小麦をはじめとする穀物が出された。同フリーゾーンからは主に中国、ヨーロッパの玄関口であるオランダやブラジル等に輸出された。対中国輸出額は7億3,900万ドルで全体の10.8%を占めた。輸出先国3位はアルゼンチンで3億8,300万ドル(全体の5.6%)、第4位はベネズエラで3億2,400万ドル(全体の4.7%)、第5位はロシアで3億300万ドル(全体の4.4%)となった。
ウ 主な輸出品は、大豆が全体の20.8%を占め、1-9月の輸出額は14億3,100万ドル、冷凍牛肉が全体の11%を占め、7億5,400万ドル、米が6.2%で4億2,400万ドル、小麦が4.8%で3億3,000万ドル、生鮮牛肉が4%で2億2,700万ドルとなった。
エ ウルグアイから中国への衣料の輸出も増加した。本年1月から8月までの衣料の輸出額(CIF)は1億5,430万ドル(前年同期比17.5%増)であったが、その内1億700万ドルは対中国向け(前年同期比24.6%増)となった。他方、メルコスール向けの衣料の輸出は1.2%減となった。
(2)輸入
ア 1-9月の輸入額は62億4,200万ドルで前年同期比0.6%減、9月の輸入額は7億3,900万ドルで8.1%減となった。
イ 1-9月の輸入先国第1位はアルゼンチンで11億7,900万ドルで全体の18.9%を占めた。第2位は中国で11億7,000万ドル(全体の18.7%)、第3位はブラジルで11億5,400万ドル(全体の18.5%)、第4位は米国で5億600万ドル(全体の8.1%)、第5位はメキシコで2億2,100万ドル(全体の3.5%)であった。
ウ 主な輸入品は、観光バス(3億1,000万ドル、全体の5%)、自動車(1億8,600万ドル、全体の3%)、電話(1億6,100万ドル、全体の2.6%)等であった。
(3)その他
ウルグアイは今後アンゴラをはじめとするアフリカ諸国との関係強化を見据え、アフリカ連合(AU)のオブセルバドール参加を目指している上、太平洋沿岸諸国及びアジア諸国に戦略的に近づくために、太平洋諸国同盟へのオブザーバー参加を目指している。また、政治・経済・貿易・文化における南南協力促進の為、南米・アラブ諸国連合(ASPA)へのオブザーバー参加(ママ)も目指している。1-9月の貿易は、対メルコスール諸国最も多いが、その他28%が対アフリカ、20%が対アジアであった。
7.農林水産業
(1)米の対ブラジル輸出(20日付「エル・パイス」紙)
ブラジルの米の価格はウルグアイからの米の輸出にとっては他の市場より魅力的。また、他の市場に比べて距離も近いため、ウルグアイの輸出企業にとってはオペレーションコストを抑えることが出来るというメリットあり。
8.インフラ
(1)港の稼働率(14日付「エル・パイス」紙)
1-8月のモンテビデオの港の稼働率は、51万6,498テウスで前年同期比13%減となり、9ヶ月連続で減少した。
9.労働
(1)平均賃金指数(国家統計院(INE))
8月のデータによると、平均賃金指数は1年間で11.53ポイント上昇、民間セクターで11.44ポイント、公的セクターで11.70ポイント上昇した。特に上昇率が高かったのは、不動産業(14.63)、金融仲介業(12.92)、商業・自動車修理業等(12.85)であった。
(2)失業率(国家統計院(INE))
7月の失業率は6.6%であった。
(3)国営企業等の労組の動き(5日付「エル・パイス」紙)
ブレンタ労働大臣が最近の国営企業等の労組の動きについて述べたところ以下のとおり。
ア 最近、郵便物の配達を拒否したり、ガスの荷下ろしを拒否するといった抗議活動が見られるが、こうした抗議活動により、世論が労組に対しネガティブな見方をすることにつながり。労組のイメージダウンにつながる。また、ガスの荷下ろし拒否により、燃料が供給されないと、国民の怒りは労組だけではなく政府に向けられる。
イ 労組は、現状を維持しようと保守的に動いており、国の発展に向けて改革を目指す政府と意見がぶつかる。
(4)労働争議件数(11日付「エル・パイス」紙)
