ウルグアイ経済報告(3月分)
【概要】
●2012年の経済成長率は3.9%となった。内需拡大が原動力となっているが、貿易は1-3月で輸出額が減少した(13%減)。他方、2月のインフレ率は8.89%。法定準備率が引き上げられたが、政府は競争力の低下を懸念し、政策金利は9.25%で据え置くことを決定した。
●一人あたりGDPが伸びており、2013年にはチリを抜いて域内首位の17,080ドルとなると予測されている。
●政府は再生可能エネルギーの導入を積極的に進める中で、風力に続き、太陽光発電の導入に力を入れている。15日には、サルト県で日本の無償資金協力により導入された太陽光発電所(ソーラーパネル2,240枚、481.6KW)の開所式が実施され、ムヒカ大統領、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣等が出席した。
●今後の労働協約改正に向けて労使交渉が開始され、バイオエタノール工場、牛乳工場等で争議が行われた。
●対アルゼンチンの懸案事項等について、ムヒカ大統領、ロレンソ経済財務大臣等がこれまでに、今後は二国間のセンシティブな案件の解決は追求せず、ブラジルとの関係を強化していく主旨の発言を行ったことが報じられた。
【本文】
- 経済指標等
(1)2012年の経済成長率
ア 2012年の経済成長率は3.9%となった。内需拡大が原動力となっているが、貿易は減速しており、経済成長にはつながっていない。また、特定のセクターの競争力が脆弱であることが顕著になった。
イ 部門別に見ると、プラス成長となったのは、農業、電気・ガス・水、建設、運輸通信部門であり、マイナスとなったのは、製造業、商業・レストラン・ホテル部門であった。
(2)インフレ・政策金利
ア 国家統計院(INE)によると、2月のインフレ率は8.89%。
イ 6日、政府は4月1日より法定準備率を5%引き上げることを発表した。
ウ 22日に行われた通貨審議会で、政府は政策金利を9.25%で据え置きとすることを決定した。インフレ抑制に向けて金利が引き上げられると予想されていたこともあり、関係者は今回の決定に驚いている。政府は、経済のバランスを取ることを優先し、インフレ抑制を最優先課題ではなく、懸念事項の一つと考えているとした。
エ インフレ上昇について、9日付の「エル・パイス」紙の論説では、対外的な影響として、コモディティー価格上昇を背景に経済が成長しており、国内市場の消費が増えていること、ヨーロッパの経済危機や低金利が続く中、数年前からヨーロッパ資本が投入先を探しており、その資本が流入していること、国内では輸出価格が上昇している上、賃上げに対するコントロールが無いこと等が指摘されている。
オ また、コンサルタント会社のDeloitte社のエコノミストは、国内需要が増加する中で、国内生産が行われておらず、輸入に頼らざるを得ないという構造的な問題があること、また燃料や自動車をはじめとして輸入税が高いことなどが背景にあると述べた。
(3)為替
引き続きドル安が進んでおり、2月の平均は1ドル19.11ペソであり、3月も18~19ペソ台で推移した。
(4)財政赤字
ア 24日、アストリ副大統領は、エル・パイス紙のインタビューに答え、現政権の予算手当を検討するにあたり、財政赤字の縮小を最優先課題とすると述べた。今後は歳出抑制につとめ、特に国営企業の歳出を注視する。また、過度な投資を行わないように、慎重に考える必要があるが、予算削減は考えていないとも述べた。
イ 経済政策を巡る政府内部の対立については、予算企画庁(OPP)は意見を述べる権利はあるが、経済財務省を尊重するように呼びかけ、制度の秩序が乱れると、政策運営に影響が及ぶとした。
ウ また、歳入の再分配にはまだ課題が多く、教育や保健、治安分野を懸念しているとも述べた。
(5)一人あたりGDP
ア 21日付「エル・パイス」紙は、コンサルタント会社Focus Economicsは、3月のレポート(LatinFocus Consensus Forecast)で、ウルグアイの2013年の一人あたりGDPはチリを抜いて域内で首位の17,080ドルとなるとの予測を出したと報じた。
