ウルグアイ経済報告(12月分)
【概要】
●政府の課題は、引き続きインフレ抑制。11月のインフレ率は9.03%となり、中銀は政策金利を9%から9.25%に引き上げた。他方、ドル安が続き、対アルゼンチン・ブラジルの競争力低下が懸念される中、政府は1年で6億ドル以上のドル買いを行った。
●国内外からの投資が増加し、投資のGDP比は20%を超えた。他方、歳出の拡大、財政赤字も懸案事項となっている。10月の財政赤字はGDP比2.9%となった。
●2012年の輸出額は87億5,100万ドルで前年比9%増となった。フリーゾーンからの輸出額と合わせると98億3,000万ドル。大豆、冷凍牛肉、米、小麦、粉ミルク、チーズ等が、ブラジル、中国、アルゼンチン、ベネズエラ等に輸出された。対中国輸出では冷凍牛肉の輸出が前年比173%増となった。対アルゼンチン輸出は14.7%減となった。主要輸出企業は、乳製品、穀物、木材、プラスチック、牛肉加工企業等。
●輸入額は85億3,600万ドルで前年比0.4%減。観光バス、トラック、電話、農薬等が中国、アルゼンチン、ブラジル等から輸入された。中国からの電話・通信機器の輸入が増加している(前年比62%増)。
●日本との貿易は、対日輸出額が1,019万7,295ドル。フリーゾーンからの輸出額は8,100万ドル。羊毛、ラノリン、冷凍魚、タバコ、果物ジュース等が輸出された。輸入額は、1億200万ドル。皮のシート、観光バス、タイヤ、印刷機器等、プラスチック品等が輸入された。
●7日、ボンセット社((伊藤忠・CI化成)プラスチックフィルムの生産)の工場開所式が実施された。
●経済財務省はフリーゾーン法改正案を作成中であり、フリーゾーンでのサービス部門の促進、規制の柔軟化、地方のフリーゾーンの活性化等を目指している。
【本文】
1.経済概要(1日付「エル・パイス」紙、国家統計院(INE)データ)
- 為替は5ヶ月連続でドル安となり、また、10月の財政赤字はGDP比2.9%となった。
(2)11月のインフレ率は9.03%となった。教育関連(12.33%増)、レストラン・ホテル(11.97%増)、住宅(11.61%増)、食品・ノンアルコール飲料(10.68%増)が高かった。
(3)共和国大学経済経営学部経済センター12月の報告書
ア 第三四半期の経済
(ア)第二四半期からの経済成長率は3%。第一次産業(▲0.3%)、建設(▲1.6%)、商業・修理・レストラン・ホテル(▲0.1%)がマイナスとなったが、前年同期比では一次産業以外はプラスとなった。
(イ)経済成長率は国内外からの需要増加に支えられている。プルナ破産に係るサービスの提供、観光収入の減少にもかかわらず財・サービスの輸出は増加。輸入は原油の輸入、コロニア県でのMontes del Plata社のセルロース生産施設建設事業関連及び自動車の輸入増加もあり増加。
(ウ)国内需要は7%増。消費は5.8%増、固定資本形成の増加も大きかった。民間資本形成は前述のMontes del Plata社の事業もあり8.8%増。公的セクターの資本形成は23.4%増となった。歳出増加、公的セクターの投資増加により、財政収支が悪化した。
(エ)インフレ上昇が続いており、その数値は10%に近づいている。財政赤字の増加、歳出増加、ドル安、小麦の国際価格の上昇、医療・保険にかかる費用の増加、野菜等の価格の上昇、省エネ計画に基づく補助金支払い期限が終了したことにより、エネルギーに係る経費が増加するなどの状況が見られるが、インフレの要因を明らかにするのは容易ではない。
イ 今後の見通し
(ア)短期的には、アルゼンチンやブラジル、中国の経済成長の減速の影響が見られると思われるが、水力発電量の回復により電力・ガス・水部門が成長し、住宅建設やMontes del Plata社の事業のような大型事業の伸展に伴う建設部門の成長も見られるだろう。製造業は、修理のため一時閉鎖していた国家燃料・アルコール・セメント公社(ANCAP)の石油精製施設再開に牽引され、成長するだろう。また農業では、乳製品生産は減少すると見られるが、夏の農産物生産、家畜の屠殺は増加するだろう。
