ウルグアイ経済報告(6月分)
【概要】
- ドル高が続く中、ウルグアイの競争力強化とインフレ抑制が引き続き課題となっている。関係者の間では、インフレ抑制のために、賃金の上昇を抑えることも必要であるとの声も出ている。
- アルゼンチンをはじめとするメルコスール域内国の保護主義的な政策及びヨーロッパの金融危機のウルグアイへの影響がこれまでに続き更に表に出てきている。特に貿易面では、ブラジルを除くメルコスール諸国への輸出額が減少しているだけでなく、ヨーロッパへの輸出額も減少しているが、他方で、ベネズエラやチリ、米国等への輸出が伸びている。また、フリーゾーンを経由した中国への輸出も増えている。また、アルゼンチンとの関係では自動車産業も影響を被っている。
- OECDから、ウルグアイの制度の透明性(特に税務情報、株主の登録等)改善の勧告を受け、近隣国との税務情報交換協定、株主登録法などの整備が進められており、今後の制度整備を前に、特にアルゼンチン資本が多く入っているとされるプンタデルエステの不動産業にも影響が見られ始めている。
【本文】
1.為替(27日付エル・パイス」紙)
製造業生産指数(前年比%) |
4月 |
石油・石油派生品含む |
▲3.32 |
石油・石油派生品含まず |
0.92 |
食品・飲料 |
1.56 |
繊維関連品 |
▲11.9 |
衣料品 |
▲10.69 |
皮革製品 |
▲1.31 |
木材関連品 |
▲5.47 |
紙・紙製品 |
▲1.66 |
製本 |
▲1.63 |
石油・石炭及び関連品 |
▲26.91 |
化学品等 |
4.1 |
皮・プラスチック品等 |
▲2.07 |
非金属工業品 |
▲1.5 |
基礎金属 |
0.81 |
金属・機械・部品 |
30.07 |
電子機械を除く機械 |
14.08 |
電子機械等 |
▲19.65 |
医療機器等 |
6.09 |
自動車 |
▲19.64 |
その他輸送機械等 |
21.45 |
家具等 |
15.65 |
(1)6月はドル高が続き、1ドル22ペソ台となった。ロレンソ経済財務大臣は、日々変動している国際経済に対応するもので、ウルグアイの経済を保護するためには重要であり、国際的ショックの緩和、ウルグアイの経済競争力強化及び輸入品価格の上昇につながるものであるとして現在の動きを擁護する発言を行った。
(2)経済アナリストは、ウルグアイの産品がブラジルと競争するためには1ドル22ペソから23ペソ台となる必要があると述べた。最近のドル高で全体的にウルグアイからの輸出は有利となっているが、ブラジルレアルも同様に対ドルで切り下がっているため対ブラジルでも有利になっているわけではない。
(3)コンサルタント会社Deloitteのアナリストは、ブラジルの経済政策に追随することが求められているが、ブラジルは内需刺激のために政策金利を下げ続けることが出来るが、ウルグアイはインフレ上昇率が高いので政策金利を下げることは出来ないとし、緩やかな賃金上昇を行うこと、歳出抑制を行うことを求めている。
2.製造業生産指数
消費者物価指数(前年比%) |
5月 |
|
8.06 |
食品・ノンアルコール飲料 |
7.94 |
アルコール飲料・タバコ等 |
7.07 |
衣料・靴 |
4.27 |
住宅 |
10.17 |
家具・家庭用品等 |
8.75 |
医療 |
7.99 |
交通 |
7.2 |
通信 |
0.34 |
娯楽・文化 |
7.55 |
教育 |
12.31 |
レストラン・ホテル |
9.93 |
サービス等 |
8.55 |
国家統計院(INE)によると、4月の製造業生産指数(石油・石油派生品含まず)は0.92%増となった。金属・機械部品は30.07%増、輸送機械等は21.45%増、電子機械を除く機械は14.08%増となった他、医療機器等が6.09%増、化学品等が4.1%増、食品・飲料が1.56%増となった。他方、電子機械等は19.65%減、自動車は19.64%減、衣料品が10.69%減、繊維関連品が11.9%減、衣料品は10.69%減、木材関連品は5.47%減、皮・プラスチック品等は2.07%減となった。
3.消費者物価指数
5月の消費者物価指数は8.06となった。特に教育、住宅関連、レストラン・ホテル、家具・家庭用品、サービス等の指数の上昇率が高かった。
4.貿易(UruguayXXIデータ)
(1)輸出
