ウルグアイ経済報告(1月分)
1.概要
(1)ウルグアイは、近年の経済成長、政府の慎重なマクロ経済政策・財政運営、社会政策・輸出推進策の促進や債務削減策等が評価されているが、他方でインフレ上昇率及び賃上げ圧力が高いことが懸念事項と見られている。
(2)貿易も引き続き拡大しており、特に自動車及び関連品の輸出が増加しているが、輸出額の増加は輸出価格によるものであり、輸出量は減少している。
(3)農牧業では、酪農生産が増加しており、今後新規事業も計画されているが、水不足による農牧業への影響も見られている。
(4)アルゼンチンとの税務情報交換に関する不動産業への影響につき懸念が表明されているほか、アルゼンチン政府による輸入規制に関し、引き続き二国間で交渉が行われている。
2.経済概観
(1)IMF四条協議報告書
ア 2011年11月のIMFの四条協議の報告書によると、ウルグアイは、近年の成長により福祉指標が開業している。一人当たり収入の購買力は10年前より倍増し、失業率は記録的な低さとなり、社会指標が改善した。政府の慎重なマクロ経済政策、社会政策の強化、各種輸出推進政策がこれらの指標改善に与えた影響は大きい。
イ また、報告書では、今後中期的にはウルグアイの経済成長率は4.4%となるが、家庭収入の伸びが穏やかになるにつれて経済成長率も減速する。また、巨額の直接投資が本年及び来年の成長のカギとなると指摘されている。
ウ IMFは、輸出については、ウルグアイは輸出先を多角化しているが、主要輸出先国への輸出が減少することにより、増加率も穏やかなものとなるだろうとしている他、2011年の財政の中立的なスタンスを評価し、今年も同様のスタンスを期待するとしている。また、公的債務については、ウルグアイは積極的な債務返済への取り組みにより、モデル国となりうるとしたうえで、公的債務の脆弱性を克服するため、脱ドル化が進められているとして評価している。
(2)R&I社格付
ア R&I社は、ウルグアイの国際格付をBBとしているが、「安定」から「ポジティブ」に修正した。同社はウルグアイの状況について、グローバルな債務危機の中で、現在の経済・財政運営を継続することが出来ると思われ、今後格付が上がる可能性があるとしている。また、ウルグアイ経済は拡大を続けており、財政・金融システムが堅実で債務も減少しているとも見ている。
イ 他方、賃上げ圧力及びインフレ率が高いこと、ブラジルとアルゼンチンの経済の減速が懸念事項であると見ている。また、財政赤字は減少しているが、年金や公的セクターの賃金が高く、財政赤字を更に削減することは容易ではないだろうと予測している。
ウ また、ウルグアイの労働状況を考慮すると、いくつかのセクターでは2014年までは賃上げが進み、インフレ率は8%以上となるだろうと見ており、2011年12月に政府が政策金利を引き上げたことを評価しつつ、今後、経済成長を減速させることなく物価上昇を抑えることが出来るかを見守っていくとしている。
3.主要経済指標等
(1)インフレ
2011年12月までの1年間の消費者物価指数は8.6%増となった。分野別にみると、通信(0.1減)以外は指数が増加した。増加率が高かったのは、レストラン・ホテル(10.59%増)、住宅(10.56%増)、教育(10.45%増)、交通(10.21%増)であった。その他、家具・家庭用品等は8.81%増、食品・ノンアルコール飲料は8.66%増、保健は8.56%増、財・サービス関連は7.93%増、娯楽・文化は7.8%増、アルコール飲料・タバコは7.21%増、衣服関連・靴は4.53%増となった。
(2)貧困率
ア 国連ラテンアメリカ・カリブ委員会(ECLAC)が発表した報告書によると、ウルグアイは、貧困率が2002年の15.4%から2011年は8.6%へ減少し、ラテンアメリカ・カリブ地域でアルゼンチンと並び低い貧困率となった。