(イ)他方、アルゼンチンからの観光客の減少、ブラジルとの競争力低下に伴う、ブラジルからの観光客の減少により、商業・レストラン・ホテル業は減速するだろう。
(ウ)中期的には、アルゼンチン、ブラジルの経済成長の回復に伴い、2013年の当国の経済成長は4.5%となるだろう。また、ヨーロッパ及び米国の経済の回復に伴い、当国でのインフレ圧力も緩和されるだろう。
(エ)来年も本年同様、経済政策の課題は、競争力・ドル安・財政赤字対策に考慮したインフレ抑制対策となるだろう。
(4)エコノミスト(エルネスト・タルビ経済社会研究センター(CERES)長)による当地経済の見方(22日付「エル・オブセルバドール」紙)
ア アルゼンチンとは対照的に、国際的な信用度が上がっている。しかし、マクロ経済のバランスを失ってきている。2011年10月以降、歳出が拡大しているが、税収は増えておらず、財政赤字がGDP比3%程度に増え、公的セクターを巡り政府がコントロールを失ってきている。また、本年の経済成長率は4%程度であるが、2011年10月以降は、賃金政策が経済のファンダメンダルズから乖離してきている。
イ インフレが上昇する中、短期的には、政策金利を上げ、為替においてもペソを必要以上に過大評価し、スーパーマーケットに対して商品の値下げを要求し、更に燃料価格や奢侈税(IMESI)の調整を関係者に働きかけている。ただ、長期的にはこのような対策は有効では無い。政策のバランスを回復する必要があり、そのためには政府の経済チームがマクロ経済政策におけるコントロール力を取り戻すべきであるが、現在経済チームは弱体化している。
ウ 現在のようにペソの上昇の圧力がある中で歳出を増やすと、中銀は、インフレ対策のために(金利を引き上げざるを得ず)必要以上に(ウルグアイ経済の)競争力を弱体化させざるを得なくなる。政府の経済チームは、歳出増加により財政赤字を増やすことも求めてはいなかったし、より慎重な賃金政策をとりたいと思っていたであろうが、いずれの分野においても交渉に負けてしまった。
エ ただ、こうした経済のアンバランスが投資家に不安を与えるのではなく、むしろ投資は増えており、中銀のアンケートでは、来年は機械等の設備投資を行うと答えた企業が28%増えると見られている。投資の増加はドル安の一因ともなっている。
オ 社会支出が増加しているが、成果が伴っていない。この8年間労働生産性の向上も見られてないのは問題である。
2.政策金利(29日付「エル・パイス」紙)
中銀は政策金利を9%から9.25%に引き上げた。エコノミスト等は大半が政策金利の引き上げは行われないと予測していたため、中銀の決定に驚いている。また、輸出業者は、前回の8.75%から9%への引き上げでもインフレ上昇は抑えられず、ドル安が続き、競争力が失われているとし、今回の決定で輸出業が更にダメージを被ると失望している。対アルゼンチンの競争力はこの1年で10.4%、対ブラジルは14.5%低下しており、エコノミストからは、政府の政策は方向を見失っており、政策金利上昇のツケは生産者や輸出業者が払うことになるだろうと述べた。また、2012年は2011年より2.52%のドル安となった。
中銀は、2012年、中銀は6億6,240万ドルのドル買いを行った(2011年は3億3,440万ドル)。
3.投資
(1)1-10月の投資額(1日付「エル・パイス」紙)
経済財務省が投資法の下での免税対象案件に推薦した投資は、1月から10月で723件、額にして15億7,700万ドルとなり、件数で前年同期比6%増、金額では40%増となった。
(2)投資額の増加(6日付「エル・オブセルバドール」紙)
5日、ロレンソ経済財務大臣は、投資額のGDP比が2012年に初めて20%を上回り、25%となったと述べた。2005年から2011年は平均5.9%であったところ、投資が大幅に拡大している。投資の4%は鉱業や海底油田の探査。2008年から2008年の投資法による免税等の対象となった案件の投資額合計は60億2,000万ドル。
4.貿易
(1)輸出
ア 2012年の輸出額は87億5,100万ドル。前年比9%増となった。フリーゾーンからの輸出額を合わせると、98億3,000万ドル。