ア 本年前半の輸出額は、43億5,200万ドルで前年同期比10%増となった。輸出品の内訳を見ると、製造品が70%、農産品が30%であった。製造品の占める割合は前年の73%から少し下がった。また、詳細を見ると、食品・飲料・タバコ等の輸出品全体に占める割合は41%、農産品が24%、化学品等が10%、繊維・皮革品が7%、基礎金属品が4%、木材関連品が4%となった。
イ 本年前半の輸出の特徴として、一点目として、メルコスール及びヨーロッパへの輸出額が減少したこと、二点目としてベネズエラ、チリをはじめとする南米諸国への輸出額が増加したこと、三点目としてウルグアイのフリーゾーンを経由した輸出が増加したことが挙げられる。
ウ 一点目(メルコスール及びヨーロッパへの輸出)については、メルコスール諸国への輸出は3ポイント減少し、全体の25%となった。国別に見ると、対ブラジル輸出は8%増加したが、アルゼンチンへの輸出は9%減、パラグアイへの輸出は19%減となった。対メルコスール輸出の70%は対ブラジル向けであった。また、対アルゼンチン向け輸出では、主に自動車、紙・段ボールが減少し、対パラグアイ向け輸出では、タバコ関連品、化学品が減少した。
エ 他方、ヨーロッパ向け輸出は前年同期比から3%減となった。対ヨーロッパ向け輸出の輸出全体に占める割合は、26%から18%に減少した。特にロシア及びトルコ向け輸出が大きく減少した。これは主に牛肉及び生牛の輸出の減少によるものである。
オ 牛肉輸出は、対スペイン及びイタリア向けも減少したが、その一方で、米国、チリ、イスラエル、ベネズエラに輸出された。
カ 二点目(南米諸国への輸出)については、対南米輸出の全体に占める割合は6%から9%となり、特にベネズエラ及びチリへの輸出が増加した。対ベネズエラでは、チーズや牛肉、対チリでは牛肉及び合板の輸出が増加した。
キ また、対アジア輸出では、中国への輸出が増加した他、フリーゾーン経由の輸出が増加したが、フリーゾーンからの輸出は大半が対中国向けであった。ヌエバ・パルミラ・フリーゾーンから中国への輸出額は3億2,800万ドルとなった。
(2)輸入
ア 本年前半の輸入額は39億7,900万ドルとなり、前年同期比0.3%減少した。イ 輸入先国別に見ると、ブラジルからの輸入額が7億6,600万ドル(前年同
期比2.7%減)、アルゼンチンが7億3,500万ドル(17.2%減)、中国が7億2,800
万ドル(21.7%増)、米国が3億2,900万ドル(0.7%増)、メキシコが1億4,000
万ドル(42.1%増)となった。
ウ 主な輸入品は、観光バス(輸入額1億8,400万ドル、前年同期比0.5%増)、
輸送用トラック(1億2,200万ドル、25.5%増)、電話(1億500万ドル、7.7%増)、化学品(8,700万ドル、10.9%減)、ポリアセトン(8,300万ドル、9.6%増)であった。
5.対アルゼンチン関係
(1)アルゼンチンの輸入規制措置の影響(17日付「エル・オブセルバドール」紙及び27日付及び28日付「エル・パイス」紙)
ア 繊維協会によると、5月は67件(金額にして300万ドル)が輸入許可を得られずストップした。輸入手続きには平均150日の遅延が見られ、時には遅延が200日となっている例もある。国民党のデルガード議員によると、2,000人が失業保険の対象となっている。
イ ウルグアイ自動車協会は、ウルグアイで組み立てた自動車を円滑にアルゼンチンが輸入しない状況をふまえ、アルゼンチンとの経済補完協定(ACE57)を停止することを求めた。
ウ 他方、ウルグアイ自動車販売協会は、ACE57の停止に反対した。アルゼンチンからウルグアイへの自動車輸入台数は、昨年は全体の約20%を占めていたが、本年1-5月の2,257台で全体の11.4%を占めた。なお、同時期のブラジルからの輸入は4,912台、中国からが3,834台、メキシコからが2,665台となっている。
6.対ブラジル関係
(1)二重課税防止条約締結に向けた交渉(7日付「エル・パイス」紙)
当国政府は、ブラジルと二重課税防止条約締結に向けた交渉を行っているが、締結を急ぐため、すぐにでも署名を行い、署名文書に二重課税防止を行うためのメカニズムを盛り込んだ上で、署名後に交渉を行おうとの働きかけを行ったが、ブラジル政府はこれに反対した。ウルグアイのこうした対応は、今後のOECDのグローバル・トランスペアレンシー・フォーラムで、ウルグアイへの評価を修正することを要請するために行われたもの。