イ 同社のデータでは、2012年のウルグアイの一人あたりGDPは、域内ではチリの15,400ドルに次ぎ第二位の14,786ドル。2013年の予測では、ウルグアイが17,080ドル、チリが16,893ドルとなっている。
ウ また、今後のウルグアイの一人あたりGDPは、2014年には18,516ドル、2015年には19,719ドル、2016年には20,945ドル、2017年には22,311ドルとなるとの予測も出している。
(6)投資
ア 不動産投資が増加している。不動産関係者によると、この3年の投資額は約20億ドル。その内12億ドルが地方の不動産、8億ドルがモンテビデオを対象としたもの。
イ UruguayXXIによると、建設部門が成長しており、外国からの直接投資が最も多い部門となっている。2004年の同部門への海外からの直接投資額は3,700万ドルであったが、2011年には8億8,300万ドルで海外からの直接投資全体の35%を占めた。セルロース生産工場を建設したUPM社(12億ドル)と、現在建設中のMontes del Plata社による投資額(12億ドル)が大きい。
(5)格付会社Fitchは、ウルグアイの国債をBBB-に格上し、ウルグアイは投資適格国となった。これまでに昨年、4月にStandard & PoorsがBBB-に、7月にMoody’sがBaa3に格上げしており、これまでに3社がウルグアイの国債を投資適格国としたことになる。
- 税制改革等
これまで法人税引き上げをはじめとする税制改革議論が行われていたが、これらの議論は凍結されることとなった。他方、土地税(ICIR)については、課税されることで法案が可決されたものの、違憲であるとの指摘を受け、政府は土地税に代わる税収確保のため、これまで免税となっていた農地にかかる固定資産税(Impuesto al Patrimonio)を免税対象から除外することを検討することとなった。
- 貿易
- 輸出
ア 1-3月の輸出額は17億3,900万ドルで13%減となった。主な輸出品は、冷凍牛肉(2億7,800万ドル、前年同期比2.8%増)、生鮮牛肉(1億500万ドル、34.4%増)、米(8,800万ドル、30.5%減)。
イ 輸出減の主な要因は、聖週間(当国では観光週間)に経済活動が減速したこと、小麦・米・大豆の輸出額が減少したことにある。小麦の輸出額は3,900万ドルで前年同期比83%減。
ウ 冷凍牛肉の輸出は、オランダ及びドイツへの輸出が増えたことで、前年同期の9,329トンから1万2,076トンに増加した。中国への冷凍牛肉の輸出額は前年同期比10倍増となった。
エ 主要輸出先国は、ブラジル(3億6,900万ドル、9.9%減)、中国(1億4,100万ドル、110.3%増)、アルゼンチン(1億800万ドル、10.4%減)。小麦・米等の輸出が減少したことにより、対ブラジル、モロッコ、ロシア輸出が減少した。
オ 対中国輸出では、冷凍牛肉、羊毛等の輸出が増加した。対米輸出は27%増。冷凍牛肉、合板等の輸出が増加した。また、対トルコ輸出も増加。生牛の輸出が増加した。
- 輸入
ア 1-3月の輸出額は21億1,800万ドルで前年同期比7.8%増となった。主な輸入品は、観光バス(9,100万ドル、前年同期比3%増)、トラック(6,200万ドル)、携帯電話(24%増)、大麦(400%増)、農薬等(45%増)。
イ 主な輸入先国は、中国(4億2,300万ドル、前年同期比17.4%増)、アルゼンチン(3億9,300万ドル、5.9%増)、ブラジル(3億6,100万ドル、6.4%減)等。
4.エネルギー
(1)国家燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)関連事業
ア 国家燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)は、4月初めにCapurroのバイオディーゼルの発電所の操業を開始予定。年間55リットルの発電が見込まれている。同社がトレインタ・イ・トレス県に建設中の対ブラジル輸出用セメント生産工場と合わせると、投資額は約2,500万ドル。