イ 主要輸出品は、大豆(輸出額13億9,400万ドル、前年比62.2%増)、冷凍牛肉(10億1,600万ドル、3.9%増)、米(5億5,600万ドル、17%増)、小麦(4億3,200万ドル、23%増)、粉ミルク(3億2,900万ドル、5.7%増)、チーズ(2億6,400万ドル、12%増)等。ヌエバ・パルミラのフリーゾーンからの輸出を合わせると、セルロースが輸出品第3位。分野別に見ると、輸出の25%が農産品、75%がその他の製品で、主に食品・飲料などが挙げられる。
ウ 貿易の多角化を進める中、2012年は163カ国に輸出された。また、大豆の新たな輸出先として、バングラデシュ及びエジプト、小麦の輸出先としてチュニジア及び南アフリカが加わった。
エ 輸出先国第1位はブラジル。輸出額は17億4,600万ドルで前年比6.4%増。対ブラジル輸出は全体の20%を占めた。主に麦芽(1億9,600万ドル。前年比1.8%減)、粉ミルク(1億9,200万ドル、30.8%増)、プラスチック製自動車部品(1億6,100万ドル、2.8%増)等が輸出された。
オ 第2位は中国。輸出額は9億1,600万ドルで前年比22.9%増。対中国輸出は、全体の10.5%を占めた。主な輸出品は、大豆(5億7,300万ドル。前年比28.7%増)、冷凍牛肉(7,500万ドル。173%増)、羊毛(5,400万ドル。11.5%増)等。対中国輸出の伸びは、生牛(輸出額4070万ドル)及び前述の冷凍牛肉の輸出増加によるところが大きい。また、ウルグアイのフリーゾーンから中国に輸出された大豆の輸出額は、10億6,100万ドル、セルロースの輸出額は47万1,500ドル。
カ 第3位がアルゼンチン。輸出額は5億100万ドル。前年比14.7%減。自動車及び自動車部品(ケーブル等(5,800万ドル。前年比29.9%増)、トラック(3,700万ドル。14.5%減)、自動車座席(3,100万ドル、23,7%増)等、)及び紙・段ボールなどが輸出された。
キ 第4位はベネズエラ。輸出額1億7,600万ドル。前年比24.7%増。主な輸出品は、チーズ等(1億7,600万ドル。43.5%増)、冷凍牛肉(5,800万ドル。20.4%減)、粉ミルク(5,100万ドル。23%減)。
ク 主要輸出企業では、乳製品、穀物、木材、プラスチック、牛肉等の企業が上位を占めた。主要輸出企業10社で、フリーゾーンも含めた輸出全体の25%を占めた。主要企業は各分野で大きな位置を占めている。例えば、乳製品では、輸出企業第一位であるConaproleが同分野の輸出の60%を占めた。大豆を主とする油抽出穀物分野では、Crop Uruguayが全体の17%、Barraca Jorge W.Erroが15%、Cereoilが14%、LDC Uruguayが9%を占めた。穀物では、Samanが25%、Cropが8.6%、Barraca Jorge W.Erroが6.6%、LDCが5.4%、Garmetが4%、Cereoilが2.2%を占めた。木材では、Forestal Orientalが45%を占めた。プラスチックでは、Cristalpetが44%を占めた。
- 輸入
ア 2012年の輸入額は、85億3,600万ドル。前年比0.4%減となった。主要輸入品は、観光バス(4億700万ドル。前年比3.8%増)、トラック(2億5,400万ドル、19.6%増)、電話(2億4,400万ドル。12.7%増)、農薬(1億8,800万ドル。18.1%増)等。
イ 輸入先国第1位は中国で輸入額は16億6,200万ドル。前年比15.5%増。電話・通信機器等の輸入が62%増となった。
ウ 他方、第2位のアルゼンチンからの輸入(16億1,300万ドル)は、自動車輸入が減ったこともあり11%減となった。
エ 第3位のブラジルからの輸入額は15億7,700万ドルで4.2%減となった。
オ その他韓国が第7位(輸入額1億7,700万ドル。13.3%減)、インドが11位(1億4,500万ドル。25.2%増)、台湾が14位(1億
2,300万ドル。11.2%増)となった。
(3)日本との貿易
