ウルグアイ経済報告(2月分)
1.経済概要
(1)牛肉・農産品をはじめとするインフレが進んでいる一方、ドル高ペソ安傾向も進んでおり今後の政府の対策が注目されている。
(2)投資が引き続き拡大しており、昨年の投資額は、11億4,900万ドルとなった。42.1%以上はメルコスール諸国からの投資であった。
(3)1・2月の貿易額は前年同期比増となっており、対ブラジル輸出が引き続き拡大している。主な輸出品は、牛肉、小麦。トルコへの生牛輸出も目立つ。
輸入は主にアルゼンチンからのものが多く、観光バス・自動車部品・農薬等が輸入された。
(4)牛肉の卸売り価格の上昇、干ばつの影響、中東・アフリカ地域への牛肉の輸出への影響が懸念された。
(5)7~10日、総務省のミッションがウルグアイを訪問し、今後のウルグアイでのデジタルテレビ導入について関係者と協議を行った。早ければ本年秋(ウルグアイの春)にはウルグアイで試験放送が開始される予定。
(6)共和国銀行と三井住友銀行が、JBICによるグリーンエネルギープロジェクトへの融資のための合意に署名した。
(7)15日、格付会社DBRS社がウルグアイの公的債務の削減、経済成長を評価し、ウルグアイに対する評価を「安定」から「ポジティブ」に変更した。DBRSはウルグアイの経済が引き続き成長を続け、現在の財政政策が継続されれば、6ヶ月か1年の内に格付けをBBからBB+に格上げするとしている。
(8)15日、アルゼンチン工業省が、アルゼンチンに輸入する際の輸入認可手続きが必要な品目を自動車及び自動車関連品、金属、製鉄、消費家電、紡績・繊維関連品などを対象に約400品目から約600品目に増やすことを発表した。これに対し、25日、ムヒカ大統領はアルゼンチンを訪問し、フェルナンデス大統領と本件協議を行ったが、輸入規制をやめるようフェルナンデス大統領を説得することは出来なかったが、今後二国間のフォローアップ委員会を立ち上げることで合意に至った。
2.主要経済指標等
(1)インフレ率
1月の物価上昇率は前年同期比6.56%となった。分野別の物価上昇率は食糧・飲料は1.74%、住宅は0.97%、医療は2.09%、交通・通信は1.08%、娯楽は2.69%上昇となった。なお、ロレンソ経済・財務大臣は20日、この6年間ウルグアイはインフレ率が上下したが、今後も政府が設定する枠内におさめるとコメントした。
(2)為替
本年に入ってからドル高ペソ安傾向にあり、1月は1ドル19.66ペソとなった。JP Morganのエコノミストは、2011年は1ドル19.25~19.75ペソで推移すると予測している。
(3)財政赤字
経済財務省は、2010年の財政赤字は前年より改善し、1.2%となったと発表した。
(4)投資
(ア)経済財務省によると、1月に承認された投資案件は62件、5,380万ドルで、その内54%が商業向け、次がサービス、興業、農業及び観光業案件となった。
(イ)1999年から2005年までの対外投資は年平均3億7,000万ドルであったが、その後3倍増、5倍増となり、国際金融危機直前の2008年には18億900万ドルに上ったが、2009年9月から2010年9月までの投資額は15億ドルとなった。
(ウ)また、昨年投資法適用委員会が承認した投資案件は829件。額にして11億4,900万ドルとなり、2009年に承認された388件10億8,500万ドルから増加した。
(エ)対外投資の専門家でもあるプライスウォーターハウスのアナリストは、ウルグアイは、ビジネス環境が安定しており、ルールが明確で予測可能であり、腐敗度が低いという投資に適した環境にあるとコメントしている。他方、問題点として官僚の介入が大きいことを挙げている。
(オ)対外投資を地域別に見ると2008年は42.1%がメルコスール諸国からであり、1位がアルゼンチン、次いでブラジル、パラグアイとなっている。ヨーロッパからの投資は全体の21.2%を占める。最も多いのはスペイン。次いでイギリスとなっている。またNAFTAからの投資は全体の9.6%で米国、メキシコ、カナダの順となっている。その他ベネズエラやバハマからの投資も目立つ。
(5)自動車
(ア)1月の新車の売り上げ台数は前年同期比71%増の3,420台となった。
(イ)また、今後サンホセ県にNISSANが2,000万ドルの投資を行い工場を建設し、ブラジル及びアルゼンチン向けに年間2万台の自動車生産を行い、その後3~4万台の生産を行っていくと報じられた。
3.貿易
(1)2月の輸出
(ア)2月の輸出額は5億7,500万ドルで前年同期比30.1%増となった。
(イ)2月の輸出量が最も多かったのは冷凍牛肉で、輸出額は7,000万ドル。前年比14.5%増であった。
(ウ)また、輸出増加が目立ったのはチーズ類で前年同期比192%増。2月の輸出額は600万ドルであった。チーズ類の内、63%はベネズエラに、15%はメキシコ、9%はブラジルに輸出された。