(2)エネルギーに関する協力(23日付「エル・パイス」紙)
22日、ウルグアイ電力公社(UTE)とElectrobrasは、100MWの風力発電機を導入するための合意書に署名を行った。本件は、4月に実施された二国間の首脳会談の際に署名されたエネルギー協力の一環であり、ブラジル開発銀行から2億ドルの投資が行われる。
7.メルコスール首脳会合(パラグアイの参加停止、ベネズエラ加盟については外交・内政の定期報告参照)
29日に開催されたメルコスール首脳会合について、ムヒカ大統領は、対ラ米諸国限定ではあるが、バイでのFTA交渉が可能となるようルセーフ伯大統領及びフェルナンデス亜大統領の説得に成功したこと、対外共通関税の据え置き及び例外品目の200品目追加に関する決定を成果の一つとして強調した。
8.温家宝首相のウルグアイ訪問
(1)22日、ムヒカ大統領は温家宝首相と会談し、両首脳は複数の覚書に署名した。温家宝首相は、ロチャにおける深水港建設への協力、中国自動車関連企業のウルグアイ市場への新規参入等について関心を表明した。会談後、カネパ大統領府副長官は、深水港事業に関し、数カ月中に当国から代表団を中国に派遣し、公式に同計画についてより詳細な説明をする用意があると述べた。
(2)23日、温家宝首相は、アストリ副大統領及びアルマグロ外相と会談を行い、ウルグアイの鉄道部門を中心とするインフラ事業への投資及び農産品貿易に関心を表明した。アストリ副大統領は、会談後、MERCOSURが現在抱える諸問題を克服するために、中国と特恵関税に関する協定を締結することは、MERCOSURにとって重要であると述べるとともに、その可能性を探るために双方が共同でプロセスを開始したことを認め、今後は双方の関心の具現化のために検討を進めていくと付言した。
9.OECD(21日付「エル・パイス」紙)
メキシコで開催されたG20でOECDのグローバル・トランスペアレンシー・フォーラムの進捗レポートが発表されたが、ウルグアイはまだ透明性の観点でフェーズ1からフェーズ2に上がるための2つ以上の条件を満たしていないとの結果が出された。具体的には企業の株主情報、関係国との税務情報交換協定締結が不十分である上、その他の項目についての改善が必要であるとされた。
10.労働
(1)失業率
国家統計院(INE)によると、4月の失業率は6%となった。また、5月の平均賃金上昇率は年率換算で12.75%となった。
(2)金属セクター企業(7日付「ウルティマス・ノティシアス」紙)
本年前半で、金属セクターに所属する企業6社の工場が、競争力を失ったこと及び賃金コストの上昇に耐えられず閉鎖され、1,400人が解雇された。今後状況に変化が無ければ更に閉鎖される工場もあるとされている。
(3)ウルグアイの企業の欠員補充(11日付「エル・パイス」紙)
コンサルタント会社Manpower社の調査によると、ウルグアイの企業の38%が欠員補充に苦慮している。エンジニアをはじめとする技術者や生産、オペレーション、メンテナンスに携わる技術者が不足しているほか、販売、役員、財務担当等も不足している。従業員の能力不足も見られる他、要求される賃金も高く、欠員を補充するためにアルゼンチンから人を派遣することを考慮している企業もあるが、アルゼンチンもウルグアイと同じ状況かあるいは悪いのが現状。
(4)ILO及びECLACの報告書(9日付「ウルティマス・ノティシアス」紙)
ILO及びECLACの作成した報告書によると、ウルグアイの実質賃金の上昇率(4%)は17カ国中第1位。また、最低賃金の上昇率は15.7%増。2002年の金融危機から回復し、失業率が低下し、金融危機以前の賃金への回復を見せている。また、政労使三者の賃金委員会が創設されたことにより、集団交渉が行われるようになったのが特色。
11.エネルギー
(1)液化天然ガスの再気化船建設事業(7日「エル・オブセルバドール」及び21日付「エル・パイス」紙)
ア ウルグアイ政府は、7月に本件事業に関するデータルームを開設すると同紙に述べたが、コストがまだ不明である上、外資を導入するかは協議中である。
イ 本件事業につき、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は、7月中に入札を実施し、2014年後半には工事を開始する予定であると述べた他、ANCAPのミッションがヒューストンで液化天然ガスの供給に関心のある企業と意見交換を行ったと述べた。