ア 2012年の対日輸出額(フリーゾーンを除く)は1,019万7,295ドル。主な輸出品は、羊毛(410万ドル)、ラノリン(281万ドル)、冷凍魚等(118万ドル)、タバコ(45万ドル)、果物ジュース(37万5,000ドル)等。また、コロニアのフリーゾーン(PEPSICO社)からは、ペプシの原料が輸出された(輸出額8,100万ドル)。日本は、同社からのペプシの原料輸入先国第2位。
イ 輸入は、1億200万ドルで、輸入全体の1.2%を占めた。主な輸入品は、皮のシート(2,000万ドル)、観光バス等(1,100万ドル)、タイヤ等(424万ドル)、印刷機器等(387万ドル)、プラスチック品等(376万ドル)。
5.農牧業
(1)ドゥラスノ県での酪農事業(27日付「エル・パイス」紙)
ア Estancia del Lago社が投資額約2億2,600万ドルの酪農施設建設事業を実施しており、今後8,800頭の牛から1日38万リットルの牛乳、1万4,000トンの粉ミルクの生産を計画している。関係者は、これにより、2016年には当国からの粉ミルクの輸出が急増すると見ている。
イ 本件事業には、IDBが6,500万ドルの支援を行う。IDBの担当者は、風車や油抽出工場の建設の支援を行う他、技術協力も行うと述べた。
(2)ワイン(28日付「エル・パイス」紙)
ウルグアイワイン協会のレス会長は、現在輸出の85%は対ロシア向けであると述べた。2012年は全ワイナリーの約半数にあたる116社が49カ国に輸出した。今後、中国、ベトナム、韓国を視野に輸出を促進していくとしている。
6.ロジスティックス・流通
(1)フリーゾーン(18日,28日付「エル・パイス」紙)
ア 経済財務省によるフリーゾーンの報告書(2010)によると、フリーゾーンでの活動は、2010年にはGDP比4.3%を占めたが、現在はUPM社で1.19%、Zonamericaで1.85%、その他が1.3%となったが、フリーゾーンに置かれている1,425社の内、21.9%は活動が見られない。
イ フリーゾーンでは、10,086人が雇用されているが、その内外国人は2,065人である。
ウ 経済財務省がフリーゾーン法の改正案を作成中である。改正案は、①フリーゾーンの名称を、「経済特区」に変更する、②工業活動については、大規模なものあるいはハイテクを伴うものに制限する、③サービス部門の促進を図る、④ウルグアイ人従業員雇用率を75%から60%に引き下げる、⑤地方のフリーゾーンの活性化を図ることを検討している。
エ これに対し、フリーゾーン関係者は、地方のフリーゾーン活性化により、アルゼンチンやブラジルの国境に近いところであればあるほど、隣国からの人材を確保しやすくなる上、地方の雇用機会拡大にもつながると述べる一方、フリーゾーン協会のドバット副会長は、改正法案について政府から話は無く、内容も知らされておらず、現行のフリーゾーンにどのような影響があるのかも分からないと述べた。
7.自動車
新車の販売(13日付「エル・パイス」紙)
奢侈税引き上げ前の駆け込み需要が大きく、10,11月2ヶ月間の売り上げは、8,040台で9月と同程度になった。
8.対中国関係
コンサルタントのウルグアイ訪問(6日付「ブスケダ」紙)
4日、ウルグアイを訪問した中国のChina Non Ferrous Metal Resource Geological SurveyのコンサルタントYun-Tso Lee氏がコンサルタント会社Price Water House主催の講演会に出席した。同氏は、中国は当国からの食料のみならず農地にも関心を持っており、農地購入を検討している中国企業が2社ある他、ウルグアイの港建設事業や鉱業にも関心があると述べた上で、港建設は産品を中国に輸出するために戦略的に重要であると述べた。
9.日本企業の進出
7日、カネロネス県でボンセット社(伊藤忠・CI化成。ペットボトルのフィルム生産)の工場開所式典が実施され、アストリ副大統領(ムヒカ大統領外遊中のため大統領代行)、クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣、カランブラ・カネロネス県知事等が出席した。