(エ)最大輸出先はブラジルで輸出額は9,600万ドル。前年同期比39%増となった。また対ブラジルの小麦の輸出額は前年同期比300%増となった。(オ)二位はアルゼンチンで輸出額は4,600万ドル。前年同期比27%の増加となった。
(2)1・2月の輸出
(ア)本年1月・2月の輸出額は10億9,700万ドルで前年同期比32%増となった。最大輸出産品である冷凍牛肉の本年1・2月の輸出は1億5,600万ドルで前年同期比24%増であった。
(イ)1・2月の輸出が牛肉の次に多かったのは小麦で、前年同期比11%増の1億2,400万ドルとなった。
(ウ)また生牛の輸出も目立った。生牛の大半はトルコに輸出され、輸出額は3,600万ドルであった。また、中国にも輸出され、輸出額は450万ドルであった。トルコへの生牛への輸出は2010年半ばより開始された。
(2)輸入
(ア)2月の輸入額は、6億2,200万ドルで前年同期比43%増となった。
(イ)1・2月の輸入額は12億5,400万ドルで、前年同期比43.8%増となった。アルゼンチンからの輸入が最も多く、輸入全体の24%を占め2億9,600万ドルとなり、昨年同期比59%増となった。次に多いのがブラジルからの輸入で全体の19%を占め2億4,200万ドルとなり、昨年同期比31%増となった。
(ウ)主要輸入品は、観光バス(輸入全体の4.6%、前年同期比59.9%増)、自動車部品(3.1%、前年同期比76.4%増)肥料(2.5%、前年同期比254.4%増)であった。
(3)トランジット
1月及び2月にコロニアのフリーゾーン及びUPMからウルグアイに入ってきた主な産品は、UPMによるセルロース(1億7,600万ドル)、ペプシコ(8,100万ドル)であった。
4.農牧業
(1)牛肉供給の減少等により牛肉の卸売り価格が上昇し、23日、ムヒカ大統領が価格の上昇に懸念を示すコメントを行った。
(2)ウルグアイ国内4カ所に工場を持つブラジルのMarfrig社は、牛肉の生産量が減少しているため、80人から100人の人員削減を行うと発表した。
(3)24日、政府はトルコへの牛肉の輸出を再開すると発表した。
(4)中東及び北アフリカの政情不安により、同地域に牛肉を輸出しているウルグアイは今後影響を受ける可能性がある。同地域への輸出はそれほど多くはないが、今後の状況によっては影響を受ける可能性があると言われている。
(5)21日、アゲレ農牧大臣は、干ばつにより最も被害を受けている酪農産業への対策パッケージを打ち出した。昨年3月から7月に出荷される牛肉の量に応じて融資額が決定されることとなった。
- エネルギー
(1)パラグアイからの電力輸入
14日、パラグアイ政府は、電力をアルゼンチン経由でウルグアイに輸出することでアルゼンチンと合意に至った。今後1MW/hあたり80~120ドルで電力が供給される予定。
(2)天然ガス再気化工場建設に関するアルゼンチンとの合意
25日、両国の工業大臣が液化天然ガスプロジェクト開発のための覚え書きへの署名を行った。これにより、2013年以降15年間天然ガスが供給される。当国工業エネルギー鉱業省オルトゥーニョ次官は、本件署名により、エネルギー協力への両国間合意が得られただけでなく、サルト・グランデの水力発電所建設以降、二国間合意の中でも最も重要なものであると述べた。今後は3月に工場建設のための条件が定められ、5月にアルゼンチンのEnarsa社、Gas Sayago、ウルグアイの電力公社(UTE)及び燃料公社(Ancap)により入札が行われる予定。同工場は稼働開始当初は、1日1,000万立方メートルの生産を行い、その後1,500万立方メートルにまで生産を増やす予定。
- その他
(1)デジタルテレビ
7日~10日、総務省の代表団がウルグアイを訪問し、工業エネルギー鉱業省をはじめとする政府及び関係機関の関係者とデジタルテレビに関する会合を行った。ウルグアイがデジタルテレビ導入を進め、2015にデジタルテレビへの移行を実施するため、今後は早ければ本年秋(ウルグアイの春)頃に国営テレビ放送で試験放送を実施するための準備が進められる。
(2)グリーンファイナンス
11日、共和国銀行は、三井住友銀行との間でJBICが実施しているグリーンエネルギープロジェクトへの融資のための合意に署名した。ウルグアイ共和国銀行は、JBICのクレジットローンにより、ウルグアイの持続的な環境プロジェクトへの融資を行う。本件融資は環境に優しい再生可能エネルギープロジェクトとして、風力発電所建設及びバイオマスエネルギー生産に対して行われる。
(3)DBRS社による国債の格上げ