(2)石油試掘事業(Ronda UruguayII)(8日付「ウルティマス・ノティシアス」紙)
国営燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)は、海底での石油試掘事業のため、BG,Tulow Oil,Total,UPF,Petrobras等参加企業への鉱区の割り振りを行った。
(3)薪の需要(23日付「エル・パイス」紙)
薪の需要が増えており、5月は前月比2.66%増、前年同期比5.54%増となった。
12.その他
(1)Pluna社への対応(5日付「エル・オブセルバドール」紙、16日付「エル・パイス」紙他)
ア Pluna航空の事態が深刻であると見ているウルグアイ政府(同社の25%の株を保有)と、75%の株を有しているLeadGate社及びカナダのJazz 社(LeadGate社が66%、Jazz が33%を保有)が今後の方策につき会合を重ねた。
イ 同社は、ウルグアイの国営燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)への2,000万ドル以上の燃料費支払いを滞納していることも指摘された。
ウ こうした中、ウルグアイ政府は、今後の対応として、売却先を探すことを提案した。Pluna社は、債務の増加した理由として、世界的経済危機により域内の需要が減少していること、観光シーズンも終わったことなどを挙げているが、政府は、役員への報酬やコンサルタントへの支払い額が多すぎるのではないかとも見ており、アストリ副大統領は、2007年にLeadGate社が参入してからの負債が目立つとし、ビジネス戦略を再考する必要があると述べた。
エ 12日、Leadgate社が撤退することで政府と合意に至った。また、政府は当初Jazz社に75%の株の買収の話を持ちかけ、同社に買収の優先権があると述べており、20日にはカナダのJazz社のChorus Aviation社の役員が調査のためウルグアイを訪問した。また、新たな株主が決まるまでオペレーションを変更無く継続するということで新役員会が開かれた。
オ 他方、政府は29日に当国とアルゼンチンとの間のフェリーを運営しているブケブス(BQB)社と買収についての協議を行い、29日に同社が75%の株を買収することで予備合意に至った。ブケブスのロペス・メナ社長は、6,000万ドルから6,300万ドルでの買収の話を政府に持ちかけると共に、今後は900人の従業員の内200人の人員削減及びPluna社の所有する飛行機(Bombardier CRJ900)の3機~4機を売却を検討すると述べた。
(2)ウルグアイの銀行のストレステスト(6日付「エル・パイス」紙)
中央銀行は、ウルグアイの銀行のストレステストを行い、国際的な経済危機を前に、今後のマクロ経済の変化に耐えうるとの結果を出した。ストレステストでは、2011年11月のデータを元に、自己資本比率は14.2%であり、経済危機の際には、それが8.7%になったが、資本基準の最低ラインは満たす数値であるとしている。
(3)クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣のパリ訪問(9日付「ウルティマス・ノティシアス」紙)
クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は、パリを訪問し、世界牛肉会議に参加した他、フランス企業連盟(MEDEF)との会合を持った。
(4)不動産ビジネスの悪化(13日付及び16日付「エル・パイス」紙)
昨今のグローバル経済危機及び域内の不確実性が高まる中、相続税収が減少しており、本年2月の税収は前年同期比16.3%減、3月の税収は前年同期比13.6%減、4月の税収は前年同期比23.5%減となった。また、アルゼンチンとの税務情報交換協定締結により、特にプンタ・デル・エステへの不動産投資を控える動きも見られる。プンタ・デル・エステのあるマルドナド県は、同地での不動産の取引額は半年で26%減となるだろうと述べた。
(5)株主登録関連法案(28日付「エル・パイス」紙)
株主関連法案は、上下両院で承認されたが、上院でいくつか修正が入った
ため、また下院に戻されることとなった。