イ また、パイサンドゥ県のバイオエタノール生産施設と、液化天然ガスの再気化ターミナル建設事業も合わせると、同社が手がける事業の2013年の投資額は、約2億5,000万ドル、民間からの投資も合わせると10億ドルとなる見込み。
ウ ANCAPの子会社であるDucsa社は、2012年はドル安等で燃料の売り上げが好調で、2,100万ドルの収益があった。
(2)日本の太陽光発電事業開所式
ア 15日、サルト県で、日本の無償資金協力(「太陽光を活用したクリーンエネルギー導入計画」)により導入された太陽光発電所の開所式が実施され、佐久間在ウルグアイ日本大使の他、ムヒカ大統領、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣、カサラビージャ電力庁長官等が出席した。同プロジェクトは「朝日」と名付けられ、双日のコーディネーションの下、日立の技術者により、パナソニックのソーラーパネル2,240枚(481.6KW)が導入された。
イ 今後、ラ・バジェハ県ミナスにも同様に日本の支援で太陽光発電所設置が計画されており、入札が実施される予定。
(3)その他太陽光発電事業等
ア 18日、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣が、エル・パイス紙に対し、今後計206MWの太陽光発電機を導入するための政令を発出予定であると述べたと報じられた。本件事業は25年契約で、電力庁(UTE)は1MWあたり90ドルで買い取りを行う。また、一定の期間内に設置事業を行った企業に対しては、UTEの支払増額等の特典を与える。
イ クレイメルマン大臣は、本件事業への投資額は200万ドルとなることを見込んでおり、70社から関心が示されたとしている。
ウ 工業エネルギー鉱業省のメンデス・エネルギー局長は、ウルグアイの風力発電コストを世界一安いものとすることを目指しており、太陽光発電についても、ソーラーパネルのコスト削減を進めたいとしている。これに対し、Bloomberg New Energy Finance社のアナリストは、ウルグアイはコストが世界一安いので、民間のディベロッパーの関心を得るのが難しいだろうと述べた。
5.労働
(1)2月の賃金上昇率
ア 国家統計院(INE)によると、2月までの1年間の平均賃金上昇率は11.9%となった。公的セクターで12.22%、民間セクターで11.36%。
イ また、2008年7月を100とした平均賃金指数は、2010年が128.4、2011年が144.01、2012年が162.3となった。
(2)ALURの工場占拠
18日、バイオエタノール生産を行っているALUR社に対し、サトウキビ労働者労組が同社のCapurro及びBella Uniónの工場占拠を行った。サトウキビ労働者50人の内、40人が退職したことに伴い、同労組は、労働者を50人に維持するよう要請し、昨年10月から交渉を行っていた。これに対し、同社は、労働協約には50人を確保することは明記されていないと主張している。
(3)25日、レストラン・バー・ビール・菓子・アイスクリーム等の小売り労組の労使交渉
25日、レストラン・バー・ビール・菓子・アイスクリーム等の小売り労組(ウルグアイの労組のグループ12,サブ・グループ6及び7に指定されている労組)が賃金交渉等で合意に至った。本件は、労働協約の交渉で合意に至った今年初めてのケース。これにより、2013年1月1日から2015年12月31日までの3年間の協約が合意された。同協約での賃上げ率は、インフレ率+3%となった。
(4)牛乳生産労組による争議
乳製品連合(Federación de la Industria Láctea(FTIL))が、21日、争議を行うことを発表した。同労組は、3ヶ月前から賃金交渉を行っているが、合意に至っていない。労組は3年で0.9%の賃上げを求めているが、労働省は、賃上げは産業の成長に見合ったものにすることを提案している。
(5)今後の労使交渉
ア 今年の労使交渉は、労働者約80万人が対象となる。政府は賃上げを緩やかなものにすることを優先したいとしており、この数週間の内に基準を決める予定。7月から労働協約の約50%の再交渉が開始される。