イ 他方、先住民人口率は2002年の2.5%から2011年には1.4%となった。ウルグアイはラテンアメリカ・カリブ地域で先住民人口率が最も低い国である。
(3)製造工業生産指数
ア 2011年11月までの1年間の製造工業生産指数(石油・石油派生品除く)は、5.6%増となった。分野別に見ると、自動車が51.75%増、皮革製品等が27.69%増、化学品等が14.94%増、プラスチック品等は8.44%増、機械は7.9%増、木材等が7.52%増、基礎金属は6.56%増、製本は6.2%増、非金属工業品は5.73%増、家具等は4.35%増、金属・機械・部品は4.11%増、食品・飲料は3.56%増、通信機器は0.01%増となった。
イ 他方、石油派生品・石炭は19.92%減、電子機械・部品は7.36%減、繊維等は6.78%減、輸送関連品は6.22%減、紙等は5.07%減、衣料品等は2.63%減となった。
(4)為替
2011年12月の平均は、1ドル20ペソ、12月末には1ドル19.9ペソとなった。また、2011年の平均は1ドル19.31ペソであった。5月から8月は18ペソ台で推移したが、その他の月は19ペソ台で推移した。
(5)財政赤字
ロレンソ経済財務大臣は、2011年の財政赤字について、年初は対GDP比1.1%となると予測していたが、0.8%となると述べた。財政赤字が当初の予測より減少するとしている主な理由は、発電コストが思っていたほど高くなかったこと、徴税額が増えたこと、公共料金を調整することが出来たことであると述べた(29日エル・パイス紙)。
4. 投資
(1)本年の国営企業による投資案件
ア 本年予定されている国営企業による投資金額は9億2,000万ドル。その内UTEが4億ドル(発電に1億3,300万ドル、送電に1億1,600万ドル他)。主な事業はSan Carlos とMelo、及びTacuaremboとRiveraの送電線接続プロジェクト。また、Punta del Tigreのサイクルコンビナート発電所建設事業に4億7,000万ドル以上が投資される予定。
イ また、ANCAPは2億ドルを投資し、その内1億ドル以上でセメント工場を建設予定であるほか、ウルグアイ北部での石油探査事業、ベネズエラでの石油試掘事業、燃料の備蓄・輸送整備事業などを計画している。
(2)3大投資案件
経済財務省に承認された案件の中で最も金額が高い3件は、Minerales社(セメント)の5,780万ドル、Movistar(携帯電話)の4,950万ドル、BG Industrial
Láctea社(牛乳加工工場建設)で4,330万ドルであった(28日付エル・パイス紙)。
5.貿易
(1)1月の輸出
ア 1月の輸出額は6億2,900万ドルで前年同期比17.8%増加した。主な輸出品は、穀物、牛肉、木材、乳製品であった。内訳をみると、小麦が全体の14%、冷凍牛肉が14%、米が7%、木材が6%であった。前年比で輸出額が最も増加したのは麦芽で、177%増加した。また、二番目に増加率が高かったのは米で88%増加した。
イ 小麦の56.7%はウルグアイ内のヌエバ・パルミラ・フリーゾーンへ、24.3%はブラジルへ出された。冷凍牛肉は、43.6%がロシアへ、42.5%がイスラエルへ輸出された。米は49.8%がブラジルへ、33.9%がペルーへ輸出された。木材は97.2%がウルグアイ内のフライ・ベントス・フリーゾーンへ、1.5%はベトナムへ出された。
ウ 輸出先国は、これまでと同様、ブラジル及びアルゼンチンであった。対ブラジル輸出は前年同期比27%増、対アルゼンチン輸出は66%増となった。
エ また、輸出額が最も増加したのは、アルジェリアとなった。同国への輸出の94%は小麦であった。二番目に輸出額の増加率が高かったのはベネズエラで、チーズ類の輸出が約5倍増となった。
(2)1月の輸入
ア 1月の輸入額は6億3,300万ドルで前年同期比0.6%増加した。燃料及び派生品を除くと、主な輸入品は、自動車及び自動車部品等が全体の14%、機械・部品等が13%、音響機材が8%、ブラスチック製品等が8%、化学品が4%を占めた