カトリック大学の労使関係研究所によると、8月の労働争議件数は17件。今年初のゼネストも行われた。労働喪失日は209,731日、争議参加者は271,446人。建設部門で死亡者が出たことによるストライキ等もあり、抗議が多かった。また24時間ストなど、公務員のストも目立った。更に、教育・保健分野でも補正予算等を求めた抗議活動が行われた。
ア 民間のアナリストは、賃金政策はインフレ上昇の抑制を考慮したものとするべきであるとしているが、2004年から2011年の生産性の伸び率が年平均1.5%となっているのに対し、賃金の伸びは4%となっている。
イ インフレ上昇抑制のため、中銀は政策金利を引き上げたが、アナリストは政府による歳出抑制及び賃金調整も必要であると考えている。
ウ 昨年の平均賃金は14,916ペソ(約745ドル)で、国際機関等の給料(58,008ペソ(約2,900ドル))等を除くと、給料が最も高い産業分野は、製造業、金融仲介業など。最も低いのは商業・サービス、農業、公務員等。製造業の中でもタバコ生産は39,068ペソ(約1953ドル)、船会社は37,772(1,800ドル)。また金融は34,675ペソ(1,733ドル)、金融仲介業は31,524ペソ(1,576ドル)。その他の22のセクターの平均賃金は、20,000ペソから30,000ペソ(約1,000~1,500ドル)。他方、最も賃金が低いのは、小売り業(11,546ペソ(577ドル))、サービス業(美容院、洗濯)(11,123ペソ(556ドル))、木材生産(10,693ペソ(534ドル))、衣服生産・皮関連(10,412ペソ(520ドル))等。
10.エネルギー
ANCAPの事業(22日付「エル・パイス」紙)
ANCAPはパイサンドゥ県でセメント工場を拡張し、年間25万トンのセメント生産を80万トンに増やすほか、沿岸まで鉄道を敷設する予定。また、スペインのTeyma社と年7万トンのエタノール、6万トンの飼料を生産する予定。また、工場近くに港も建設することを検討している。投資総額は3億3,000万ドル。
11.自動車
奢侈税引き上げと新車購入の増加(18日「エル・パイス」紙)
10月1日からの新車購入の際の奢侈税(IMESI)(車の容量により15%から46%)引き上げを受け、新車の駆け込み購入が増加した、8月の売り上げは、前月比21%増となった。他方、販売会社の中には、在庫不足もあり、現時点での購入契約者に10月以降の代金を請求する業者も見られる。ウルグアイ自動車販売協会幹部は、10月以降は、IMESI引き上げにより販売台数が減少する可能性もあると述べた。
12.対アルゼンチン関係
(1)アルゼンチンの輸入規制の影響(4日付「エル・オブセルバドール」紙)
アルゼンチンの輸入規制の影響で、当国の印刷・衣料・プラスチック部門等の企業7社の従業員300人が部分的な失業保険の対象となっている。
(2)アルゼンチン人のウルグアイでの預金増加(26日付「エル・パイス」紙)
ア アルゼンチン政府が国民の支出や預金への介入度を高める中、アルゼンチン人のウルグアイの金融機関での預金が増えている。金融関係者は、特にコロニアやマルドナドを訪れたアルゼンチン人が金融機関に預金をしたり、預金の照会に来る件数が増えていると述べ、アルゼンチン人による預金が急増したわけではないが、継続して徐々に増えていることを指摘した。
イ 外国人によるウルグアイの金融機関での預金額は34億6,400万ドル。政府は、その内90%がアルゼンチンによるものであると見ている。
(3)観光促進(27日付「エル・パイス」紙)
26日、アルゼンチン政府の各種規制により、来る観光シーズンのアルゼンチン人観光客の減少を懸念しているウルグアイ政府が、アルゼンチン人観光客を誘致するための対策として提案した5つの措置は以下のとおり。
ア 観光関連サービス支払いの際の間接税還付
海外で発行したクレジットカード及びデビットカードで観光関連サービスについて22%までの間接税(IVA)の還付(11月15日から来年3月30日まで)。
イ 不動産賃貸割引