イ ブレンタ労働大臣は、ダメージを被っているセクターの賃上げを優先させると共に、各セクターの現実に見合った賃上げを行いたいとしている。
- 対アルゼンチン関係
(1)20日付エル・パイス紙は、アルゼンチンとの関係について、ウルグアイ政府の戦略に変化が見られると報じた。政府は、以前は悪化した二国間関係を改善しようと努めていたが、政権の残りの期間は、二国間のセンシティブな案件の解決を追求せず、ブラジルとの関係を強化していくとしている。また、ムヒカ大統領は、最近の二国間関係について、ミッション・インポシブルであり、抗議の意志は無いと述べたとされている。
(2)アルゼンチン政府による各種規制の当国への影響
ア 20日、フローレス包装食品産業協会会長は、昨年9月の食品関連企業との会合で、ロレンソ経済財務大臣が、アルゼンチンは益々フィージブルではなくなってきており、アルゼンチンへの輸出を考えるのは止めた方が良いと述べたことを明らかにした。当時から経済財務省は、アルゼンチンとの経済関係は改善されないという見方をしていた。
イ アルゼンチンが海外への観光客を規制する措置を打ち出したことで、ウルグアイとアルゼンチンとの経済関係は最悪となった。22日、アストリ副大統領は、エル・パイス紙に対して、二国間の経済関係は最悪の状況にあるとし、アルゼンチン政府による輸入や外貨への規制による当国への影響は顕著であり、観光の競争力も低下していると述べた。
ウ 民間のアナリストは、観光、輸出、農業や不動産への投資が減少することにより、民間セクターの収入や雇用にも影響が及ぶであろうと述べた。
- 対中国関係
ブエノスアイレスで開催された南部農牧水産委員会(Consejo Agropecuario del Sur)に出席したベネッチ農牧水産省次官は、域内の農牧大臣等が中国に招待されたと述べた。
- 自動車販売等
(1)当国の新車価格
ア ウルグアイ自動車販売協会(ACAU)によると、当国の新車価格は域内で最も高い。例えば、1,000CCの車は当国では15,900ドル(昨年10月より奢侈税(IMESI)は20%から30%に引き上げ)、1,600CCは23,700ドル(30%から40%に引き上げ)、2,400CCは40,100ドル(35%から40.25%に引き上げ)である。また、域外からの輸入車は更に高くなる。
イ 2012年の新車の売り上げ台数は56,459台となった。また、奢侈税の税収は前年比6.2%増の1億4,560万ドルとなった。
(2)農業用トラクター、耕作機の販売
ア 農業用トラクター・機械輸入協会(Citrama)によると、2012年前半の農業用トラクターの販売台数は684台、耕作機の販売台数は81台であった。メーカー別の売り上げ台数を見ると、トラクターは、John Deerが339台、Massey Fergusonが138台、New Hollandが88台、Valtraが60台、Caseが59台。また、耕作機は、John Deerが51台、Caseが19台、Massey Fergusonが6台、New Hollandが5台であった。
イ 農機具の販売は2006年から急増しており、トラクターの売り上げは、2008年は1,266台、2009年は761台、2010年は968台、2011年は1,350台、耕作機は2008年は176台、2009年は119台、2010年は136台、2011年は110台であった。
7.その他
(1)15日、パナマで開催されたIDB総会の際に、当国への5億5,000万ドルの融資への署名が行われた。アストリ副大統領は、これで更に国際的な経済不安への備えが出来たと述べた。
(2)ソフトウェア産業
ア ウルグアイ情報技術協会によると、2011年のソフトウェアの輸出額は前年比22%増で2億6,600万ドルとなった。輸出先は、米国が全体の26.4%、ブラジルが12.42%、チリが9.3%、アルゼンチンが8.5%、メキシコが8.29%。
イ 国内での売り上げは、前年比24%増で4億8,400万ドル。インターネットサービス・通信が2億4,300万ドル、メンテナンス・サポート・研修・資格の商業化等が1億2,100万ドルとなった。