(ア)カナダのDBRS社によるウルグアイの国債の格付けは2009年10月よりBBであるが、15日、ウルグアイに対する評価が「安定」から「ポジティブ」に変更された。DBRSはウルグアイの経済が引き続き成長を続け、現在の財政政策が継続されれば、6ヶ月か1年の内に格付けをBBからBB+に格上げするとしている(当館注:ウルグアイの国債の格付けは、現在ムーディーズ社がBa3、S&P社がBB-、フィッチ社がBBとなっている)。
(イ)DBRSは、ウルグアイ経済への評価を上げた要因として、公的債務の削減(2009年のGDP比69.3%から、2010年には58.6%となった)を挙げている。DBRSは、ウルグアイの公的債務削減は力強い経済成長に支えられており、2003年から2010年の経済成長はラテンアメリカ諸国の中でも著しいこと、また実質賃金の上昇に伴い消費も増えている上、外国からの投資も増加しているため、中期的に経済成長が見込まれること、更に、柔軟な為替変動により競争力が維持されている上、経済政策が慎重で一貫しているとしている。
(ウ)他方、DBRSは今後の課題として、ウルグアイが特に隣国アルゼンチンからのコモディティーの輸入に依存しているため、アルゼンチンの経済状況に左右されること、金融システムのドル化の度合いが高いことが通貨政策実現に影響を与えていること、国内市場の需要増加及び国際食料価格・燃料価格の高騰に伴い、中央銀行が設定した今年のインフレ枠内の上限近くまで上昇していることを指摘している。そのためDBRSは、引き続き当国経済をウォッチしていくとし、通貨政策の信用性の強化、公的債務の更なる削減により、格上げが行われるであろうと述べている。
(4)外国政府による土地の買収への対策
(ア)与党FA党の一部の議員は、土地所有関連法を改正し、国土を国有財産とし、非効率な土地利用には国が介入し、土地を収用する権利を持つための動きを進めている。
(イ)15日、ムヒカ大統領の指示のもと、上記法改正に向けた作業が開始された。3月にムヒカ大統領に法改正に関する計画書が提出され、年末には改正法案が作成される予定。
(ウ)上記議員等は、国土を資源として保護する以外にも、土地所有に上限を設定し、土地の集中及び外国化を防ぐことを検討している。
(5)アルゼンチンによる輸入規制
(ア)15日、アルゼンチン工業省が、アルゼンチンに輸入する際の輸入認可手続きが必要な品目を自動車及び自動車関連品、金属、製鉄、消費家電、紡績・繊維関連品などを対象に約400品目から約600品目に増やすことを発表した。対象品目をアルゼンチンに輸入する際の手続きは60日以内に行われることが規定されている。また、アルゼンチンのモレノ国内産業大臣が、アルゼンチンのスーパー及び卸売り業者に対し、アルゼンチンで生産している製品と同等のものを輸入しないよう指示を出したと報道された。
(イ)アルゼンチンによるこうした措置はウルグアイの輸出産業に悪影響が及ぼすとして、産業界及び輸出業者はアルゼンチンによる規制に反発しており、17日、工業協会のブルギ会頭は、ウルグアイ政府がアルゼンチン政府に対抗措置を取ることを求める発言を行った。
(ウ)18日、ブエノスアイレスを訪問したクレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は、アルゼンチンのGiorgi工業大臣に本件によるウルグアイへの影響への懸念を表明した。これに対しアルゼンチン政府は、モレノ大臣がスーパーや卸売り業者にアルゼンチンの製品と同じものを輸入しないよう指示をしたという事実はないこと、輸入手続きを要する品目が400から600品目となったのは、主に中国や東南アジアからの輸入規制を念頭に置いた措置であるが、ウルグアイを例外とすることは出来ないと回答した。また、ウルグアイ政府は、今般規制により今後影響が及ぶ品目のリストをアルゼンチンに提出することで合意を得た。
(エ)25日、ムヒカ大統領はアルゼンチンを訪問し、フェルナンデス大統領と本件について協議を行ったが、輸入規制をやめるようフェルナンデス大統領を説得することは出来なかった。ムヒカ大統領は、フェルナンデス大統領との間で今後二国間のフォローアップ委員会を立ち上げることについて口頭で合意した。
(オ)ウルグアイ産業界は、政府が断固とした姿勢で望み、ウルグアイ製品のアルゼンチンへのスムーズな輸出を望んでいたため、首脳会談の結果に落胆している。フスカルド衣料商工会議所会頭は、ムヒカ大統領がブエノスアイレスで達成したことは非常に少ないと述べた。また、オリベロス金属協会会頭は、ムヒカ大統領は、首脳会談に規制対象品目の削減の交渉を行うという姿勢で臨み、メルコスール内での産品の自由な流通の尊重をアルゼンチンに求めるという姿勢ではなかったとコメントした。
(6)27日、燃料公社(Ancap)は、ウルグアイでのセメント生産拡大のため、トゥレインタ・イ・トレス県の施設拡大のための最初の入札を告示すると発表した。