海外で発行したクレジットカード及びデビットカードで不動産の賃貸料を支払った場合、賃貸料の10.5%を還付(11月15日から来年3月30日まで)。
ウ タックスフリー拡大
これまで外国人がウルグアイで買い物をした場合、一部の地域での一部の製品については、間接税(IVA)22%の還付を適用していたが(タックスフリー制度)、その対象地域及び対象品を拡大(期限無制限)。
エ 外国ナンバーの車について、一回のみガソリン25ドル分無料(11月15日から来年3月30日まで)。
オ 外国人観光客の携帯レンタルにつき、国際電話無料サービスや家族への無料貸し出し等のサービス
13.対ブラジル関係
(1)二国間の経済関係強化に向けた合意等(6日付「エル・パイス」紙及び「エル・オブセルバドール」紙)
ア 5日、ブラジルのピメンテル開発商工大臣がムヒカ大統領及びクレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣と会合を持ち、以下の分野について協議・合意した。
イ 数ヶ月の内に、ブラジルがウルグアイでの造船の開始を検討することとし、ウルグアイは関連の規制の適用・調整を行う。クレイメルマン大臣は、バージ船の建設を優先し、需要の高いブラジルに輸出することを求めている。
ウ ウルグアイより、ロチャ県の深水港建設事業へのブラジルの参加を促したところ、ピメンテル大臣より、統合的なプロジェクトであるとして、ブラジル企業にコンタクトをとるとコメントあり。
エ 2013年以降のブラジルの政策に基づく二国間の生産統合の強化について協議。
オ 地デジ日伯方式展開における協力について話し、クレイメルマン大臣は、当国はソフトウェア及びアプリケーション開発を進めていくと述べた。
カ 風力は、Bndesの支援でElectrobrasと今後も風力発電事業を進めていくとした。Electrobrasはコロニア県及びサンホセ県に70MWの発電機2機を導入する予定。
(2)二国間の市場の統合に向けた合意のための交渉(21日付「エル・パイス」紙)
ア 同紙が入手した文書によると、2013年12月までに財・サービスの「市場拡大」について二国間で合意をとりつけるための交渉を行う。詳細は未定だが、当国のフリーゾーン・システムが改訂される可能性もある他、国内法改定の可能性もあり、同交渉は企業家からの反発をよぶおそれもある。
イ 民間企業関係者は同紙に対し、本件については、外務省が既に法的な観点についてブラジルと交渉を開始していると述べた。
14.その他
(1)Pluna社その後(13日付「エル・パイス」紙
ア 12日に競売が行われ、企業の参加がなく、競売は成立しなかった。
イ 飛行機の売却価格(1億3,600万ドル)が高すぎること、航空に制限があること、元Pluna社の従業員250人の再雇用も行うことが条件となっていること、モンテビデオーブエノスアイレスのルートを優先するという条件が、国際的には優先事項とはならないこと等、条件が魅力的ではなく、ビジネスの点からはフィージブルではないことが指摘された。
(2)OECDの税の透明性について(18日付経済財務省プレスリリース)
ア OECDの税務情報の透明性に関するグローバルフォーラムの検証グループにおいて、ウルグアイの所謂フェーズ2への移行を認める報告書が承認された。
イ 経済財務省と税務局からなるウルグアイ代表団は、上記検証グループに対し、無記名株に対する新たな枠組みや税務情報交換に関する協定につき説明した。
ウ ウルグアイにとり、法的枠組の検証プロセスであったフェーズ1は終了した。フェーズ2では右枠組みに基づく実施状況を検証することとなり、2014年の上半期に実施されることになる。
(3)企業の買収等(23日付「エル・パイス」紙
本年に入ってから当国で行われた企業のM&A等は3億8,000万ドルにのぼる。M&A関連のHughes&Hughes社の担当者は、スペイン、イタリア、ノルウェー、フィンランド、デンマーク、米国等の企業がウルグアイのホテル、エネルギー、林業、工業、不動分野でのM&Aに関心を示していると述べた。