。
(3)2011年の輸出
ア 2011年の輸出額を見ると、その25%が農産品、75%が製造業関連品であった。農産品の主な輸出品は、大豆(64%)、小麦(26%)であった。主な製造業関連輸出品は、1位が食料加工品・飲料・タバコ(44%)であり、その内、牛肉が37%、米が13%、乳製品(チーズ等、16%)であった。また、2位は化学・プラスチック・皮革品(11%)であり、その内、プラスチック製品が19.2%、皮革製品が10.5%を占めた。また、木材及び関連品は輸出全体の8%を占めた。
イ また、前年比で増加率の高かった輸出品は、自動車及び関連品(57%増)、食料加工品・飲料・タバコ(24%増)、化学・プラスチック・皮革品(23%増)であった。他方、前年比で増加率の低かった輸出品は、農産品(含:大豆・小麦)、木材及び関連品であった。
ウ 輸出額の増加は、輸出価格の増加によるものであり、輸出量は前年比で減少している。
6.農牧水産業
(1)水不足の影響
ア 全国的に雨量が不足しており、12月はアルティガス県、サルト県、パイサンドゥ県の3県で水不足の影響が見られたが、1月に入り北部、中部、西部に拡大し、国内15県で水不足の影響が出ている。
イ 最も影響を受けているのが西部に位置するリオネグロ県ユング市で、約1月間ほとんど降水がなく、クリスマス前に25ミリの雨が降ったのみである。一番大豆の開花期であるが、水不足のため発育不全が見られる。とうもろこしについては開花期に雨が降ったため育ってはいるものの質の良いものではない。また、ユーカリの植林へも影響が出ており、特に1m以下の若いユーカリへの影響が懸念される。
ウ 現在、農牧水産省がデータを集め、必要な対策を検討している(12日エル・パイス紙、エル・オブセルバドール紙)。
(2)第一次産業GDP
昨年第三四半期の第一次産業のGDPは6.1%増となったが、これは主に小麦等の冬作物や乳製品等の農産品及び酪農生産の増加によるものである。特に酪農では、牛乳の生産量が拡大した。
(3)酪農
経済財務省によると、ドゥラスノ県でEstancias del Lago社による大型の農業プロジェクトが実施される予定である。同事業では2億2,000万ドルが投資され、3万7,000ヘクタールの土地で農業・乳製品生産・再生可能エネルギーの発電所が建設される。8,800頭の乳牛用施設の建設、年間1万6,500トンの粉ミルク生産プラント、家畜のメタンガスからバイオガスを発電する3MWのプラント、穀物油抽出用施設等が建設される同事業には、IDBも投資額の約30%にあたる6,500万ドルを支援する予定である。IDBは、同事業により当国の粉ミルクの輸出は2016年までに急増するだろうと述べている。なお、IDBによると、昨年の乳製品の輸出額は7億ドルであった。
(4)牛肉輸出
食肉協会のカプッティ情報・経済分析局長は、ウルグアイの牛肉産業は、トレーサビリティーシステムを導入しており、信用も高く、引き続きウルグアイにとってのビジネスチャンスとなっていると述べた。また、今後ウルグアイの牛肉を韓国及び日本に輸出することが出来たら、ウルグアイの牛肉の優位性が更に高まるとも述べた(29日エル・パイス紙)。
(5)ヨーロッパ向け果実輸出
ヨーロッパの金融危機の中でも、ヨーロッパのウルグアイの果実への需要は増えており、ウルグアイはドイツ・英国・オランダに柑橘類やブルーベリーなどを輸出している。今後はドイツ向け輸出を更に促進する予定(30日付「エル・パイス」紙)。
7.労働
(1)賃金指数
国家統計院(INE)によると、2011年11月の賃金指数は148.48となり、1年で13.4%増となった。民間セクターでは14.98%増、国営セクターでは10.72%増となった。民間セクターを分野別に見ると、ホテル・レストランが19.7ポイント増、商業・自動車修理が18.15ポイント増、教育が14.72ポイント増、建設が14.38ポイント増、不動産関連業が17.43ポイント増、製造業が14.6ポイント増、運輸・通信が13.23ポイント増、社会サービス・保健が13.22ポイント増、金融仲介が12.05ポイント増となった。
(2)失業保険
社会保険銀行(BPS)によると、昨年末の失業保険の対象者は2万5,775人で前年比3.9%増となった。その内、製造業関係者は6,476人(前年同期比12.7%増)、建設業は5,113人(1.8%増)、農業は3,489人(5.1%減)、商業は3,357人(0.5%増)、輸送業は(4.7%増)であった。
8.エネルギー
(1)液化天然ガスの再気化工場建設事業
液化天然ガスの再気化工場建設事業は、アルゼンチン政府による決定が送れていることでスタンド・バイとなっているが、ムヒカ大統領は本件を進めるようクレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣に指示した
。
9.自動車
(1)新車販売
昨年の新車の販売台数は、54,998台で前年同期比20%増となった。内訳を見ると、乗用車(セダン)の販売台数は、38,308台で37%増、バンの売り上げは13,127台で11%減、トラックは3,171台で13%増、バスは392台で56%増となった(31日エル・オブセルバドール紙)。
(2)中古車市場
ウルグアイでは中古車の輸入は禁止されているが、国内では販売されている。国内で販売されているのは1998年から2005年のものが大半であるが、正式登録は行われていない。最近は、中国から安価の新車が入ってきているため、中古車との価格差がほとんどなくなっているケースもあるが、中古車の販売業者は価格を下げたくないため、中古車の価格が下がらないという状況が見られる(31日エル・オブセルバドール紙)。
10.対外関係
(1)アルゼンチン
ア 税務情報交換に関する議論の当国の不動産業への影響
税務情報交換のための法案が審議されている中、アルゼンチンの不動産業者が、プンタ・デル・エステの不動産市場のオペレーションの多くが、上記法案に関する議論の影響を受けてストップしていると述べた(25日エル・パイス紙)。
イ アルゼンチン政府による輸入規制
(ア)ウルグアイの産業界は、政府がアルゼンチン政府による輸入規制に関し、より強い態度で交渉に臨むことを求めている。1月末時点で、140件以上が輸入手続きが遅れており、製品によっては、130日の遅れが出ているものもある。
(イ)クレイメルマン工業エネルギー鉱業大臣は、30日の閣議後、二国間の政治関係は良好であると述べ、貿易関係も悪くなく、今後も第3の貿易相手国として、二国間の交渉を進め、関係をより良いものにしていくと述べた(31日付エル・パイス紙)。
11.その他
(1)ゴミ処理発電
ウルグアイのゴミ処理発電にイタリア企業が関心を示しており、今後ウルグアイの県知事がイタリアを訪問する予定(15日エル・パイス紙)。
(2)輸入耐久消費財の需要
ア 2011年の輸入耐久消費財の売り上げ台数は、携帯電話が140万台、携帯パソコンが25万7,000台、エアコンが14万4,000台、バイクが9万7,000台となった。
イ また、バイクは9万7,568台輸入されたが、その大半は中国からであった。一部日本からも輸入された。冷蔵庫は16万7,250台で、主にメキシコ、中国、ブラジルやチリから輸入された。電子レンジは12万680台で主に中国から輸入された。その他、LCDは14万450台、カメラは25万5,263台、ビデオゲームは30万8,374台であった(17日付エル・パイス紙)。
(3)ウルグアイ人の海外預金
国際支払銀行によると、昨年1月から9月のウルグアイ人の海外預金額は2007年以降最低の69億9,200万ドルで、前年同期比17.2%減となった(28日エル・パイス紙)。